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「腸内環境」が高齢化すると生活習慣病に関連する代謝物が増える 「腸内細菌叢」を若く保ち加齢疾患のリスクを低下
2021年04月13日
腸内細菌叢は加齢にともない変化する。年齢に比べ腸内環境が若い人や、逆に老化している人がある。
高齢者型の腸内細菌叢をもつ人の腸内では、加齢性疾患のリスクに関連したり、腸管バリア機能を弱める代謝産物が多いことが明らかになった。
腸内細菌叢を若く保つことが、加齢にともなう疾患の発症リスクを低減させるのに効果的である可能性がある。
高齢者型の腸内細菌叢をもつ人の腸内では、加齢性疾患のリスクに関連したり、腸管バリア機能を弱める代謝産物が多いことが明らかになった。
腸内細菌叢を若く保つことが、加齢にともなう疾患の発症リスクを低減させるのに効果的である可能性がある。
腸内細菌叢が高齢化すると加齢性疾患のリスクが上昇
腸内細菌叢は加齢にともない変化することが知られている。そのバランスと実年齢は必ずしも一致しておらず、年齢に比べ腸内環境が若い人や、逆に老化している人がある。
そこで、森永乳業は、腸内細菌叢が年齢相応の高齢者(高齢者型)と、実年齢よりも若い高齢者(成人型)を比較する研究を行った。
その結果、高齢者型の腸内細菌叢をもつ高齢者群では、動脈硬化症などの加齢性疾患のリスクに関連する代謝産物や、腸管バリア機能を減弱させる代謝産物が多いことが分かった。
腸内細菌叢が老化することで、全身性の加齢性疾患のリスクが上昇する可能性がある。研究から、腸内細菌叢を若く保つことが、加齢にともなう疾患を予防したり、リスクを低減するために、有用である可能性が示された。研究成果は、科学誌「Gut Microbes」に掲載された。
腸内細菌叢の若い高齢者と老化している高齢者の腸内を比較
森永乳業は、育児用ミルクを開発する過程で、乳児の腸内細菌叢に着目し、腸内細菌についての研究を50年以上前から行っている。
2016年に公開された同社の基礎研究では、健康な日本人の腸内細菌叢の加齢にともなう変化を解析したところ、とくに60~70歳代以降にビフィズス菌の減少や大腸菌などの増加が顕著となり、高齢者型の腸内細菌叢構成になる健常者が多いことが示された。
当時の研究では、その中に成人と類似した腸内細菌叢をもつ高齢者や、逆に高齢者型の腸内細菌叢をもつ成人なども含まれていた。こうした年齢と一致しない腸内細菌叢をもつことが、健康にどのような影響を及ぼすかについては不明だった。
そこで今回の研究では、年齢相応の高齢者型の腸内細菌叢をもつ高齢者と、年齢よりも若い成人型の腸内細菌叢をもつ高齢者との2群間で、腸内の代謝産物を比較した。
腸内細菌叢の変化は加齢性疾患に関連する代謝産物の産生に影響
具体的には、日本国内に在住している健康な0歳児から104歳までの計453人から糞便を提供してもらい、腸内細菌叢を解析した。
対象者のなかから、60~85歳の高齢者32人を抽出し、質量分析法のひとつであるCE-TOF-MSを用いて、糞便中の水溶性代謝産物を解析した。
加齢にともなう腸内細菌叢の変化は、加齢性疾患に関連する代謝産物の産生に影響する。
0~104歳の453人の被験者を腸内細菌の構成の特徴にもとづいて分類し、6つのクラスターに分けた。それぞれ年齢に依存したクラスターになったが、これまでの報告と同じように、年齢よりも若い世代の腸内細菌叢クラスターに分類される高齢者が一部確認された。
そこで、クラスター6から高齢者型の腸内細菌叢をもつ高齢者16人(高齢者型群)と、クラスター3、4から成人型の腸内細菌叢をもつ高齢者16人(成人型群)を選抜した。
0~104歳の日本人の腸内細菌叢を解析
出典:森永乳業、2021年
腸内環境が老化している高齢者の腸内では悪玉菌が増加
選別した成人型群と高齢者型群の2群間で、糞便中の水溶性代謝産物を比較したところ、8種類の代謝産物に有意な差がみられた。
