オピニオン/保健指導あれこれ
日本の元気を創生する ‐開業保健師の目指していること‐
一般社団法人 日本開業保健師協会

No.12-1 開業保健師大家としての活動 ~ 精神障害者のすまい提供を目指して ~

トータルライフイノベーション CEO
井倉 一政

精神障害者のすまいの重要性。有効な対策は?


長屋の様子(精神障害者のすまいの現状)

 2014年から、三重県で精神障害者など社会的弱者の方にも優しい住居提供事業を行っています、トータルライフイノベーションの井倉一政です。

 もともとは、保健所の精神保健の担当保健師として、医療観察法の地域処遇の事例や措置入院後の地域での支援をしておりました。今でこそ「精神障害者にも対応した地域包括ケアシステム」の推進が言われており、精神障害者のすまいの重要性が指摘されていますが、当時は、行政においても、地域においても、精神障害者のすまいの有効な対策は見いだせない状況が長く続いていました。

 精神科入院していた精神障害者の方が、一生懸命治療を重ね、やっとのことで退院できる状態まで回復しても、いざ退院となると地域の受け入れ態勢が整わず、その現実にショックを受け、再度病状を悪くして、入院が継続するような悪循環が結構ありました。

 このような状況を見るに見かねた家族会の会長さんは、自分の年金を担保にして融資の相談に通い、私財を投じてのアパートやグループホームの建設を試みようとしていました。私もそのような姿を身近で見ていました。

 ご家族は、きっとご自分の子どもの看護だけでも大変なはずなのに、さらに地域の精神障害者のために、すまいの提供事業をすることを決意しておられました。結局は、いろいろな不運も重なり、精神障害者のためのすまいは、実現できずに終わってしまいました。

自分が行政の保健師としてできることは?


一般大家さん向け研修会

 そんな時、私が行政の保健師としてできるのは、どのようなことがあるでしょうか。

 その時に私が行政でやっていたのは、地域住民に正しい知識を持ってもらうための講演会や研修会、退院前後の精神障害者の支援を通じてその関係者の理解を進める活動などでした。どの事業も課題を解決するのには時間がかかりすぎるものです。

 今まさに目の前で、住居に困っている精神障害者がおられるのに、有効な対策を講じることができませんでした。私もご本人と一緒に一時外出に同行し、複数の不動産会社を探しまわっても、精神障害者に貸してくれる部屋は見つからないということを何度も経験しました。

 そこで私は、休日を利用して精神障害者の方のすまいの提供事業に共感してくれる人(=出資者)を探すことにしました。家族会の会長さんに成り代わって資金を出してくれる人や、安価で住宅を貸してくれる人、空き家を活用したい人などを探し回り、いろいろな会合にも出かけました。多くの方が精神障害者のためのすまいの重要性については、理解を示してくださいました。しかし、実際の金銭的支援や土地や建物の提供は、どうしても叶いませんでした。

住宅提供事業(=大家業)を自分自身でやってみる!

 その時に出会った会社経営者の方からは、「必要性を自覚している井倉さんが、自分でやったらどうなの?公務員しながらでもできるんじゃない??」とコメントをいただきました。

 そこで、役所の就業規定を確認してみました。するとなんと、社会的弱者などへの住宅提供事業(=大家業)は、ある一定の条件の下であれば、公務員を続けながらでも実施が可能だということが判明したのです。

 地域の皆さんは事業内容に共感はしてくれるけど、お金は出してくれないという現状を打破するために、自分自身が借金をして、精神障害者のすまい提供を実施することを決意しました。

 行政に勤めているときには目にもしたことがない創業計画を何度も練り直し、慣れない銀行めぐりを行い、半年くらいの時を経て、なんとか大家業をスタートすることができました。

「開業保健師大家」としての今後

 大家業は、基本的には1人で事業を行うと考えておりましたが、実際に創業してみると、不動産管理会社、不動産仲介業者、ガス会社、電気会社、シルバー人材センター、弁護士、司法書士、銀行員、民生委員、自治会長など、多くの関係者の協力を得る必要があります。

 地域包括ケアシステムの推進にも役立つようなオリジナルの多職種連携協働のおかげさまで、今日まで事業を継続することができています。おそらくこれからもたくさんの方々に迷惑かけながら、少しずつ開業保健師大家として成長していくのだと思います。

「日本の元気を創生する ‐開業保健師の目指していること‐」もくじ

著者プロフィール

  • 井倉 一政
  • 井倉 一政
    トータルライフイノベーション CEO

    経 歴

     1981年静岡県富士市生まれ。2011年3月名古屋大学大学院医学系研究科看護学専攻博士前期課程修了。保健師、看護師、調理師、ふぐ認定調理人(三重県)、公認心理師。三重大学医学部附属病院、割烹料理屋、四日市市を経て、2014年に保健師大家さんとなる。

     2018年には、特定非営利活動法人三重ナースマネジメント協会を設立。主な受賞歴は、2013年第17回チヨダ地域保健推進賞(個人受賞)、2014年第10回精神障害者自立支援活動賞支援者部門(共同受賞)。

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