オピニオン/保健指導あれこれ
ここまで解明された喫煙・受動喫煙の害!
No.2 喫煙は「最も危険な生活習慣」です! 様々な「生活習慣病」が発症します!
中央内科クリニック 院長
2014年05月08日
喫煙は日本人の4大死因すべてを増やしますが、実は様々な「生活習慣病」の原因にもなっています。生活指導というと、すぐにメタボ指導(運動・食事指導)を連想しますが、禁煙指導がいかに重要であるかを知って下さい。厚生労働省の生活習慣病予防対策の標語にも「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」と書かれています。
(1)喫煙と糖尿病・脂質異常症
喫煙者にインスリン抵抗性が認められる事実は、以前から知られていましたが1)、その機序の解明はこれまで不充分でした。しかし最近になり、内臓脂肪やアディポサイトカイン等の研究が進むにつれ、喫煙と糖尿病の因果関係が解明されつつあります。
血中から細胞内にブドウ糖を取り込むためには、細胞の表面に入口となるグルコース輸送担体4型(GLUT-4)が発現しなければなりません。しかし、インスリンだけではGLUT-4は発現せず、脂肪細胞から分泌されているアディポネクチンの補助が必要です。
(2)喫煙とメタボリック症候群
禁煙するとしばしば体重が増えるため、メタボリック症候群の合併率が増えるのではないかと誤解されることが多いようです。しかし、単に体重が増えてもメタボではなく、血圧、糖代謝、脂質代謝が正常範囲を逸脱して、はじめてメタボとなります。
これまで述べてきたように、喫煙は血圧、糖代謝、脂質代謝というメタボの3要素すべてに悪影響を及ぼすため、メタボリック症候群の合併率を上昇させることが明らかとなっています。逆に禁煙をすると、血圧、糖代謝、脂質代謝すべてに良い影響が表れるため、禁煙後はメタボリック症候群の合併率は減少するのです。
実際、喫煙本数が増えれば増えるほど、メタボリック症候群の合併率は上昇し、禁煙してからの年数が経てば経つほど、メタボリック症候群の合併率が低下することが示されています6)。
また、禁煙後の体重増加は、虚血性心疾患による死亡リスクを上昇させることなく、禁煙によるメリットは体重増加によるリスクを上回ることが、複数の研究から明らかとなりました7)8)。
このような事実を受けて、厚生労働省もメタボリック症候群予防対策のスローガンとして、「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」を掲げているのです。
さらに受動喫煙により、喫煙者のみならず周囲の非喫煙者までがメタボリック症候群となる可能性まで示唆されています9)。
(3)喫煙・受動喫煙と寿命
2007年に厚生労働省研究班が発表した調査結果から、喫煙者と非喫煙者では平均寿命で3年半の差があることが明らかとなりました。この研究は保健所で健診を受けた約1万人を対象に20年間の追跡調査を行い、亡くなった約2000人の年齢と喫煙習慣から平均余命を算出したものですが、1日に2箱吸う人では平均余命は4年ほど短縮していました。
しかし海外では、喫煙による寿命短縮効果はさらに大きく、英国のデータでは10年の差があるとされています10)。日本では3年半しか差が出なかった理由としては、日本のように喫煙率の高い国では、非喫煙者とは言っても、いたる所で受動喫煙の機会があるため、本当に純粋な非喫煙者とは言えず、喫煙者と非喫煙者の差が少なく出た可能性などが指摘されています。
スウェーデンは世界一喫煙率が低い国で、受動喫煙を受ける機会は極めて少なく、同国で行われた疫学調査では、喫煙者の全死亡リスクは非喫煙者と比較して92%増加することが示されています11)。メタボリック症候群でさえ、全死亡リスクが36%増加するに過ぎないことと比較すると、一次予防において禁煙指導がいかに重要であるかが、よく理解できるでしょう。
以上のように、喫煙は多くの生活習慣病の原因です!
「禁煙指導」こそ「最も重要な生活指導」なのです!
<参考文献>「禁煙指導」こそ「最も重要な生活指導」なのです!
1) Targher G et al: J Clin Endocrinol 82; 3619-24, 1997.
2) Iwashima Y et al: Hypertension 45; 1094-100, 2005.
3) Foy CG et al: Diabetes Care 28; 2501-7, 2005.
4) Houston TK et al: BMJ 332; 1064-9, 2006.
5) Liu RH et al: J Pharmacol Exp Ther 310; 52-58, 2004.
6) Ishizaka N et al: Atherosclerosis 181(2); 381, 2005.
7) Clair C et al: JAMA 309(10); 1014-21. 2013.
8) http://www.massgeneral.org/about/pressrelease.aspx?id=1561
9) Michael W et al: Circulation 112; 862-9, 2005.
10) Doll R et al: BMJ 328; 1529-33, 2004.
11) Sundstrom J et al: BMJ 332; 878-882, 2006.
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