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ビールのホップの苦味成分が認知機能を改善 物忘れのある中高年者を対象に臨床試験を実施
2020年06月16日

ビールの苦味成分である「熟成ホップ由来苦味酸」に、認知機能やストレス状態を改善する作用があることを、順天堂大学とキリンの研究グループが臨床試験で明らかにした。食生活を通じた新しい認知症の予防方法を開発できる可能性がある。
ホップ苦味酸に認知機能・気分状態の改善効果がある
日本でも患者が急増しており大きな社会課題となっている認知症は、根本的な治療方法はまだ見つかっていないが、早期に発見して対策すれば認知機能の低下を改善できると考えられている。食習慣の改善は予防法の1つとして期待されている。
一方、ホップの酸化熟成により生成する「熟成ホップ由来苦味酸」は、ビールの苦味成分として知られている。これまでの研究で、このホップ苦味酸には、「脳腸相関」を活性化して、脳内炎症を抑制し、アルツハイマー病を予防する効果があることが示されている。
脳と腸は、自律神経系、ホルモンやサイトカインなどを介して、密接に関連していることが知られており、この双方向的な関係は脳腸相関と呼ばれている。
しかし、ホップ苦味酸がヒトの認知機能に与える効果は十分に解明されていない。そこで順天堂大学とキリンホールディングスの研究グループは、物忘れの自覚症状のある中高年者を対象に、ホップ苦味酸の摂取が認知機能に与える効果を検証するために、ランダム化二重盲検比較試験を実施した。
研究は、順天堂大学医学部精神医学講座の大沼徹先任准教授、新井平伊名誉教授(現アルツクリニック東京院長)およびキリンホールディングスの阿野泰久研究員、福田隆文研究員らの共同研究グループによるもの。
ホップ苦味酸により注意機能、ストレス状態や気分状態が改善
研究グループは、認知機能の低下を自覚している中高年者100人を対象に、ホップ苦味酸もしくはプラセボを含むカプセルを摂取する群に50名ずつに無作為に割り付けた。
摂取0週目および12週目に神経心理テストを用いて認知機能の評価を行い、注意機能は標準注意検査法(CAT)を用いて、記憶機能はレイ聴覚学習テスト(RAVLT)、および標準言語性対連合学習検査(S-PA)を用いて評価した。
さらに、気分状態およびストレス状態を、検査当日の唾液中のストレス指標およびメタ記憶質問紙を用いて評価した。
その結果、摂取12週目のCATの選択的注意機能を評価するSDMTの正答率が、ホップ苦味酸群ではプラセボ群と比較して有意に高値を示した。
また、神経心理テスト後の唾液中に分泌されたβエンドルフィンの濃度が、ホップ苦味酸群では0週目からの有意に低値を示した。βエンドルフィンはストレスマーカーの1つとして知られている。
さらに、メタ記憶質問紙における不安感のスコアがホップ苦味酸摂取群ではプラセボ群と比較して低値の傾向を示した。また、SCD質問紙にもとづく層別解析では、注意機能のSDMT以外にも、記憶機能で摂取12週目のRAVLTの数値、S-PAの変化値が、ホップ苦味酸群では有意に高値を示した。
脳と腸は互いに密接に関連している
これらから、ホップ苦味酸を継続して摂取すると、中高年者の認知機能の中で、とくに注意機能、ストレス状態や気分状態が改善することが明らかになた。
「ビール由来のホップ苦味酸による認知機能改善は、脳腸相関の活性化による作用機序によるものと考えられます。毎日の食事を通じた新しい認知症予防方法の開発につながる可能性があります」と、研究者は述べている。
腸の状態や腸内に常在する細菌が、脳の機能にも影響するなど、脳腸相関は注目されている。研究グループは今後、ヒトでの作用機序解明や軽症アルツハイマー病患者対象での効果検証を進めるとしている。
ホップ苦味酸を活用したサプリメントやノンアルコールビールテイスト飲料などの開発にもつなげる考えだ。
熟成ホップ由来苦味酸による認知機能および気分状態改善

ビール苦味成分でもある熟成ホップ由来苦味酸は摂取後脳腸相関を活性化し、前頭前野に関連した認知機能や気分状態を改善する可能性が示唆された。
出典:順天堂大学医学部精神医学講座、2020年
順天堂大学医学部精神医学講座Supplementation with matured hop bitter acids improves cognitive performance and mood state in healthy older adults with subjective cognitive decline(Journal of Alzheimer's Disease 2020年5月27日)
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