ニュース

乳がん患者の不安や恐怖を緩和 乳がんサバイバーを支援するアプリを開発

 乳がん患者が抱く再発への不安を心理療法を使って緩和するアプリを、名古屋市立大学の研究チームが開発した。効果を確かめる臨床研究を始めており、スマートフォンやインターネットを通じて、研究への参加を募っている。
乳がんの不安や恐怖「再発したらどうしよう」
 乳がんは30歳代から増加しはじめ、40歳代後半から50歳代前半にピークを迎える。乳がんと分かったとき、誰もが大きなショックを受ける。乳房や命を失うかもしれないということ、家族のこと、仕事のことなど、不安は尽きない。

 乳がんの1期、2期の場合、5年生存率、10年生存率ともに大変に高いが、ひと通りの初期治療が終わってから、「再発するかもしれない」という精神的ストレスに悩まされる患者が多い。心の病気になる患者は少なくなく、適応障害とうつ病が多いという。

 名古屋市立大学大学院医学研究科・精神・認知・行動医学の明智龍男教授らは、うつ病などの治療に使われる認知行動療法の「問題解決療法」や「行動活性化療法」を用いて、がん患者のメンタルヘルスを改善し、生活の質を高めるための研究を行っている。

関連情報
スマートフォンを活用しがん患者を支援
 再発の不安や恐怖を抱える乳がんサバイバーは膨大な数に上り、現状の医療体制のみで対応するのは限界がある。

 「生活で身近なものになっているスマートフォンを活用すれば、専門家によるカウンセリングと同様に、患者さんの日常生活での困り事を解決する助けになる。患者さんの活動の幅を広げることで、再発の不安を和らげることもできるのではないか」と、明智教授らの研究グループは考えた。

 そこで研究グループは、スマートフォンを用いて、問題解決療法、行動活性化療法に取り組むプログラムを作成した。昨年からは、日本医療研究開発機構(AMED)から3年間の予定で研究費を得ている。
乳がんの再発の不安・恐怖が減少
 開発したアプリは、問題解決療法を用いた「解決アプリ」と、行動活性化療法を用いた「元気アプリ」で構成されている。

 いずれも明智教授が臨床で使っているプログラムを、スマートフォン向けに再構成したものだ。

 昨年、38人の乳がんサバイバーに「解決アプリ」を使ってもらう試験を行った結果、再発の不安・恐怖が減少することが分かった。

 「日常生活で困っていることを解決していく」(問題解決療法)、「楽しくやりがいのある活動を生活に取り入れる」(行動活性化療法)を通して、がん患者の不安や恐怖を和らげることが有効だと考えられている。
「解決アプリ」で問題解決を目指す
 「解決アプリ」では、5つのステップからなるプログラムにもとづき、抱えている問題の全体像を把握し、それをどうすれば解決できるかを考え、そのためには何ができるか、今できることは何かを洗い出し、問題解決を目指す。

 問題解決療法は、問題を一度に解決しようとせず、細分化して、できるところから対処していこうという考え方だ。

 (1)問題を整理し明らかにする、(2)目標を具体的にする、(3)解決方法を考える、(4)よりよい解決方法を選ぶ、(5)解決方法を実行し、結果を評価する――の5段階で課題に取り組む。

 各セッションに要する時間は30分程度。メールや電話などで医療スタッフの支援を受けながら、最短で4週間で完了できる。
「元気アプリ」で気分を改善
 「元気アプリ」で活用する行動活性化療法の基本的な考えは、感情・考え・行動・身体反応は相互に作用するということ。気分が少しでも楽になる活動を少しずつ行うことで、気分を改善させていく方法だ。

 「元気アプリ」は、先行する研究で開発した認知行動療法プログラム「こころアプリ」に含まれている行動活性化に相当する部分を取り出して開発した。

 アプリでは「やらなくなった行動に気づき、再挑戦する」「新たな行動に挑戦する」の2点に絞っている。

 各セッションに要する時間は30分程度。最短で2週間、標準で8週間で終了できる。
スマホ世代の20歳から49歳の女性を募集
 臨床研究の対象は、スマホ世代の20歳から49歳の女性で、乳がんの手術から1年以上経過して再発・転移がない人。

 参加希望者は、試験への参加に同意をした後に、(a)「すぐにスマホアプリを開始するグループ」、または(b)「2ヵ月後からスマホアプリ開始するグループ」のどちらかに割り付けられる。

 (b)に割り当てられた場合は、試験開始後2ヵ月(8週間)たって、要望があればアプリを使用し参加することができる。

 「乳がんの手術後に再発なく過ごしている患者さんの多くは、再発に対して不安を感じています。このプログラムによる支援を受け、精神的な苦痛を和らげられることを確かめられたら、今後さまざまなかたちでがん治療に応用できます」と、明智教授は言う。

 申し込みは、研究グループの「スマイルプロジェクト」のホームページで行うことができる。

スマイルプロジェクト
(乳がん患者の再発不安・恐怖に対するスマートフォン問題解決療法および行動活性化療法の有効性のための無作為割付比較試験
名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野)
[Terahata]
side_メルマガバナー

「がん」に関するニュース

2023年08月07日
【がん予防の経済効果】 がんのリスク要因を減らして1兆円超の経済的負担を軽減 生活スタイルや環境の改善が重要
2023年07月31日
どんな女性が乳がん検診を受けていないかを調査 がん検診の受診率を高めるために何が必要?
2023年07月10日
活発に体を動かしている高齢者は生活の質が高い 運動・身体活動は老化を遅らせる最適な方法
2023年07月05日
行政事業レビュー「がん診療連携拠点病院機能強化事業等」
「がんの死亡率減少」と「仕事と治療の両立」が議論の焦点に
2023年06月26日
「高齢社会白書」2023年版を発表 高齢者の社会参加が健康や生きがいを生み出す 各地の取組みも紹介 内閣府
2023年06月19日
肺がんを検診で早期発見・治療すると生存率と医療費が改善 京都市が市民を対象に調査 肺がんは早期発見がカギ
2023年06月12日
【子宮頸がん】日本はHPVワクチン接種と検診の実施率が低い 子宮頸がんの罹患率と死亡率がともに増加
2023年05月19日
令和4年度「東京都がん予防・検診等実態調査」 受診者増加のための取組み率は健康保険組合で85%に上昇
2023年05月08日
「誰一人取り残さない」第4期がん対策推進基本計画が閣議決定
がん検診受診率目標60%、デジタル化の推進
2023年04月04日
乳がん検診の「マンモグラフィ」は効果がある 革新的なマンモグラフィ検査も開発 女性の負担を軽減
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,000名)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