オピニオン/保健指導あれこれ
労働者の疲労リスク管理・効果的な休み方
―過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の成果と職域での取り入れ方

No.3 労働者の疲労回復3原則:疲れたら休む、休める、休ませる

労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所
過労死等防止調査研究センター 上席研究員
久保 智英

よくよく考えると変な日本独特の挨拶

眠そうな男性

「お疲れさまです」。

 この挨拶、読者の皆さんも日常生活の中でよく使っていませんか? 無理やり英訳すると「Thank you for your fatigue」でしょうか? しかし、よくよく考えると「疲労」が挨拶の言葉として使われているのは変だと思いませんか?

 一説によれば、江戸時代から同じように「お疲れさまです」という挨拶が使われ続けているそうです。この言葉が使い続けられてきた理由を考えると、日本人の労働者の働き方に対する意識が見えてくると思います。それは「一生懸命、頑張って働くことは良いこと」という労働観です。したがって、今は変わりつつありますが、長く職場に残って働いている人は尊敬に値するという価値観が根強く残っています。

 「過労死」という言葉は日本で生まれて、現在は「Karoshi」という国際語にもなってしまいました。このことを考えると上述したような労働観は、考え直さなければならない時期に来ていると、筆者は思っています。

 今回は、私たちの日常生活の中で身近な存在でもある「疲労」について解説していきたいと思います。

疲労は「悪者」ではなく「味方」

 読者の皆さんは、疲れたらどうしていますか? 仕事が忙しい時は、疲れていても無理して働き続けてしまうことが結構あるのではないでしょうか。実は、私もその一人です。ただし、労働者の疲労回復の一番の対策はシンプルに休むことです(病気による疲労は除きます)。サプリメントやエナジードリンクでもなく、休むことが最も効果的な疲労対策です。

 ちなみに、疲れた時にコンビニなどに売っているエナジードリンクを買って飲みたくなる気持ちはよく分かりますし、たまに私もそうすることがあります。しかし、エナジードリンクは疲労に気づきにくくしているだけで、疲労回復をしている訳ではありません。

 労働者の疲労は、身体から発せられている「これ以上は働かないで、休んで!!」という重要なメッセージです。それを無視して働き続けると、休んでもなかなか疲労が回復しない「過労」にシフトします。過労状態に陥れば、健康も害しますし、安全にも働けません。生活の質も低下します。人間関係も悪化することでしょう。

 したがって、疲労は悪者ではなく、私たちが人生をよりよく過ごすための味方だということを、ご理解いただければ幸いです。

労働者の疲労回復3原則:レスタビリティを高めること!

 では、疲労を過労にシフトさせないためには、どうすれば良いのでしょうか? それは労働者の疲労回復3原則を個人・集団・社会レベルで守ることなのではないかと思っています。

 私が考える3原則とは、以下の通り、疲れたら「休む・休める・休ませる」ことです。

原則1:「休む」は労働者本人の意識や行動の選択としての個人レベルの話
原則2:「休める」は職場の「空気」等の集団レベルの話
原則3:「休ませる」は法律や制度等の社会レベルの話

 そして、各レベルにおいて「休む力」という意味での著者の造語ですが、「Rest」と「Ability」をくっつけた「Restablity(レスタビリティ)」を高めることが重要です。

原則1「疲れたら休む」

 疲労を過労にシフトさせないための個人レベルの原則1「疲れたら休む」について解説します。

 上述したように、疲労は身体から発せられる休息欲求という役割があります。つまり、「仕事に集中できなくなる」「これ以上、仕事を続けるのが嫌だなと思う」、あるいは「ミスが多くなる」などの場合は、休んだ方が良いタイミングであるということです。そのタイミングを逸して、身体からのサインを無視して働き続けてしまうと、回復可能な疲労状態から、なかなか回復できない過労状態にシフトしてしまいます。

 したがって、疲れた時には少し席を離れたり、お茶を飲んで小休憩をとる、あるいは早めに帰宅したり、有給休暇を取得するなどの対処をしなければ、安全に健康に生産的に働くことができません。むしろ、先ほど述べたようなエナジードリンクなどを飲んで無理して働き続けることの方が、一時的な気休めになるかもしれませんが、長い目で見れば、結果的に良い働き方をすることはできなくなります。

