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アルツハイマー病で失われた記憶は取り戻せる 神経細胞を刺激
2016年03月23日
アルツハイマー病モデルマウスの脳神経細胞を刺激することで失われた記憶を取り戻すことに成功したと、理化学研究所の研究チームが発表した。
脳神経細胞を刺激し失われた記憶を取り戻す
アルツハイマー病は認知症の70%を占め、日本の患者数は9万2,000人と推定されており、高齢化が進む現代社会の大きな問題となっている。原因のひとつは、脳で「アミロイドベータ」と呼ばれるタンパク質が異常なかたちで蓄積することだ。
記憶を保持する細胞が維持されている可能性
これまでの研究で記憶の痕跡は海馬の「記憶エングラム」と呼ばれる細胞群に保存されていることが分かっている。
2005年に光遺伝学(オプトジェネティクス)という実験手法が導入された。この手法は、標的とする神経細胞のオン/オフを光照射で制御可能にする技術で、光を受けて細胞を活性化させる機能を持ったタンパク質を、遺伝子組み換えにより神経細胞に強制的に発現させる。
研究チームはアルツハイマー病のマウスの脳にある記憶エングラムに青色光を照射し、この細胞を直接活性化させた。
すると、アルツハイマー病のマウスは、実験箱に入れた時におびえるようになった。つまり、アルツハイマー病の状態にあるマウスは正常に記憶を作っているものの、記憶を思い出せないという状態にあり、記憶エングラムを刺激することで失った記憶を取り戻したと考えられる。
さらに研究チームは記憶想起の障害が、神経細胞同士をつなぎその情報伝達の効率を左右するシナプスが形成されるスパイン(棘)構造の減少と関連していることを突き止め、光遺伝学を用いてこのスパインを正常化すると記憶想起も正常化することを実証した。
「アルツハイマー病初期の患者の記憶は失われているのではなく、思い出すことができないだけかもしれません。初期の患者には記憶を保持する細胞が維持されているというのであれば、将来、これらの細胞から記憶を取り出す技術が開発されれば、障害を軽減できる可能性があります」と、利根川氏は言う。
研究に用いた7ヵ月齢の実験マウスでは、アミロイドベータの蓄積はまだ始まっていなかった。今後、アミロイドベータの蓄積以前に起こる異常を解明することで、アルツハイマー病を初期段階で治療・予防する方法を開発できる可能性があるという。
この研究は、理化学研究所脳科学総合研究センターと米国立衛生研究所(NIH)の支援を得て行われ、科学誌「Nature」オンライン版に発表された。
理化学研究所Memory retrieval by activating engram cells in mouse models of early Alzheimer's disease(Nature 2016年3月16日)
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