ニュース
「健幸ポイントプロジェクト」の効果 高齢者のインセンティブを向上
2016年09月07日
岡山市が実施している「健幸ポイントプロジェクト」が、参加者の1日の歩数を増やし、肥満やメタボから脱却率も伸ばしていることが判明した。プロジェクトは、参加した市民の活動に応じて、商品券や電子マネーに交換できるポイントを与えるものだ。
「健幸ポイント」で健康増進への取り組みを促進
「健幸ポイント」は、健康増進のための努力をした40歳以上の市民にポイントを付与するインセンティブ制度だ。日々の健康に取り組む努力と、それによる健康状態の改善に応じて、参加者に年間最大2万4000ポイント(2万4000円に相当)を付与する。
ポイントは、地元商店街の商品券やコンビニエンスストアなどで使える共通ポイント「Ponta」に交換したり、寄付などに使える。
参加者から集まった歩数や体重、体脂肪率などのデータは今後、筑波大学が中心になって分析し、ウォーキングなどの健康への効果、運動継続の要因などを検証する予定だ。
岡山市の「健康寿命」は下位に低迷
介護を受けたり寝たきりになったりせず、自立して健康に日常生活を過ごせる「健康寿命」について、政令指定都市など全国20大都市のランキングが発表されている。これは、厚生労働省研究班(主任研究者:橋本修二・藤田保健衛生大教授)がまとめた「健康寿命の指標化に関する研究」によるものだ。
岡山市は男性18位、女性15位と男女とも下位だった。岡山市の男性の健康寿命は69.01歳、女性72.71歳。全国平均(男性70.42歳、女性73.62歳)をともに下回った。1位は男女とも浜松市(男性72.98歳、女性75.94歳)で、岡山市との差は男性3.97歳、女性3.23歳だった。
寝たきりなどで「日常生活に支障のある期間」をみると、岡山市は男性10.65年(19位)、女性14.52年(18位)となり、こちらも下位に低迷している。
そこで、健康寿命をもっと延ばして、多くの人に健康で豊かな老後をおくってもらおうと、岡山市はウオーキングなどの運動を促す事業を開始した。それが、「健幸ポイントプロジェクト」だ。
現在、40歳以上の約4,000人の市民がこのプロジェクトのもとで健康づくりに励んでいる。
「健幸ポイント」が歩数を増やし肥満を低減
ポイントはいろいろな場面で与えられる。まず、貸与された歩数計を使ったウォーキング。1ヵ月の歩数に応じてポイントが決まり、74歳までは1日に1万2,000歩以上、75歳以上なら1日に9,000歩以上のペースで歩けば月800ポイントが加算される。
他に、特定健診を受診したり、健診データが改善したり基準範囲内に収まった場合にで1,000ポイントが与えられる。市が提供する運動教室などのプログラムやフィットネスクラブなどに参加すると、最大で月200ポイント、年間で2,400ポイントが加算。体重が減ったり、筋肉が増えた場合に、3ヵ月で1,000ポイント、年間で1,000ポイントがそれぞれ加算される。
実証事業は2014年12月に始められ、2017年3月まで続けられるが、参加した人の健康への成果がすでにあらわれている。参加者の歩数の平均は、参加時の6,377歩から8,649歩に増えた。健康日本21で推奨されている、生活習慣病予防のための必要な歩数は1日あたり8,000歩以上であり、その基準を越えている点には一定の成果があるといえる。
また、BMI(体格指数)の平均は23.1から22.7に減少し、筋肉率は25.8%から26.5%に改善した。また、健診でメタボに該当、もしくはその予備群とされた人のうち35%が、翌年度の健診でメタボではないと判定された。
大森雅夫・岡山市長は「この事業は、ふだん運動をしていない人や健康づくりに無関心な人に健康づくりに取り組んでもらうきっかけになる。このまま運動を続けてもらえれば、市の健康寿命の改善につながると期待している」と話している。
健幸ポイント 歩数計 正しいウォーキングフォームで歩こう
参加者のインセンティブを高める工夫
住民が健康に暮らせる新しい都市モデル構想として内閣府が進めている「健幸長寿社会を創造するスマートウエルネスシティ総合特区」には、岡山県岡山市、千葉県浦安市、福島県伊達市、栃木県大田原市、大阪府高石市、新潟県見附市の6つの自治体が参加している。
スマートウェルネスシティとは、健康で生きがいがある状態を「健幸」とし、歩くことを基本とした健康づくりを行うまちのことだ。
今回のプロジェクトでは「情報の周知」とともに「インセンティブによる継続率の向上」に工夫している。
岡山市の運動習慣のある人の割合は40~50代の男女で30%未満。そもそも約7割の人は健康のために運動をしないという無関心層が多い。健康づくりに対するインセンティブを高めることが最初の実証ポイントだった。
たとえば、運動の開始時の「入会したよポイント」、運動を持続することによる「がんばってますポイント」、指定のプログラムに参加する「行きましたポイント」、3ヵ月のBMIや筋肉率の改善による「変わりましたポイント」など、開始~持続~継続~成果の各段階を評価して、健康行動を変えることを支えられる設計にしてある。
