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乳がん検診に「人工知能(AI)」を導入 マンモグラフィの欠点を克服
2018年10月05日

米国のグーグル系列のディープマインドと東京慈恵会医科大学附属病院は、日本人約3万人分の乳房のマンモグラフィ画像から早期に乳がんを見つけ出す人工知能(AI)の開発に乗り出すと発表した。
マンモグラフィの欠点を克服するために
日本で乳がんと新たに診断される患者数は約7万6,000人。日本人女性が乳がんを発症するリスクは9%(11人に1人)だ。世界でも年間に160万人が乳がんと診断されている。
自治体の乳がん検診で40歳以上の女性を対象に2年に1回行われているのはマンモグラフィ検診だ。マンモグラフィではX線検査で、腫瘤(がん)や石灰化が確認できる。
マンモグラフィの年間の受診者数は全国で300万人を超える。日本乳癌検診学会によると、現在のところ、乳がんの死亡率を低下させる効果が証明されている検査方法はマンモグラフィのみだ。
しかし、マンモグラフィには、とくに若い女性の多い「高濃度乳腺」の女性では、乳がんなどの異常が発見しにくいという欠点がある。マンモグラフィー検査で、毎年数千例の乳がんが見落とされており、うち30%が検査の間に進行する「中間期がん」であることが分かっている。
乳がんは早期発見・治療できれば、5年生存率がほぼ100%で、ほとんどの人が生きられる。しかし、実際にはがんが進行してから見つかる女性が多い。早期に乳がんを正確に検出し診断する検査方法の開発が求められている。
関連情報
ディープラーニングでマンモグラフィ検査の精度を上げる
ディープマインドは米国のグーグル系列の英国の企業で、人工知能(AI)の開発を手掛けている。ディープマインドが開発した人工知能「AlphaGo」は2015年に、囲碁のトッププロを破ったことで話題になった。
ディープマインドは2018年に、英国のインペリアル カレッジ ロンドンが主導するプロジェクトに加わった。プロジェクトは、臨床医によるマンモグラフィを用いた乳がんスクリーニング検査において、AI技術がプロセスの迅速化や効率化にいかに貢献できるかを探ることを目的としている。
研究チームは、英国の乳がんの専門医や臨床医、研究者と協力し、「機械学習(ディープラーニング)」により、マンモグラフィの精度を上げる研究に取り組んでいる。
東京慈恵会医科大学附属病院は2018年10月に、このプロジェクトへの参加を発表した。ディープマインド ヘルスと東京慈恵会医科大学附属病院は、5年間のパートナーシップ契約を結び、乳がんスクリーニングを変え、乳がんの早期診断と疾病管理の向上につなげる研究に乗り出した。
同病院とディープマインドは共同で、2007年~2018年に撮影した約3万人の女性のマンモグラフィ画像の分析を行う。得られたデータは、英国で運営されているマンモグラフィの3万人分のデータベースと合わせて、AI技術により解析される。これにより、現在のスクリーニング技術よりも効果的にX線画像上でがん性組織の兆候を検出できるようになると考えられている。
研究では、同病院の約3万人の女性の匿名化されたマンモグラフィ画像および3,500例の匿名化された乳房MRIスキャン画像の共有を予定している。
世界中の女性が恩恵を受けられる技術の開発を目指す
「ディープラーニング」とは、システムがデータの特徴を学習して認識や分類を行う「人工知能」(AI)の手法。データの特徴をより深いレベルで学習し、特徴を高い精度で識別することが可能で、今回の研究ではマンモグラフィで撮影した画像の認識へ応用する。
「パートナーやデータが複数の国にまたがるプロジェクトははじめての試みだが、これによりバイアス(偏り)を極小化し、精度の高い解析ができるようになると期待している」と、ディープマインドでは述べている。英国と日本のデータを用いてアルゴリズムを訓練する方法は、バイアスを克服するための有効な手段になるという。
マンモグラフィでは、人種(民族)によって乳腺濃度にかなりの変動があることが分かっている。この違いをAIシステムに反映させれば、乳がんを高い精度で検出できるようになる可能性がある。
なお、データーペースの扱いについては、ディープマインドへの提供前に匿名化処理を行い、個人が識別できる情報を削除し、パートナー機関の管理下で世界標準のセキュリティと暗号化により保護するとしている。
日本や英国以外にも参加国は増える予定で、他国のパートナーとの協力を通じ、世界中の多くの国で利用可能な技術を開発し、潜在的に恩恵を受けられる女性が大きく増えることを期待している。
2016年にはAIで糖尿病網膜症を診断するのに成功
ディープマインドは2016年には、ディープラーニングの手法を応用し、糖尿病患者の網膜の画像から初期の糖尿病網膜症を発見する技術の開発に成功した。
世界中で糖尿病網膜症が視力障害や失明の原因の上位を占めている。早期発見して治療をすれば失明を防げるが、治療が遅れたために多くの患者が失明という事態に陥り、生活の質(QOL)を大きく低下させている。
この技術により、たとえば糖尿病のかかりつけ医が、初期の糖尿病網膜症のスクリーニング検査を診療所で小型のデバイスで行えるようになるなど、網膜症の早期発見につながる可能性がある。医療の現場でAIを使えるようになれば、専門医や眼科医を必要とする患者の助けになる。
AIを医療に役立てようという動きは、今後ますます活発化しそうだ。
ディープマインド東京慈恵会医科大学附属病院
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