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腸内の善玉菌が少ないとうつ病リスクが上昇 腸内環境とメンタルヘルス

 腸内のビフィズス菌などの善玉菌が少ない人はうつ病リスクが高いことが、国立精神・神経医療研究センターとヤクルト本社の研究で明らかになった。
うつ病の治療で注目される「腸―脳相関」
 うつ病の治療を受けている患者の数は70万人で、治療を受けていない罹患者はその3~4倍に上ると推定されている。うつ病の原因として、神経伝達物質の異常、ストレス反応における内分泌学的異常、慢性炎症などの生物学的な要因が考えられているが、いまだに不明な部分が多い。

 一方、ヒトの腸内には重さにして約1~1.5kg、1000種類以上もの腸内細菌が生息し、食物からの栄養素の吸収、ビタミンやタンパク質の合成、体外からの新たな病原菌の侵入の防止など、多岐にわたる重要な機能を担っている。

 最近の研究では、腸内細菌は脳の機能にも影響を与えることが分かっており、「腸―脳相関」が注目されている。

 うつ病の動物モデルを用いた実験で、うつ病様の行動異常やストレス反応において腸内細菌が関与しているという報告が増え、ビフィズス菌や乳酸菌といったいわゆる善玉菌はストレス反応を和らげると考えられている。

 また、健常者でのストレス症状に対するプロバイオティクス(生きた善玉菌を含む食品)の効果を報告した研究も増えている。

 しかし、これまでうつ病患者を対象として腸内細菌の構成や菌数を健常者と比較した研究はほとんどなく、うつ病患者の腸内細菌において、善玉菌が多いか少ないかについて具体的なエビデンスが求められていた。
ビフィズス菌が少ないとうつ病リスクは3倍に上昇
 今回の研究では、43人の大うつ病性障害患者と57名の健常者を対象に、被験者の便を採取して、ビフィズス菌と乳酸桿菌(ラクトバチルス)の菌量を測定し比較した。

 その結果、ビフィズス菌およびラクトバチルスの菌数のそれぞれの単純な比較では、うつ病群は健常者群と比較してビフィズス菌が有意に低下しており、ラクトバチルスの総菌数も低下傾向が認められた。

 ビフィズス菌の便1グラム当たりの量は、うつ病患者で約32億個、健康な人では約100億個だった。うつ病群と健常者群とを区別する最適の菌数(カットオフ値)を求めたところ、ビフィズス菌が約34億個以下だと、うつ病の発症リスクは3倍に上昇することが判明した。

 ラクトバチルス菌については、うつ病患者が79万個、健康な人が398万個だった。ラクトバチルス菌が約309万個以下であると、うつ病の発症リスクは2.5倍になった。
 また、被験者のうち、過敏性腸症候群を合併している人の割合が、健常者群では12%であったのに対し、大うつ病群では33%と、大うつ病群では健常群に比較して有意に多いことも分かった。さらにビフィズス菌やラクトバチルスの数が上記のカットオフ値より低い人は、過敏性腸症候群症状をもつリスクが高いことも明らかになった。

 腸内細菌の構成には日常の食生活が深く関係している。ビフィズス菌や乳酸菌を多く含む乳酸菌飲料、ヨーグルトなどの摂取頻度と腸内細菌の関係を調べたところ、うつ病患者の中で週に1回未満した摂取していない人は、週1回以上摂取している人に比べ、腸内のビフィズス菌の菌数が有意に低いことが分かった。

 「乳酸菌飲料やヨーグルトなどのプロバイオティクスの摂取がうつ病の予防や治療に有効である可能性がある。今後は、プロバイオティクスを投与した介入研究に取り組み、新たなうつ病治療の開発につなぎたい。さらに、善玉菌のうちどの種類の菌がうつ病の治療や予防に効果があるかについても解明していきた」と、研究者は述べている。

 同成果は、NCNP 神経研究所 相澤恵美子研究員、功刀浩部長、ヤクルト本社 辻浩和室長らの研究グループによるもので、5月24日付けのオランダ科学誌「Journal of Affective Disorders」オンライン速報版に掲載された。

国立精神・神経医療研究センター
[Terahata]
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