データは中央管理システムに集めて分析し、努力や成果をポイントとして蓄積していく。分析データは参加者本人もスマートフォンやパソコンなどから閲覧し、日々の歩数やBMI値の変化などを確認できる。
ICTの活用が高齢者にインセンティブを与える
団塊の世代が後期高齢者になる2025年問題は、健康づくりに深く関連している。増え続ける社会保障費をどう乗り越えればいいかは最大のテーマで、これを克服するためにさまざまな取り組みが行われている。
一方で、スマートフォン、タブレット型端末、パソコンを始めとするデジタルインフラが普及しており、これらのICT(情報通信技術)を活用したサービスが次々と展開されている。
ICTを活用して高齢者の健康づくりにインセンティブを付加することは、健康医療分野で課題解決のために大きな可能性をもっている。
ICTの活用は、地域コミュニティの活性化にもつながる。高齢者がICTを活用することで、社会との一定のつながりを維持し、心身の健康に寄与するとともに、消費活動にも積極的になり、経済的な効果も期待できる。
多くの自治体では、地域コミュニティの活性化も切実な問題となっている。ICTを地域コミュニティの活性化に活用し、市民のICT力を向上させるために、身近なところからICTの利活用を進めていくと効果的だ。
ICTの活用は成長産業の創出の手段にもなる。今回のプロジェクトにより、「元気な高齢者を増やすことで社会保障制度を持続可能なものにする」という大命題のほかに、「健康を軸とした次世代の成長産業の創出にもつなげる」というビジョンも現実性を帯びてくる。
高齢者がICTを利活用することで、社会との一定のつながりを維持し、心身の健康に寄与するとともに、消費活動にも積極的になり、経済的な効果も期待できる。
利用者の拡大には、獲得したポイントを地元の商品券に交換できる仕組みがインセンティブとして働いている。住民だけでなく、商品券が使われれば商店側にもメリットがある。健康問題の解決だけでなく、地域経済の活性化にもリンクさせることができる。
高齢者の「ICTリテラシー」を高める工夫も必要
日本の中の情報格差や地方の問題として、高齢者のICTリテラシーが若干低いという問題がある。
ICTリテラシーの低い傾向のある高齢者にどうやってICTによるシステムを使ってもらうかは大きな課題となる。ICTリテラシーの向上も課題のひとつだ。
市民のICT力の向上のためには、身近なところからICTの利活用を進めていくことが必要だ。
岡山市では、高齢者がICTを使ってコミュニケーションの活性化をはかるため、公民館や学校の空き教室など、ICTの使い方を学び、教え合うことができる場を確保したり、シニアボランティアによるICT教室の実施なども行い、ICTに慣れ親しんでもらう工夫もしているという。
健幸ポイントプロジェクト(岡山市)国と6市連携健幸ポイントプロジェクト 公式ホームページ
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2024 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「健診・検診」に関するニュース
- 2024年04月25日
-
厚労省「地域・職域連携ポータルサイト」を開設
人生100年時代を迎え、保健事業の継続性は不可欠 - 2024年04月22日
- 【肺がん】進行した人は「健診やがん検診を受けていれば良かった」と後悔 早期発見できた人は生存率が高い
- 2024年04月18日
- 人口10万人あたりの「常勤保健師の配置状況」最多は島根県 「令和4年度地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月18日
- 健康診査の受診者数が回復 前年比で約4,200人増加 「地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月09日
- 子宮の日 もっと知ってほしい子宮頸がんワクチンのこと 予防啓発キャンペーンを展開
- 2024年04月08日
- 【新型コロナ】長引く後遺症が社会問題に 他の疾患が隠れている例も 岡山大学が調査
- 2024年03月18日
- メタボリックシンドロームの新しい診断基準を提案 特定健診などの56万⼈のビッグデータを解析 新潟⼤学
- 2024年03月11日
- 肥満は日本人でも脳梗塞や脳出血のリスクを高める 脳出血は肥満とやせでの両方で増加 約9万人を調査
- 2024年03月05日
- 【横浜市】がん検診の充実などの対策を加速 高齢者だけでなく女性や若い人のがん対策も推進 自治体初の試みも
- 2024年02月26日
- 近くの「検体測定室」で糖尿病チェック PHRアプリでデータ連携 保健指導のフォローアップなどへの活用も