オピニオン/保健指導あれこれ
ここまで解明された喫煙・受動喫煙の害!

No.3 我々には「伝えるべきこと」があります! 「禁煙」ではなく「卒煙」して頂きます!

中央内科クリニック 院長
村松 弘康
<我々が伝えるべきこと>
 1. 誰があなたを「ニコチン依存」にしたのか
 2. 受動喫煙で苦しんでいる人たちの存在
 3. 子供たちへの様々な悪影響
 4. 医療経済および少子高齢化社会への影響
 5. 世界におけるタバコ規制の動向

(1)誰があなたを「ニコチン依存」にしたのか
 詳しくは知らなくても「タバコが体に悪い」ことは周知の事実です。しかし、分かっていてもやめられないのは、本人も気づかない内に「ニコチン依存」にさせられたからです。ニコチン依存症は、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-10)でも、第5章:F17「精神及び行動の障害」に分類されています1)。発がん性や多くの疾病リスクがあると知りながら吸い続ける精神状態・行動は正常とは言えないのです。

 禁煙治療は依存症の治療であり、禁煙補助薬の投与のみでは成功しません。一度は禁煙できても、再喫煙してしまうのです。多くの患者さんが、ニコチンへの身体的依存だけではなく、喫煙行為への心理的依存状態にあるからです。

 患者さんに「誰があなたをニコチン依存にしたのか」を考えて頂きましょう。これは2013年のWHO World No Tobacco Day(WHO世界禁煙デー)のポスターです2)

 多くの人たちが「タバコを吸うのは本人の自由」と考えています。しかし、発がん物質を吸いたいと思う人などいるはずがありません。WHOは「あなたはニコチンという糸で、タバコ会社に操られていませんか?」「タバコ会社から自由になってください」というメッセージを送っています。本当の自由は「吸わずにいられること」です。

 TV番組などのスポンサーになり、タバコの広告・宣伝を行い、巧妙に人々を「ニコチン依存」にしてゆくタバコ会社を、WHOは非難しているのです。

(2)受動喫煙で苦しんでいる人たちの存在
 受動喫煙の被害は、何十年も先の発がんなどの問題だけではありません。喘息の患者さんをはじめタバコの煙に敏感な人たちは、他人のタバコの煙で咳が止まらなくなり、本当に苦しんでいます。受動喫煙を受けて、実際に毎日苦しんでいる人たちがいることを、しっかりと伝えるべきでしょう。

(3)子供たちへの様々な悪影響
 喫煙は、活性酸素、一酸化炭素、発がん物質などの有害物質を体内へ取り込む行為であり、受動喫煙を含めて喫煙が人体に多大な悪影響を及ぼすことは明白です。

 WHOは、世界で毎年約600万人(6秒に1人)が喫煙で死亡し、約60万人(1分に1人)が受動喫煙で死亡していると推計しており、さらに受動喫煙で死亡した内の28%(16万6千人)は14歳以下の子供だったと報告しています3)。体が小さい子供では、少量の有害物質でも影響が強く出るのです。

 さらに親がタバコを吸えば、子供は受動喫煙を受けるばかりか、タバコを悪いものだと思わず、自分も将来タバコを吸って病気になるかもしれません。家族に受動喫煙をさせるだけでなく、子供たちの未来にも影響を与える可能性があることを伝えなければならないのです。同時に子供たちにも、充分な喫煙防止教育を行う必要があります。

 これは2014年のWHO世界禁煙デーのポスターです4)

 タバコ税を上げて、子供や若者が手を出しにくい値段にすることで、子供たちの健康や命が守られるということを、WHOは指摘しているのです。

(4)医療経済および少子高齢化社会への影響
 タバコによる害は、人体に対してだけではなく社会全体に及びます。喫煙・受動喫煙によって生じる超過医療費は莫大であり、また少子高齢化社会において、青壮年死亡の増加は社会・経済に危機的な状況をもたらします。

 子供たちの将来、また日本の将来を考える上で、「医療費削減」と「介護負担の軽減」は不可欠な政策課題です。少子高齢化社会を迎えて、多くの疾病の原因となる喫煙は、日本の将来にとって大きな問題なのです。

 THE LANCET(日本特集号. 2011年9月)の中でも述べられているように、日本人の成人死亡の主たる危険因子は「喫煙」と「高血圧」です。危険因子の第1位は喫煙であり、年間12万9千人の日本人が喫煙で亡くなっているとされています5)

 また、厚生労働省の外郭団体である医療経済研究機構の試算では、喫煙・受動喫煙による超過医療費はタバコ税収を上回るとされています。さらに、若くして喫煙で亡くなった方々が、生存していたならば納めていたはずの税金などを試算に入れると、年間に約4兆円のマイナスであると報告しているのです6)

(5)世界におけるタバコ規制の動向
 WHOは、タバコが健康だけでなく、社会、経済、環境に及ぼす破壊的な影響を懸念して、タバコ規制枠組み条約(FTCT:Framework Convention on Tobacco Control)という国際条約を制定し、世界中にタバコの有害性を警告しています7)

 世界では、すでに喫煙率ゼロを目指す取り組みがスタートしています。ニュージーランドは2025年までに、スコットランドでは2034年までに、それぞれの国民の喫煙率を5%に減らすとしており、フィンランドでは2040年までに0%にするという方針が打ち出されています。またオーストラリアのタスマニア州では、2000年以後に生まれた世代へのタバコ販売を将来にわたって禁止する法律が、全会一致で可決されました。

 世界では着々とタバコ規制が進んでおり、日本でも子供たちをタバコから守る政策が必要であることを、多くの方々に伝えて行かなければなりません。

 「喫煙は単なる健康問題ではない」ことを伝え、
 「禁煙」ではなく「卒煙」して頂きましょう!

<参考資料>
1) 融道男ほか:ICD-10精神および行動の障害 新訂版.医学書院,2005.
2) http://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/tobacco_policy/files/WNTD2013_posterJ.pdf
3) http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs339/en/
4) http://www.who.int/campaigns/no-tobacco-day/2014/poster/en/
5) http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/dl/120329_1.pdf
6) www.ihep.jp/publications/report/search.php?dl=26&i=1
7) http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty159_17.html

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