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「自分で測り健康データを収集」 5000人規模のコホート研究 東北大学
2017年06月07日
東北大学は、東北メディカル・メガバンク機構とオムロン ヘルスケアが、日常生活のモニタリングで得られた検査値と高血圧などの疾病の関連を明らかにするための、共同研究を開始したと発表した。
5,000人参加のコホート調査を開始
今回の研究には、東北メディカル・メガバンク計画の一環としてコホート調査の参加者5,000人が参加する予定だ。
オムロンの「尿ナトカリ計」、活動量計、睡眠計を配布し、尿中のナトリウムとカリウムのバランス(塩分と野菜や果物の摂取バランス)・身体活動量・睡眠状態を10日間にわたって自ら測定してもらい、そのデータと家庭血圧などの測定値との関連を検討し、さらに遺伝情報や生活習慣情報など要因を考慮に入れた総合的な解析を行うことで「自分で測り自分で創る健康社会」の基盤構築を目指すという。
健康な社会の実現のためには、一人ひとりが日々の自分の健康状態を把握し、病気を未然に防ぐことが重要だ。中でも、高血圧は身体活動、食事、睡眠といった生活習慣が大きな要因となって引き起こされることが明らかになっている。
こうした生活習慣と高血圧との関係はこれまでに多くの調査が行われてきたが、特に大規模な調査では、自己申告型のアンケート調査が多く使用されており、自己申告型のアンケートが、その人の生活習慣の実態を正しく反映しているか、申告された量が妥当かを客観的に評価することに課題があった。
さらに、これまでの研究では、身体活動・食事・睡眠それぞれが独立に評価されてきたが、これらは相互作用を及ぼす生活習慣のため、全てを同時に測定し、総合的に評価することが求められていた。
尿中のナトリウムとカリウムを測定する機器を開発
一方で、近年の測定機器の進化によって、家庭での生活習慣をこれまでより簡便かつ正確に測定することが可能となってきた。身体活動を測定する機器、ナトリウム(塩分)とカリウム(野菜や果物)の摂取バランスを測定する機器(尿ナトカリ計)、睡眠を計測する機器などだ。
これらの機器のうち「尿ナトカリ計」については、東北メディカル・メガバンク機構、オムロン ヘルスケアがともに参加しているセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラム東北拠点において、市町村の健康診査・保健指導での活用を進めてきた。
その結果、尿ナトカリ計がコホート対象者に十分使用可能であること、さらにこれらの機器を大規模ゲノムコホート注 研究で活用することにより、遺伝子に応じた生活習慣と健康関連指標の関連を高精度で評価する可能性が明らかになった。
日本人の要介護認定の原因疾患の第1位は脳血管疾患で、その要因は高血圧だ。高血圧の原因として高塩分食が挙げられるが、ナトリウム量の減少に反応して血圧が低下する者とそうでない者がいること、簡便な塩分摂取量の評価法がなかったことから、減塩指導はなかなか成果をあげにくかった。
食事中の塩分摂取量のゴールドスタンダードは、24時間蓄尿で測定される尿中ナトリウム排泄量で、一般の人に測定してもらうのは非常に困難だ。
随時尿で測定された尿中ナトリウムやクレアチニンから24時間尿中ナトリウム排泄量を推定する計算式も普及しつつあるが、1回の随時尿からの推定であり、個々人の塩分摂取量を代表する値になりうるかどうかは議論が分かれている。
一方、近年研究用に開発された「尿ナトカリ計」は、1回の測定では24時間蓄尿のナトカリ比との相関は中程度であるものの、極めて簡便に測定でき、かつその結果を測定者が自分の目で確認できるという利点がある。
さらに、測定が簡便なため自宅に持ち帰ってもらえば、数日間の測定をしてもらうことができる。
また、塩分(ナトリウム)と野菜や果物(カリウム)の摂取比を高いレベルで推定できる「尿ナトカリ計」は、測定したナトカリ比の7日間の測定値が、24時間蓄尿で得られたナトカリ比と極めて高い相関を得られることが確かめられている。
日常生活のモニタリングと健康データとの関連を解明
カリウムについては、体内のナトリウムを排出させる作用があり、欧米のDASH食研究の結果ではカリウムを多く摂取し、ナトカリ比を低く抑えることにより血圧の上昇を抑制することができることも知られており、塩分摂取量の測定と同様な食事習慣の指標として注目されている。
今回の共同研究では、東北メディカル・メガバンク機構が対象者の同意のもと、対象者全員の遺伝情報を解析することで、対象者の塩分感受性を明らかにすることが可能となる。
また、対象者が「尿ナトカリ計」を用いて簡便かつ長期に随時尿を測定することで、塩分摂取量と同様な食事習慣指標であるナトカリ比を推定することができる。これにより、塩分感受性の有無の確認と測定の困難さが解決されることが期待できる。
さらに、同様に精度の高い身体活動量計、睡眠計を組み合わせることで、絶対評価された生活習慣と体質が血圧等にどう関連するかを明らかにするとしている。
今回の共同研究を通じて、高精度な生活習慣情報を得ることで、個人の体質に合わせた適切な予防法・治療法の開発に貢献できると期待される。またデータは、東北メディカル・メガバンク機構のバイオバンクに格納される。その整理が完了すれば、全国の研究者に分譲され、個別化予防・治療の研究に活用してもらう予定としている。
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