興味深いことに、動脈硬化症、大腸がんなどの加齢性疾患との関連性が報告されている「トリメチルアミン」や「N8-アセチルスペルミジン」といった代謝物は高齢者型群の腸内で多く、成人型群の腸内では産生が低く抑えられていることが分かった。
「トリメチルアミン」は、アテローム性動脈硬化などの心血管疾患の発症や、アルツハイマー病やパーキンソン病、認知機能の低下への関与が報告されている。「N8-アセチルスペルミジン」は、がんなどとの関連が報告されている。いずれも腸内細菌が代謝に関わっていると考えられている。
一方で、成人型群の腸内では、胆汁酸のコール酸が代謝産物として検出された。胆汁酸は、食物脂肪の吸収促進や、近年ではエネルギー代謝を制御する機能が指摘されている。腸内細菌叢は胆汁酸の構成に大きな影響を及ぼすと考えられている。
さらに、代謝産物の産生に関係する腸内細菌を調べるため、それぞれの代謝産物と腸内細菌種の相関解析を行ったところ、高齢者型群の腸内で、大腸菌群を含む「プロテオバクテリア門」の腸内細菌と、「トリメチルアミン」産生との間に正の相関関係がみつかった。
「プロテオバクテリア門」は、リポ多糖(LPS)からなる外膜をもつグラム陰性菌。大腸菌、サルモネラ、ヘリコバクターなど病原性や炎症を引き起こす細菌が多く含まれる。
高齢者型の腸内で、「プロテオバクテリア門」の腸内細菌が増加することが、「トリメチルアミン」の産生を促進する要因のひとつと考えられる。
腸内細菌叢が成人型と高齢者型の高齢者では腸内の代謝産物に差が出る
出典:森永乳業、2021年
腸内環境が老化すると腸内の粘膜バリアが減弱
次に、2群間で有意差が見出された代謝産物のヒト腸管上皮細胞へ与える影響を調べるため、大腸上皮の初代培養細胞(HCoEpiC細胞)に添加した。
すると、高齢者型群の腸内代謝産物は、claudin4やoccludinなどの腸管上皮バリア機能に関わる遺伝子の発現を抑制していることが分かった。
腸管バリア機能は、病原体などの侵入を防ぐ腸管上皮細胞によるバリア機能。おびただしい数の腸内細菌が棲息する大腸では、粘膜バリアのひとつである粘液層が厚く表面を覆っており、腸内細菌などが大腸組織に侵入できないようなっている。
このことから、高齢者型群の腸内環境では、腸管バリア機能が減弱し、細菌や老廃物などの腸管壁浸漏が誘導されやすくなっていると考えられる。これらが血流に入り全身に運ばれると、炎症が引き起こされ、自己免疫疾患やアレルギー、感染症など多くの疾病の発症や悪化を促進する。
腸内環境が若いと腸管上皮バリア機能が向上する
出典:森永乳業、2021年
腸内細菌叢を若く保つと加齢疾患のリスクが低下
今回の研究では、腸内環境が高齢化している高齢者型群の腸内では、加齢性疾患のリスクを上昇させる代謝産物や、腸管バリア機能を減弱させる代謝産物が多く産生されていることが分かった。
腸内細菌叢が老化すると、全身性の加齢性疾患の発症リスクの上昇につながる可能性がある。逆に、腸内細菌叢を若い状態に保つことが、加齢にともなう疾患の発症リスクを低減させる有効な方法となる。
高齢者型の腸内で、プロテオバクテリア門の腸内細菌が増加することが、肝臓で胆汁酸合成を抑制するトリメチルアミン産生を促進する要因となっている。
プロテオバクテリア門の腸内細菌を阻害し、トリメチルアミン産生を抑制することができれば、肝臓での胆汁酸の合成が促進され、成人型の腸内環境を維持することにつながると感がられる。
「研究から得られた腸内代謝産物をひとつの指標とし、成人型の腸内細菌が好むプレバイオティクスなどの食品素材の開発や、生活習慣の改善などの具体的な腸内細菌の制御方法の開発に応用してまいります」と、研究者は述べている。
森永乳業
Enriched metabolites that potentially promote age-associated diseases in subjects with an elderly-type gut microbiota(Gut Microbes 2021年1月11日)
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