 そこで、効果的な休み方に関する「DORAMMAモデル」をご紹介します。このモデルはアメリカのNewmanらが2014年に提唱したものが元になっていて[1]、国内外の疲労回復、ストレス解消に関する研究をレビューした結果、6つの要素が重要であるとして、それらの頭文字をとって「DORAMMAモデル」と呼んでいます(図1)。

(画像をクリックすると、大きな画像が表示されます)
図1 DORAMMAモデル
図1 DORAMMAモデル

Newman, D. B., Tay, L., & Diener, E. (2014). Leisure and subjective well-being: A model of psychological mechanisms as mediating factors. Journal of Happiness Studies: An Interdisciplinary Forum on Subjective Well-Being, 15(3), 555–578. https://doi.org/10.1007/s10902-013-9435-x

「DRAMMA」モデルの6つの要素

  • Detachment(仕事からの離脱)
    ディタッチはオフには仕事の拘束から物理的に離れるだけでなく、心理的にも離れることが重要だということです。たとえば、帰宅後や休日に仕事のメールを見ることはお勧めできません。
  • Relaxation(リラックス)
    リラックスはあまり活発に動かずに心理生理的にくつろぐことで、ヨガとか瞑想などが当てはまります。
  • Autonomy(自律)
    オートノミーは自分の余暇のスケジュールや何をするか?について自分で自由に決めて過ごすことです。
  • Mastery(習熟)
    マスタリーは何か新しいことにチャレンジしたり学んだりすることです。
  • Meaning(自分の価値観)
    ミーニングは自分の人生に意義を与えてくれるような活動で、たとえばボランティアなどが当てはまります。
  • Affiliation(人間関係)
    アフィリエーションは他の人との関係性を持つような過ごし方を意味しています。

 もちろん、これらすべてを満たすオフを過ごす必要はありませんが、オンとオフのメリハリがつきにくくなっているalways-on workの現代社会では、ディタッチすることはとりわけ重要だと著者は思っています。

原則2「疲れたら休める」

 「お休みをいただきます」とか、「お休みをして申し訳ありません」という表現、皆さんも使っていないでしょうか?

 原則2は集団レベルのお話です。これまでご説明してきたとおり、「疲れたら休む」が疲労を過労にシフトさせない対策として重要なのですが、それを阻む一番の要因は職場の「空気」です。日本には「滅私奉公」という言葉があるように、昔から「休むこと=怠けている」という価値観や、自分の生活を犠牲にして働くこと、たとえば徹夜や休みなしで働くことをポジティブに捉える空気が根強く残っています。

 科学的なデータでも、そのような働き方は安全性・健康性・生産性を悪化させることが明らかなのですが、就「職」ではなく、就「社」文化の日本では、ことさら休むことへの優先度が低いのです。最近になって、やっと睡眠の重要性が注目されるようになり、関連する書籍やグッズ、ウェアラブルデバイス等のツールも普及しているので、ようやく休み方の価値が認められてきました。

 「ちゃんと休まないと、どうなるか」を端的に示す次のような研究もあります。皆さんは「プレゼンティーズム」という言葉をご存知ですか? プレゼンティーズムとは「何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態」を意味します。

 たとえば、風邪を引いて辛いのに無理に出勤して働き続けている状態がその例になると思います。プレゼンティーズムがどれぐらいの経済損失を与えているのかを推計した研究では、精神疾患で年間約3.5兆円、首の痛みや肩こりで年間約3.1兆円、腰痛で年間約3.0兆円という結果が示されています[2]

 このデータが示すように「疲れたら休む」ことを妨げる職場の「空気」は、生産性という視点でも改める必要のある「日本の労働観」であることがおわかりいただけると思います。

 また、参考のため、労基法36条に定められた有給休暇(年次有給休暇)の趣旨をお示しします。有給休暇とは「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、また、ゆとりある生活の実現にも資するという位置づけから、法定休日のほかに毎年一定日数の有給休暇を与える制度」と謳われています。

