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【新型コロナウイルス】子供たちへの影響と、私たちにできること 子供と家族の心の健康を守るために
2020年05月07日
コロナウイルス感染症(COVID-19)は、子供たちから学校や生活を奪い去った。大人たちも、この状況が収束するのにどれほどの時間がかかるかを見通せていない。
そんななか国立精神・神経医療研究センターは、子供と家族の心の健康を維持するために、持続できるちょっとした工夫を提案している。
そんななか国立精神・神経医療研究センターは、子供と家族の心の健康を維持するために、持続できるちょっとした工夫を提案している。
子供もストレスや不調を抱えている
子供たちは、外で遊んだり、友達とかかわるなかで成長発達している。コロナウイルス感染症(COVID-19)は、子供たちにとって当たり前だった生活を奪い去った。
2020年2月27日に休校要請が発出されて以来、子供たちは登校できず、そのまま進級、卒園・卒業を迎えることになった。さらに、4月7日には新型インフルエンザ等対策特別措置法にもとづく緊急事態宣言が7都府県に発令され、4月16日には対象地域を全国に拡大され、いまなお登校再開の見通しは立っていない。
感染への不安の一方、長期化する休校と外出自粛という要請のなかで、ストレスを抱え、精神、身体、行動のさまざまな面で不調を抱える子供が増えている。同時に、親もストレスを抱えた子供たちにどう向き合えばよいのか悩みは尽きない。
そこで、国立精神・神経医療研究センターは、「COVID-19の子供たちへの影響、そして私たちにできること」と題するメッセージを公表した。
子供も大人も不安が高まっている
COVID-19は様態はいまだ明確でなく、不安は高まっているが、子供たちにとってはいまひとつ実感のないものかもしれない。しかし、政府の要請と、各地の感染の状況をふまえた自治体の判断により、COVID-19による影響は一気に子供たちに直結する問題になった。
長く親しんできた友人に挨拶をする機会も得られないままに進級や卒業を迎えた子や、帰省や楽しみにしていた外出の予定がなくなった子がいる。外出自粛が要請され、街の中で遊ぶことも、友達に会うこともできない。
そうしたなか、どう過ごしていいかがわからず、テレビの報道を見ても不安になるばかりで、ただゲームやスマートホンに没頭するしかない子供は多い。
親も子供養育のために休業したり、慣れないテレワークに移行した。多くの大人は、仕事が減り、雇用の継続や生活費への不安を抱えながら、精一杯の状況にある。子供たちは、この状況を十分には解せないながらも、ただならぬ異変に、心のざわつきを抑えることができない。
気づいてみると、些細なことでいらだつようになり親子や兄弟姉妹の間で衝突が増え、もはや崩壊寸前という家庭もある。さまざまな身体の症状があらわれたり、子供返りしたように思う、という家庭もある。
子供たちにあらわれやすいサイン
そうしたなか、国立精神・神経医療研究センターは、持続してできるちょっとした工夫を提案している。
まず、子供たちにあらわれやすいサインとして、次のことを挙げている。
・落ち着きがない | ・普段よりよくしゃべる | ・いらだちやかんしゃくが増える |
・欲求が満たされないと耐えられない | ・心配性である、悲観的になる | ・こだわりが増える |
・同じ行動を繰り返す | ・赤ちゃんがえり、幼児がえりをして甘える | |
・泣きじゃくることが増える | ・ちょっかいをかけることが増える | ・食欲がない、過食になる |
・夜尿がみられる | ・頭痛や体の痛みなどの不調を訴える | ・チックがあらわれた |
・集中力が低下する | ・楽しい活動にも没頭できない | ・ひとりでいることを不安がる |
・感染して病気になるテーマの遊びを繰り返す |
■ 感染症の脅威より、何のために何をするのかを伝える
子供は当然のように友達と会いたがりますし、外出したがります。何とかそれをとどめようと「ウイルスに感染すると死んでしまうのよ」などと脅すだけでは、不安が昂じてパニックになるだけです。
感染を防御することは、子供たちの健康問題でもありますが、同時に他の子供や大人、とくに感染すると重篤になりやすい高齢者や身体疾患をもつ子供や大人のための思いやりでもあります。この点を伝えたうえで、思いやる行動を取れていることを褒めることが大切です。
そもそも「帰ったら手を洗うのよ」「くしゃみをするときには、手で押さえるの」は、しつけの決まり文句です。言い換えると、手洗いや消毒、咳エチケットの徹底できる子供、マスクが適切に使用できる子供は少ないものです。
「何をやっているの、ちゃんとしなきゃだめじゃない」だけではどうしてよいかは伝わりません。大人が実際にやってみせたり、写真を見せるなどして、やりかたから教える必要があります。
現在、ソーシャルディスタンス(フィジカルディスタンス)の重要性が叫ばれていますが、これは通常の社会生活において適切とされてきた対人距離とはまったく異なるものです。
突然、「人に近づいちゃダメ」「触っちゃダメ」といわれるだけでは、子供は混乱しますし、周りの人も、空気も、すべてが怖くなってしまいます。いま求められているエチケットを「限定的なミッション」として伝えるようにしましょう。
■ 新たな日課を導入したり、規則正しい生活を送る
国土の狭い日本に多くの人が住んでいる以上、住宅事情は籠城向きでなく、我が家こそが三密です。
