肥満やメタボの人に「不規則な生活」はなぜNG? 概日リズムが乱れて食べすぎに 太陽光を浴びて体内時計をリセット

ヒトの体には、ほぼ1日の周期で体内リズムを調整する「体内時計」の機能がそなわっている。
体内時計が乱れて、概日リズムに異常があらわれると、糖質や脂肪の多い高カロリーの食品を食べたくなり、肥満やメタボのリスクが上昇することが明らかになった。
体内時計の乱れは、肥満や糖尿病につながり、心臓病のリスクを高めることも示されている。
朝に太陽光などの強い光を浴びると、体内時計をリセットでき、生体リズムを整えられることが分かった。
高カロリーの食事は脳の体内時計を乱しやすい 食欲を増進
ヒトの体には、ほぼ1日の周期で体内リズムを調整する「体内時計」の機能がそなわっており、ホルモンの分泌や代謝、睡眠などに関わる概日リズムを調整している。
しかし、高カロリーの食事をとることを習慣にすると、脳内の体内時計が乱れて、食事がもたらす快楽に対する欲求がさらに強くなり、肥満につながりやすいことが、米バージニア大学の研究で明らかになった。
脳にも、毎日の生理的リズムを調節する体内時計がそなわっており、脳内の神経伝達物質であり、運動機能、認知機能など中枢機能の調節や報酬系に関与するドーパミンの生成にも影響する。ドーパミンの分泌は、やる気や幸福感、意欲などにも関わっている。
研究グループは、カロリーや脂肪などを調整した食餌を与え続けたマウスは、活動や休息などのリズムが安定しやすく、健康的な体重を維持できるが、糖質や脂肪を多く含む高カロリーの食餌を与え続けたマウスは生活リズムが乱れ、間食を1日中行うようになり、肥満になることを確かめた。
肥満になったマウスでは、脳内のドーパミンのシグナル伝達に異常があらわれ、概日リズムが狂いやすくなっていた。生活のリズムが乱れることで、高カロリーの食品に対する欲求がさらに高まるとみられている。
さらに、概日リズムの乱れたマウスは、同じカロリーの食餌を与えても、過剰なカロリーが体に脂肪として蓄積されやすいことも分かった。これらは肥満や糖尿病などの代謝性疾患のリスクを高める。
現代人の生活様式は生体リズムを乱しやすい
不健康な食事や運動不足により、体重が増加すると、心臓病、糖尿病、高血圧、がん、認知症などのリスクが高まることが知られている。
「多くの国で、食生活は過去50年で劇的に変化し、高カロリーの超加工食品などを、昼夜を問わず、いつでも簡単に安価に手に入れられるようになっています。こうした食品の多くは、糖質、炭水化物、塩分が多く含まれます」と、同大学生物学部のアリ ギュラー教授は言う。
大量生産・大量消費の社会が到来する前は、多くの人は夜明けとともに起きて1日を開始し、日中に働いて、体を動かす労働も行い、そして日が沈み暗くなると眠りについていた。体内リズムを調整する体内時計が昼夜の変化に同調しやすかったとみられる。
「現代人は夜も電灯をつけっぱなしにして生活し、食事も好きな時間に好きなだけ食べるようになり、体をあまり使わず運動不足が一般化しています。不規則な時間に摂取した高カロリーの食品は脂肪として蓄積されやすく、それが肥満の原因になります」と、ギュラー教授は指摘する。
概日リズムが正常だとインスリンに対する感受性が高まる

体内時計の乱れは、肥満や糖尿病につながり、心臓病のリスクも高めることが、米国のヴァンダービルト大学による別の研究でも明らかになっている。
研究グループは、体内時計の働きと代謝のさまざまな側面について調べ、体内時計の乱れがインスリン作用の24時間周期に影響することを明らかにした。
「血糖値を調整するインスリンの働きは、肥満などの要因により低下することがあり、インスリン抵抗性と呼ばれています」と、同大学分子生理学・生物物理学部のオーウェン マクギネス教授は言う。
「研究では、細胞のインスリンに対する反応は、概日リズムの影響を受けることを、実際にそれを測定し明らかにしました」としている。
研究グループは、体内時計の正常な機能に必要な遺伝子を除去したマウスは、概日リズムが乱れ、インスリン抵抗性が起こり、体に余分な脂肪が蓄積され肥満になることを確かめた。
さらに、常時照明のある環境に置かれ概日リズムを乱したマウスは、食べる量が少ないにもかかわらず、体脂肪が増え肥満になり、それにともないインスリン抵抗性や、糖尿病と心血管疾患のリスクが高まった。
「24時間周期の体内時計が正常に動作していると、インスリンに対する感受性が高まり、血糖値の調整を改善しやすくなると考えられます」と、マクギネス教授は述べている。
最適なタイミングで光を浴びて生体リズムを整える
朝に太陽光などの強い光を浴びることで、体内時計をリセットでき、生体リズムを整えられるという研究が発表された。
現代の24時間活動をしている社会では、生活パターンが不規則となりやすく、太陽のリズムと関係のない生活をしている人は多い。
そのため体内時計がずれてしまい、生体リズムに異常をきたし、多くの人は睡眠障害などの不調があらわれている。
目から入った光は、脳の視床下部にある視交叉上核に伝わる。この神経核は、睡眠や覚醒などの概日リズムを支配する体内時計の中枢とみられている。
朝に太陽光を浴びるのが難しいという人のために、高照度光療法器具などを使った、人工的な強い光による光療法も開発されている。
米国のコロラド大学は、時間のタイミングをはかりながら強い光を浴びる光療法により、概日リズムを調整でき、心臓に良い影響があらわれるという研究を発表した。
「概日リズムは、心臓血管系の機能にも影響します。血圧と心拍は1日のなかで明確なパターンをたどり、昼間にピークに達し、夜間に低下します。これが乱れると、心筋梗塞や心不全などの心臓血管疾患があらわれやすくなります」と、同大学医学部麻酔科のトビアス エックル教授は言う。
エックル教授は、概日リズムと健康の関連について長年研究しており、1日の適切なタイミングに強い光を浴びることが、体の治癒力を高め、虚血性心疾患などの可能性を減らすことなどを確かめてきた。
研究グループはすでに、手術後の患者に対して光療法を行い、心臓発作や脳卒中の兆候となるタンパク質であるトロポニンの値が低下するなど、良好な結果を得ているという。
「概日リズムは、心臓血管の健康にも重要な役割を果たしており、光を使った治療を食事療法などと組み合わせた治療は、心血管疾患を発症した患者さんにも有用と考えられます。ヒトを対象としたさらなる研究が必要とされています」と、エックル教授は指摘している。
When You Eat Might Be As Important As What You Eat (バージニア大学 2020年1月2日)
Dopamine Signaling in the Suprachiasmatic Nucleus Enables Weight Gain Associated with Hedonic Feeding (Current Biology 2020年1月20日)
Circadian clock linked to obesity, diabetes and heart attacks (ヴァンダービルト大学 2013年2月21日)
Circadian Disruption Leads to Insulin Resistance and Obesity (Current Biology 2013年3月4日)
Therapy Using Intense Light and Chronological Time Can Benefit Heart: Study shows circadian rhythms critical in circulatory system health (コロラド大学 2024年3月14日)
Circadian Mechanisms in Cardiovascular and Cerebrovascular Disease (Circulation Research 2024年3月14日)


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