 したがって、法律の理念としても「疲れたら休める」ことが保障されているので、その点も、お忘れなきようお願いいたします。

原則3「疲れたら休ませる」

 最後は社会レベルの対策です。上述してきた個人レベル・集団レベルは、ある意味、働き手の自助努力も求める対策です。しかし、正直、いくら労働者が休むことへの努力・行動をしていても、社会がそれを許さない(認めない)状況では、労働者の努力は実りづらいままです。

 日本の働き方をより良いものにするための「疲労を過労にシフトさせない対策」には、ここで説明する、社会レベルで「疲れたら休ませる」ことがとても重要だということと、それに加えて、個人・集団・社会の3つのレベルで重層的な対策を継続的に実施していくことも大切であると考えます。

 では「疲れたら休ませる」とは、どのようなことを意味するのか? それは社会として疲労を過労にシフトさせないような制度づくりを意味します。具体的には現在、新しい過重労働対策として期待されている「勤務間インターバル」や「つながらない権利」(詳しく知りたい方は こちらの動画<第134回労働政策フォーラム:働く人々の疲労回復におけるオフの量と質の確保の重要性─勤務間インターバルと『つながらない権利』>をご覧ください)などのワークルールが該当します。

 これらのワークルールが普及することについては、筆者も長年、研究に携わってきた身として非常に期待していますが、「勤務間インターバル」「つながらない権利」のどちらか一方ではなく、セットでなければ、その効果が十分に発揮されないものだと思っています。また、勤務間インターバルは「導入すれば万事OK」というものではないことを、研究に着手した当時(2013年頃)から指摘してきました[3, 4]

 その理由は図2に示す通りです。

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図2 睡眠の規則性(A)と睡眠時間(B)における累積生存率
図2 勤務間インターバルからみた生活シミュレーション

 勤務間インターバルが11時間の場合、18時を定時とすれば22時まで働けるので1日4時間の残業が可能になります。月の労働日が20日だとすれば月に80時間の残業が許容されることになります。「勤務間インターバル」という言葉こそ耳新しいですが、その本質は、これまで言われてきた過労死ラインの働き方を防ぐという意味と同じところにあるので「最後の砦」という意味合いが強いのではないかと著者は考えています。

 もちろん「勤務間インターバル」という新しい言葉ができたことで、休み方に注目が集まったという点では非常に高く評価できるので、今後、勤務間インターバルの普及が進んでいくことを期待しています。

 ただ、図2のシミュレーションを作った時には実際のデータがありませんでした。そのため、勤務間インターバル11時間での睡眠時間を6時間として表現していましたが、その後、筆者や同僚の池田大樹主任研究員とともに行った調査の結果(図3)、この時間で確保できる睡眠は約5時間だということがわかってきました。

図3 勤務間インターバルの長さと睡眠時間の関係
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図3-1 【1か月間の連続観察調査】勤務間インターバルの長さと腕時計型活動量計による睡眠時間

Kubo T, Izawa S, Tsuchiya M, Ikeda H, Miki K, Takahashi M. Day-to-day variations in daily rest periods between working days and recovery from fatigue among information technology workers: One-month observational study using a fatigue app. J Occup Health. 2018 Sep 26;60(5):394-403. doi: 10.1539/joh.2018-0073-OA.

(画像をクリックすると、大きな画像が表示されます)
図3-2 【大規模質問紙調査】勤務間インターバルの長さと調査票による睡眠時間

Ikeda H, Kubo T, Sasaki T, Liu X, Matsuo T, So R, Matsumoto S, Yamauchi T, Takahashi M. Cross-sectional Internet-based survey of Japanese permanent daytime workers' sleep and daily rest periods. J Occup Health. 2018 May 25;60(3):229-235. doi: 10.1539/joh.17-0165-OA.