COVID-19の拡大以降、私たちの生活スケジュールは、幾度となく変更を余儀なくされ、計画的な生活ができなくなっています。通勤時間や通学時間がなくなり、時間ができても、そのことで何かができる、というわけではないことは身にしみて感じられることでしょう。疲れ果てて、テレビの報道をぼんやりと眺めているだけでは不安になるばかりです。
日々のスケジュールが定式化して、そのスタイルが成熟してこそ、私たちは生産的な毎日が送れるのです。このために大人が子供のモデルとなることが大切です。精神的健康を保つために、この際に断捨離に励んでいる、料理や手芸などに没頭している、エクセサイズに励むという人は多くあります。
もし、大人がそのような何かを見いだしているのであれば、是非そこに子供を巻き込み、一緒に何かに取り組んでみましょう。また、何かを作るといった創造的な表現を導入することも大切です。
うちの子はゲームばかりしている、ということはよくあります。それはゲーム以外の過ごし方が見いだせないからです。ゲームに苦言を呈したり、禁じることから始めるのではなく、それに変わる日課を提案してみましょう。
■ 親の心の健康を大切にし、つながりを維持する
COVID-19では、営業自粛、生活需要の変化により、経済的なダメージや日常生活の困難に直面している子も少なくありません。
また、急激なテレワークへの移行のために、仕事と家庭生活の切り分けが難しくなり、日常生活のストレスが増しているという家庭も多いでしょう。単身赴任であったり、感染リスクの高い状況でご尽力されている人々のなかには、帰宅を自粛しているという方もあるかもしれません。
家庭の事情はそれぞれですが、いずれにしても子供だけに配慮している状況ではない、というのが現実です。どのような苦境があっても、子供には笑顔でいよう、というのは、どの親も考えることですが、気づいてみると些細なことで子供に強く叱責していたり、手を上げていたりして悲しくなることも多いものです。
親自身がつらいときに、何事もなかったことのように振る舞うことは限界があります。苦境のすべてを分かち合うわけにはいきませんが、外出制限のつらさなど、子と分かち合えるつらさについては、分かち合うことが大切でしょう。
オンライン通信は、テレワークや会議の代名詞のようになってしまいましたが、このようなツールも、ご実家や友人とつながることに使ってみるのも1つの方法かもしれません。
また、もし親が子供に対するいらだちを抑えられないと感じ、虐待かもしれないと思ったら児童相談所などの相談機関やホットラインに相談しましょう。子供が責められるべきものでないのと同じく、親がご自身を責める必要はないのです。
■ COVID-19がもたらす影響は子供や家族の状況により異なる
この問題に向き合っている親や子供たちの状況はそれぞれ皆違います。
この時期に出産を迎えた親は、より不安な思いで過ごしているでしょう。妊娠中や産後は、うつ病などの精神的は不調が多いものです。この時期に、より不安が募ったり、相談機関や病院にかかることに躊躇されたり、親族との往来が難しいとなると、より孤独な子育てになりがちです。
幼児になると、子供たちは外遊びによって心身の発達が促されるものですし、言って聞かせてわかる年齢でもないために親の悩みはつきません。
こういうときだからこそ、家族や友人とのつながりを維持していくこと、電話やオンラインなど、さまざまに提供される方法を用いて、相談機関にもアクセスできることが大切です。
子供たちへの影響もさまざまです。活動的で、外遊びがないとエネルギーが発散できなかったり、いらだつ気持ちのコントロールが不得手な子もいます、いつもの決まったルーチンに従って行動できないとパニックになったり、急に予定が変更になったり見通しのつかない状況ではとても不安になる子もいます。こだわり行動を繰り返し、それに没入することで、なんとかこの状況を乗り越えようとしている子もいます。
普段からこうした特性のために、学校や家庭で配慮な必要な子はもちろんのこと、その特性がごく軽度であるので普段ならおおむね適応できていた子のなかにも、こういった状況のために混乱してしまい、自分でもどうしていいかわからなくなっている子もいます。身体の病気があるために、この感染症に対して、他の子よりも十二分の警戒が必要な子もいます。
さまざまな状況のなかでこの状態を耐え忍んでいる子供や家族がいることに目を向けることも大切です。
出典:国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 知的・発達障害研究部
心の健康のために
この難局を乗り越えよう、という声かけの一方、やりどころのない怒りが蔓延している様子もうかがえる。不安や恐怖の中では、世の中にあるさまざまな問題が浮き彫りになり、それが精神的な苦悩を増大させる。その影響は、大人よりも子供、子供の中でも困難さを抱えた子供ほど大きいといえるかもしれない。
これからを乗り切るためには、心の健康なくして外出自粛など乗り切っていくことはできない。同センターでは、「No health without mental health」(WHO)の原点に立ち返って、子供と家族の心の健康を維持し、必要だと思ったら相談機関の利用を躊躇しないことを勧めている。
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 知的・発達障害研究部
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