子宮頸がん検診で横浜市が自治体初の「HPV検査」導入
70歳以上の精密検査無料化など、来年1月からがん対策強化へ
神奈川県横浜市は、2025年1月から30歳以上60歳以下の女性全員を対象に、子宮頸がん検診で全国初となる厚労省指針に基づくHPV(ヒトパピローマウイルス)検査を導入すると発表した。
そのほか、70歳以上の精密検査無料化や市民の希望条件に合う医療機関を検索できるウェブサイトも開設し、受診率アップと病変をいち早くキャッチできる体制づくりなど、がん対策の強化に乗り出した。
【子宮頸がん】日本では年間約11,000人が罹患
日本では子宮頸がんは年間約11,000人が罹患し、約3,000人が亡くなっている。その発症は20歳代後半から増加しはじめ、特に30歳から50歳代で多くなる。
国立がん研究センターによると、最もがんに近い前がん病変であるCIN3(Cervical intraepithelial neoplasia grade 3:子宮頸部上皮内腫瘍グレード3)を含めると、20歳代と30歳代の女性で最も罹患する人が多いがんだという。
自治体による子宮頸がん検診は、厚生労働省の指針に基づき20歳以上の女性を対象に2年に1回の「子宮頸部細胞診」が行われてきた。子宮の入り口にあたる子宮頸部を主にブラシなどで擦って、得られた細胞を顕微鏡で観察する検査法だ。
「HPV検査単独法」を2024年4月から適用 厚労省指針改正
これまでの研究により、子宮頸がんの原因は主にHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染であることがわかってきた。そこで国立がん研究センターは国内外の研究を検討し、2020年に『有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン更新版』を公表、30歳から60歳の女性を対象とした「HPV検査単独法」を推奨グレードAとした。
細胞の採取方法は「子宮頸部細胞診」と同じだが、「HPV検査単独法」はその細胞でHPVに感染しているかを調べる検査で、陰性であれば5年に1度の検査で済む。
『ガイドライン更新版』を受け、厚労省は2023年に指針を変更。2024年4月から、複雑な診療アルゴリズムなどに対応する精度管理や追跡体制など、厚労省が示した要件を満たした自治体での導入が認められた。
全国の自治体に先駆けて横浜市が全国初の導入
神奈川県横浜市ではいち早く体制を整え、このほど全国の自治体に先駆けて、来年1月から子宮頸がん検診に「HPV検査単独法」を導入すると発表した。
30~60歳の市民約78万人を対象に、5年に1回のHPV検査を受けてもらい、陽性だった場合は自動的に細胞診の検査も行い、翌年に再検診を促す。20~29歳と61歳以上は現在と同じ、2年に1回の細胞診を受ける。
横浜市によると、HPV検査を導入することで多くの受診者の検査間隔が2年から5年に延びて受診の負担を減らすことができ、また、がん化する可能性がある状態の人を発見することが可能となり、リスクに応じたきめ細かいフォローができるようになるという。
出典:横浜市「がんの早期発見に向けた新たな取組」(令和6年10月22日)P.6 より
出典:厚生労働省「令和5年度指針改正等に関する自治体説明会」資料(令和6年2月29日)P.15 より
横浜市のHPV検査の自己負担額は2,000円(細胞診検査は1,360円)で、前年度に住民税が非課税だった人などは無料となる。市内約190の医療機関で受診できる。
なお、自己負担額は各自治体によって決められている。今後HPV検査が実施された場合は、当該自治体に問い合わせをしてほしい。
総合的ながん対策への取り組みの推進
11月1日からは、がん検診を受けやすくするため、横浜市内にある約1,400カ所の検診実施医療機関を、検診の種類や最寄り駅などから検索できるサイトを開設し、受診率の向上を図っている。
さらに来年4月1日時点で満70歳以上の市民を対象に、来年以降にがん検診を受診して要精密検査になった場合、申請すれば精密検査にかかる自己負担額の助成を受けられるようになった。
そのほか、65歳時のがん検診無料化や、米国の俳優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、乳房と卵巣卵管を予防的に切除したことを公表したことで知られるようになった「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」の親や子、きょうだいを持つ18~69歳の市民を対象に、遺伝カウンセリングの費用を上限1万円、遺伝学的検査(血液検査)の費用も上限3万円で助成する。
同市は「それぞれの方に必要な早期発見に向けた取り組みを開始し、市民の皆様のウェルビーイングを支えます」と述べ、世代ごとに必要ながん対策への取り組みを強化するとしている。
「HPV検査」実施の体制を整えた全国の自治体への、今後の展開も待たれる。
参考資料
【記者発表資料】がんの早期発見に向けた新たな取組を開始します!!(横浜市)
横浜市がん検診サイト(横浜市)
子宮頸(けい)がん検診について (国立研究開発法人国立がん研究センター・がん情報サービス)
科学的根拠に基づくわが国の子宮頸がん検診を提言する「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」更新版公開(国立がん研究センター)
令和5年度指針改正等に関する自治体説明会(厚生労働省)
「がん」に関するニュース
- 2025年01月06日
- 肥満のある人はやはりがんリスクが高い 代謝的に健康であってもがんリスクは上昇 日本人5万人超を調査
- 2024年12月19日
- 2024年度版【保健指導アトラス】を公開!保健指導に携わる人が知っておきたい法律・制度
- 2024年12月17日
-
子宮頸がん検診で横浜市が自治体初の「HPV検査」導入
70歳以上の精密検査無料化など、来年1月からがん対策強化へ - 2024年09月30日
- 10月は「乳がん月間」 マンモグラフィ検査を毎年受けている女性は乳がんリスクが減少 乳がん検査の最新情報
- 2024年08月15日
- HPVワクチンのキャッチアップ対象接種者は2024年9月までに接種開始を 東京都はポータルサイト「はじめてのHPVワクチン」を開設
- 2024年07月22日
- がん発症の40%とがんによる死亡の半数は予防が可能 タバコの健康影響が大きい 肥満や過体重にも対策
- 2024年06月24日
- 「肺がん検診」の受診率は50%前後 7割の若者は「受けたい」と意欲的 がん検診の受診率を高めるプラス要因とは?
- 2024年06月24日
- 一般施設や飲食店などの第二種施設で「屋内全面禁煙」の割合が増加 令和4年度「喫煙環境に関する実態調査」より
- 2024年06月04日
-
教育歴による健康格差は男女とも約1.5倍
国立がん研究センターが死因別死亡率を解析【国内初】 - 2024年05月20日
- メタボは乳がんリスクを高める 死亡リスクが44%上昇 運動習慣のある女性は乳がんリスクが大幅に減少