オピニオン/保健指導あれこれ
禁煙指導のかんどころ

No.4 禁煙指導の研究的取り組み

勤労者健康科学研究所
斎藤 照代

 私が研究に本格的に取り組み始めたきっかけは、大学院でのある講義でした。私は大学院では、「医療政策」を専攻し、社会学者の立場から日本の医療の在り方について提言をするという内容の講義でした。

 講義では、保健師の地域での様々な取り組みも紹介され、保健師活動は、歴史的に見ても先駆的であり画期的であったと称賛し、同じ保健師の立場として先輩保健師たちの輝かしい活動を誇りに思いました。

 しかし、先生は最後に「ただ今後、保健師が公衆衛生の高度専門職としてのその立場を確立できるかどうか、今大きな岐路に立たされている。」と続けました。

 その理由の一つとして、研究を取り上げました。「多くの保健師は、素晴らしい活動をしているが、それを研究として発表し、論文としてまとめるという作業をあまりしてこなかった。同じ医療の専門職である医師と比べて圧倒的に論文が少なすぎる。しかし、それでは、高度専門職として揺るぎない立場を確立することは難しい。もっと研究し論文を書かなければいけない。」

 この言葉は、私にとって非常に衝撃的なものでした。私自身、自らの長い産業保健師のキャリアに比し研究は、多いとは言えない事実がありました。これを機にもっと研究に力を入れなければと思うようになりました。

 幸い研究は、私の日常業務の一つであり、いくらかの研究費も予算として獲得していました。そこで取り組んだのは、私自身のライフワークである「喫煙対策」の研究です。

 喫煙対策は、海外においては多くの国や都市が取り組み個人のみならず社会の禁煙化を促す効果的な手法です。日本は、明治33年に「未成年者喫煙禁止法」を世界に先駆けて実施して以来、平成8年の「職場における喫煙対策のためのガイドライン」、平成14年の「健康増進法」ができるまで、効果的なタバコ政策は、ほぼ打たれてこなかった現状があります。

 そこでH22年に実施された、日本初の罰則付きの公共建物内禁煙を謳った「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」の研究を皮切りに、全国9つの労災病院勤労者予防医療センター保健師の研究チームで、職域において効果的な受動喫煙対策を推進するための研究に着手しました。

 3年間に及ぶ研究成果は、日本禁煙科学会等、多くの学会で発表し、3年連続学会から「優秀演題賞」を受賞しました。また研究結果は、論文にまとめ学会誌に投稿し査読を経た後、学会誌に掲載されました(禁煙科学 7巻(2013)-11-P3-P16)。

 本研究では、全国6,373事業所へのアンケート調査と214事業所の受動喫煙対策別の微小粒子状物質(PM2.5)の測定、143名の従業員の尿中コチニン測定を行い、次のようなことが明らかとなりました。

 禁煙化された施設は、分煙施設、受動喫煙対策なし施設と比較し喫煙率も定期健康診断の有所見率も低いことがわかりました。また214事業所の受動喫煙対策別のPM2.5測定結果は、屋内禁煙以外の施設の喫煙可能区域の全てと、分煙施設においても約8割が、禁煙側へタバコ煙の漏れが確認され、いずれも、WHOが「人体に対して影響がない(24時間の短期曝露)」レベルとしている25μg/m3を上回る空気環境でした。143名の従業員の尿中コチニン測定結果から全面禁煙以外の施設での受動喫煙を示唆する結果と一致しました(表)。

 以上のことから、勤労者の健康を確実に守るためには、職場が「禁煙化」されていることが重要であることが明らかとなりました。

 本研究成果は、パンフレット「分煙じゃダメ!」にまとめ全国の産業保健総合支援センター等に配布予定です。禁煙化の重要性の科学的根拠とともに職場の禁煙化の方法についても掲載しています。興味のある方は、ぜひ論文とともにご一読いただけたらと思います。


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