ニュース
メタボリックシンドロームが認知症リスクを上昇 若いうちから対策を
2016年03月09日
メタボリックシンドロームの人は、認知症の前段階とされる「軽度認知障害」(MCI)の発症リスクが高いことがアジア人を対象にした研究で判明した。適切な対策をしないと、認知症を発症する確率が高くなる。「メタボリックシンドロームを解消し、認知症を予防することが重要です」と研究者は呼びかけている。
軽度認知障害は若い頃から進行する
高齢化にともない、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)を発症する人が増えている。MCIの発症リスクが高まる70歳以上の高齢者を対象とした調査が必要だが、実現するのが難しいという課題がある。
「今回の研究では55歳以上(平均年齢65歳)の比較的若い年齢層の人を対象に調査を行いました。結果としてMCIは考えられている以上に若い頃から症状が進むことが明らかになりした」と、シンガポール国立大学のシ ペン ン氏は言う。
研究は、2003~2009年にシンガポールの5つの地域で、1,519人の男女を対象に行われた。参加者は調査開始時に認知機能の異常がみられなかった。22.4%(340人)がメタボリックシンドロームと判定された。
6年間の追跡期間中に10.6%(141)人が軽度認知障害を発症し、メタボリックシンドロームと判定された人の14%、そうでない人の8%がそれぞれ発症した。
メタボリックシンドロームが軽度認知障害のリスクを上昇
調査の結果、「メタボリックシンドローム」、手足はやせているが腹部など体に脂肪が付く「中心性肥満」、「2型糖尿病」、「脂質異常症」などのある人は、そうでない人に比べ、軽度認知障害の発症リスクが上昇することが明らかになった。
軽度認知障害の発症リスクは、メタボリックシンドロームで1.46倍に、中心性肥満で1.41倍、2型糖尿病で2.84倍、脂質異常症で1.48倍にそれぞれ上昇した。
腹囲周囲径の増加、中性脂肪値の上昇、善玉のHDLコレステロールの低下などは心筋梗塞や狭心症などの心臓疾患のリスク要因となるが、最近の研究では認知症の発症にも関連していることが分かっている。
「メタボリックシンドロームと軽度認知障害の発症に関連があることがはじめて分かりました。軽度認知障害は、本格的な認知症へと進行するリスクが高い状態です。効果的な予防法の開発が求められています」と、ン氏は言う。
血糖を下げるホルモンであるインスリンは脳においても代謝を促す重要な役割を担っている。糖尿病や耐糖能異常のある人の体では、インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性が起きていて、脳のインスリン代謝にも悪影響をあらわれているおそれがあるという。
認知症を防ぐために中年期の体重コントロールが重要
「メタボリックシンドロームや肥満、糖尿病といった疾患が、脳内で炎症を引き起こす毒性のある物質を増やしている可能性もあります。メタボリックシンドロームが脳にもたらす悪影響は中年期を過ぎるとあらわれます」と、ン氏は言う。
運動不足、不健康な食事、喫煙習慣、過剰なストレスによるメンタル不調はメタボリックシンドロームのリスクを上昇させる。不健康な生活習慣をもつ人はメタボリックシンドロームになりやすく、そうなると生活習慣がさらに悪化するという悪循環に陥り、結果として認知症のリスクを上昇させるおそれがあるという。
「中年期に体重を適正にコントロールすることで、将来の認知症の発症をどれだけ予防できるかを解明するためにさらに研究が必要ですが、なるべく若い時期にメタボリックシンドローム対策を始めることが賢明であること確実です」と強調している。
この研究は医学誌「JAMA Neurology」オンライン版に発表された。
Metabolic Syndrome and the Risk of Mild Cognitive Impairment and Progression to Dementia(JAMA Neurology 2016年2月29日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2024 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「地域保健」に関するニュース
- 2024年04月30日
- タバコは歯を失う原因に 認知症リスクも上昇 禁煙すれば歯を守れて認知症も予防できる可能性が
- 2024年04月25日
-
厚労省「地域・職域連携ポータルサイト」を開設
人生100年時代を迎え、保健事業の継続性は不可欠 - 2024年04月23日
- 生鮮食料品店が近くにある高齢者は介護費用が低くなる 自然に健康になれる環境づくりが大切
- 2024年04月22日
- 運動が心血管疾患リスクを23%低下 ストレス耐性も高められる 毎日11分間のウォーキングでも効果が
- 2024年04月22日
- 職場や家庭で怒りを爆発させても得はない 怒りを効果的に抑える2つの方法 「アンガーマネジメント」のすすめ
- 2024年04月22日
- 【更年期障害の最新情報】更年期は健康な老化の入り口 必要な治療を受けられることが望ましい
- 2024年04月22日
- 【肺がん】進行した人は「健診やがん検診を受けていれば良かった」と後悔 早期発見できた人は生存率が高い
- 2024年04月18日
- 人口10万人あたりの「常勤保健師の配置状況」最多は島根県 「令和4年度地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月18日
- 健康診査の受診者数が回復 前年比で約4,200人増加 「地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月16日
- 塩分のとりすぎが高血圧や肥満の原因に 代替塩を使うと高血圧リスクは40%減少 日本人の減塩は優先課題