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妊娠中の低栄養やストレスが子の高血圧の原因に 遺伝子レベルで解明

 妊娠中の栄養不足は生まれてくる子の成人後の高血圧を引き起こすことが知られている。胎児が過剰なストレスホルモンにさらされ、脳内の遺伝子発現を調節するメカニズムが破綻することが原因だと、東京大学先端科学技術研究センターが突き止めた。
妊娠中の栄養不足などのストレスが胎児の脳に影響
 東京大学先端科学技術研究センターは、胎生期の環境の悪化が、成人後に生活習慣病を発症させるメカニズムを遺伝子レベルで解明したと発表した。

 妊娠中の飢餓や過剰なダイエットによる栄養不足、さらには精神的なものも含めたストレスといった妊娠中の悪環境が、子の生活習慣病の原因となりうることを示した研究で、「周産期の環境整備の観点から研究をさらに進める必要がある」と研究者は述べている。

 妊娠中の母体が低栄養にさらされるなどの悪環境によって、生まれてくる子の出生体重が小さくなり、成長後にさまざまな生活習慣病を合併しやすくなることが知られている。日本を含め世界的に低出生体重が広くみられるようになっており、この問題は深刻だ。

 研究グループは、妊娠中に加わる栄養不足をはじめとする種々のストレスが胎児の脳に記録され、成長後の「食塩感受性高血圧」の発症原因となっていることが突き止めた。低出生体重の原因は世界的にいまだ解決されていない飢餓、痩身志向によるダイエットの過剰、高齢出産、妊娠中の喫煙などのほか、物理的・精神的な大きなストレスも含まれる。

 研究は、周産期におけるこれらの要因について予防や環境整備が重要であることをあらためて示したもので、また、新しい食塩感受性高血圧のメカニズムが明らかになったことで、新たな治療選択の可能性につながることが期待される。

 研究は、同センター臨床エピジェネティクス寄付研究部門の藤田敏郎フェローと森典子特任研究員、西本光宏特任助教らの研究グループによるもの。詳細は、医学誌「JCI-Insight」に発表された。

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母親の過度なやせにより、子は成人後に高血圧に エピジェネティックで解明
 生活習慣病の発症には、遺伝因子だけでなく、環境要因も深く関わっている。遺伝因子は生涯ほぼ不変だが、環境因子は経時的に変化し、一度変化すると変化を保持しやすい「エピジェネティック」な変化を起こすことで、疾患に関連する遺伝子の異常な発現を起こす。

 エピジェネティックとは、DNAの塩基配列は変わらないが、後から加わった修飾が遺伝子機能を調節しているということ。遺伝子そのものではなく、遺伝子の発現を調節するメカニズムが変化することで、遺伝子発現の変化や多様性が維持されると考えられている。

 高血圧においては、食塩の過剰摂取、運動不足による肥満や精神的ストレスなどの生活習慣の歪みが環境因子として作用する。食塩摂取による血圧上昇の程度(食塩感受性)には個人差があり、肥満や加齢によって亢進する。

 研究グループは、胎児期の高濃度コルチゾール暴露により生じた高血圧遺伝子の活性化が、エピジェネティクにより、記憶として残り、成長後に高血圧を発症させるという「DOHaD仮説」に着目。

 これは「妊娠中の母体が低栄養にさらされると、ストレスによって出生体重が小さくなり、成長後に高血圧などの生活習慣病を合併しやすくなる。そしてこの特性は遺伝する」ということ。これを環境が及ぼす遺伝子への影響で解明するカギとなるのがエピジェネティクだ。