 具体的には、3,867名の常日勤者を対象とした池田氏の大規模アンケート調査[5]では、勤務間インターバルが10時間で睡眠時間が平均5.8時間であったのに対して、筆者が行った55名のIT労働者を対象とした調査(1カ月間、毎日繰り返して腕時計型活動量計で測定)では、11時間未満の勤務間インターバルで平均5.1時間でした[6]

 つまり、両方の調査を併せて考えると、「11時間の勤務間インターバルで確保できるのは、大体1日5時間ぐらいの睡眠だろう」ということが導き出されます。

 したがって、さまざまな知見から1日5時間の睡眠時間を下回ると、健康や安全に関して望ましくない影響がみられるため[7]、11時間の勤務間インターバルは上述したように「最後の砦」という意味合いが強いことがご理解いただけると思います。

 また、勤務間インターバルが健康や安全を確保するために良いということはわかっていても、現実問題、どのように導入するかが問題になると思います。その点について筆者がこれまで主張してきたのは、職場の特性に応じた導入方法が望ましいということです。

 ルールベースで「一律に11時間未満の勤務間インターバルを守ってください」というやり方では、そもそも長時間労働が常態化している職場ではおそらく守られないケースが多くなり、導入されたとしても、しばらく時間が経つと形骸化することでしょう。個々の職場で働き方が異なるのは当然です。そうならないためにも、職場の安全衛生委員会などで労使や産業保健スタッフも含めて話し合って、その職場に見合った勤務間インターバルを徐々に作り上げていくプロセスが、実効性のある普及に向けて必要でしょう。

 そして、この「個々の職場にあわせて」「徐々に」という視点は、勤務間インターバルだけではなく、「つながらない権利」等のような「疲れたら休ませる」ためのワークルールを推進する上でも重要になります。

まとめ:未来の職場の「空気」をより良くするために

 以上、労働者の疲労回復3原則について解説してきました。これまで述べてきたことは「理想」であることは、私も十分理解しています。今すぐ行うべき、絶対守りましょうなどと言うつもりも、まったくありません。実践することにハードルがあることも理解しています。

 ただ、私たちの働き方は長い目で見れば確実に変化しています。というのも、職場の室内でタバコを吸う従業員がいて部屋が煙で真っ白になっていたことや、セクハラ・パワハラが当たり前だった時代がありました。しかし、現在では、それらのことは「やってはいけないこと」として広く認知されるようになっています。

 そのような意味で言えば、今回私が述べたことも、10年ぐらいすると当たり前になっているかもしれません。そのためには、組織や社会での改革が大前提ですが、いま現在、働いている私たちも自分たちのできる範囲で職場の「空気」をより良くするための努力が大切なのだと思います。

 最後まで、この文章を読んでいただき、ありがとうございました。


参考文献
[1]Newman, D. B., Tay, L., & Diener, E. (2014). Leisure and subjective well-being: A model of psychological mechanisms as mediating factors. Journal of Happiness Studies: An Interdisciplinary Forum on Subjective Well-Being, 15(3), 555–578. doi: 10.1007/s10902-013-9435-x
[2] Yoshimoto T, Oka H, Fujii T, Nagata T, Matsudaira K. The Economic Burden of Lost Productivity due to Presenteeism Caused by Health Conditions Among Workers in Japan. J Occup Environ Med. 2020 Oct;62(10):883-888.
[3]久保智英. 過重労働対策としての勤務間インターバル制度の可能性と課題,産業医学レビュー, 30(2) 107-138, 2017.
[4] 久保智英. 近未来を見据えた働く人々の疲労問題とその対策を考える-オンとオフの境界線の重要性-, 労働安全衛生研究, 10(1) 45-53, 2017.https://www.jstage.jst.go.jp/article/josh/10/1/10_JOSH-2016-0007-SHI/_article/-char/ja
[5] Ikeda H, Kubo T, Sasaki T, Liu X, Matsuo T, So R, Matsumoto S, Yamauchi T, Takahashi M. Cross-sectional Internet-based survey of Japanese permanent daytime workers' sleep and daily rest periods. J Occup Health. 2018 May 25;60(3):229-235. doi: 10.1539/joh.17-0165-OA.
[6] Kubo T, Izawa S, Tsuchiya M, Ikeda H, Miki K, Takahashi M. Day-to-day variations in daily rest periods between working days and recovery from fatigue among information technology workers: One-month observational study using a fatigue app. J Occup Health. 2018 Sep 26;60(5):394-403, doi: 10.1539/joh.2018-0073-OA.
[7] Cappuccio FP, D’Elia L, Strazzullo P, and Miller MA. Sleep duration and all-cause mortality: a systematic review and meta-analysis of prospective studies. Sleep 2010; 33: 585-592.

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