オピニオン/保健指導あれこれ
働く女性と乳がん -がん治療と乳房再建のいま

No.3 乳がんのあとの治療 乳房再建は当たり前の時代に?

セルポートクリニック横浜院長、 杏林大学形成外科非常勤講師
辻 直子

 これまで乳がんとその治療についてお話してきましたが、乳がん患者の多くはその治療を乗り越えて日常の生活へと戻っていきます。投薬や検査などで通院は必要なものの、運動制限などはありませんし、普段は乳がんのことを忘れて生活できる日も増えていくでしょう。


 女性としてのアイデンティティの喪失

 しかし、乳がん手術は確実に乳房に変形を残します。もちろん人によってほとんど元と変わらない形を残せる場合もありますし、全てを切除され傷やしわが目立ってしまう場合もあります。

 お風呂や着替えのたびに自身の乳房の変形を見てしまい、自分が女性らしさを失ってしまったと感じる方も多いでしょう。パートナーに見せることが出来なかったり、着替えの必要なジムや温泉旅行などに行けなくなることも多いようです。

 両乳房が揃っていることの機能性

 また、気持ちの面だけでなく、乳房が左右に大きな違いがあると、洋服が片側だけしわが寄ったり、下着や洋服が回ってずれていってしまうといった機能面での問題も出てきます。人によっては肩こりや体のバランスが悪くなったということもあります。

 乳房再建なんてやめなさい?

 10~20年前ですと、乳がんが治ったらそれだけで御の字で、乳房の変形は仕方ない、という考え方が一般的でした。乳腺外科医の中でもそのような考え方はあって、乳房再建なんて得体のしれないことをやって再発の確率が高くなったら嫌だからやめなさい、という医師もいたほどです。

 しかし、現在では乳房再建が乳がんの再発率を高めることや再発の診断に影響を与えることはないと乳がん診療ガイドラインでも認められています。

 また、QOLの観点からも、乳房再建を希望することは患者の当然の権利と言えるでしょう。欧米諸国の中には、乳がんの治療は乳房を再建するところまで含めての治療だ、というさらに進んだ考えも広まってきているようです。

 まだ日本ではそこまではいきませんが、少なくとも乳房の変形が気になる人には、希望すればだれでも乳房再建を受ける機会があります。まだまだ一般の認知度が高いとは言えませんので、医療サイドからも一般への啓蒙活動が必要な分野であると思います。

 乳房再建への障壁

 誰にでも乳房再建の機会があると申しましたが、実際にはそこに様々な障壁があります。乳房再建をするにはさらに手術や入院をする必要がありますから、家族や職場への迷惑を考えてしまったり、費用面でも負担が増えることになります。

 また、乳がんの手術後にもうこれ以上手術はしたくない、という意見も良く聞かれます。乳房再建をしたいなんて、わがままなんじゃないか―――そんな考えから、乳房再建をしたいと言い出せない人も多いのです。

 乳房再建は、しなくても生きていける、
 だけれども再建するともっと、より良く生きられる。

 乳房の変形による悩みが乳房再建にまつわる苦労を超えた時、きっと以前より自分に自信をもって前向きに生活できるのではないかと思います。

 乳房再建をしようと決めた後は、次にどの方法で乳房再建をするか決めなくてはいけません。いくつかの方法があり、それぞれの特徴があってまたそこで悩んでしまう患者も多いようです。

 次回はいくつかある乳房再建の方法についての説明をしたいと思います。

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