 このことが注目されたのは、第二次世界大戦中の飢餓下で出生した子が成人した後で生活習慣病の増加したことが確かめられてからだが、現代の食糧事情の良い日本でも、若年女性に広がる痩身志向により妊娠年齢の女性の過度なやせが珍しくない。
胎児期にコルチゾールにさらされると高血圧遺伝子が活性化
 研究グループはこれまで、肥満による食塩感受性高血圧発症機序としてホルモン「アルドステロン」と、交感神経系の異常による「腎ナトリウム排泄機能障害」の2経路があると発表している。今回の研究では、脳内でのエピジェネティク変化が関与する食塩感受性高血圧の発症メカニズムを解明した。

 エピジェネティク機構の中でも、DNAメチル化は持続的な遺伝子発現の変化をきたすことから、研究グループは、妊娠時低栄養の子の高血圧発症過程におけるDNAメチル化異常の関与について検討した。

 正常妊婦では妊娠後期にストレスホルモンである糖質コルチコイドの「コルチゾール」の血中レベルが高くなると、胎盤でそれが代謝分解されるために、胎児には移行せず保護される。一方、低栄養の妊婦では、この防御機構の破綻によりコルチゾールが胎児に移行するため、胎児が高濃度のコルチゾールに暴露される。

 胎児期に高濃度コルチゾールにさらされると高血圧遺伝子が活性化し、エピジェネティク機構により記憶として残り、成長後に高血圧を発症させるというのがDOHaD仮説だ。
DNAメチル化異常の記憶が成人後の高血圧発生に関与
 研究グループはまず最初に、タンパク食(LP)を妊娠時に与えたラットと胎盤透過性の合成糖質コルチコイド(DEX)を妊娠時に投与したラットを作成。いずれのラットでもその子の出生時体重は低下する一方、成長後には過体重(肥満)となり、食塩負荷によって血圧が上昇する食塩感受性高血圧を発症した。

 そこで、このモデルラットにおける高血圧発症機序を検討するために、血圧調節を司る視床下部の室傍核(PVN)に着目し、その部位の網羅的遺伝子解析を行った結果、912個の遺伝子の発現増加を見出した。その中で、脳内レニン・アンジオテンシン系は交感神経を活性化させ高血圧を生じることから、血圧調節に関連するアンジオテンシンI型受容体(AT1a)遺伝子に焦点を当て、実験を進めた。

 エピゲノム解析の結果、妊娠時LPおよびDEX投与ラットの子のPVNでは、メチル化酵素DNMT3aの発現低下とAT1a遺伝子座への結合低下により、DNAメチル化が減少し、その結果、AT1a遺伝子発現の増加を認めた。

 培養PVN神経細胞を用いた実験においてもDEX添加により、DNMT3a の発現低下とDNA脱メチル化によるAT1a発現増加を認め、さらにDNMT3aのノックダウンにより、DEX添加と同程度にAT1a発現が増加することを確認した。

 最後に、生体内におけるDNMT3aの役割を検討するために、PVN特異的DNMT3a欠損マウスを作成したところ、同マウスでは肥満と共にLPやDEX投与を行うことなくAT1a発現増加が認められ、食塩負荷により血圧が上昇し、食塩感受性高血圧を呈した。

 これらの結果から、妊娠時低栄養による食塩感受性が原因の高血圧を発症するメカニズムとして、脳内糖質コルチコイド過剰によるDNAメチル化異常がAT1a遺伝子発現を増加させ、それが記憶として残り、成長後に食塩感受性高血圧を生じることが明らかになった。

 ストレスホルモンの増加は低栄養以外のストレスによっても引き起こされ、周産期医療の高度化と相まって出生体重の低下と低出生体重児の増加が見られる現在、妊婦の物理的、精神的ストレスが生活習慣病の増加につながっている可能性も示唆される。

 研究グループは、「妊婦の置かれた環境の整備や、妊娠中栄養摂取の見直しといった課題は生活習慣病予防の観点からも重要であり、さらに研究をすすめる必要がある」と述べている。

東京大学先端科学技術研究センター
Aberrant DNA methylation of hypothalamic angiotensin receptor in prenatal programmed hypertension(JCI-Insight 2018年11月2日)
[Terahata]

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