日本の元気を創生する ‐開業保健師の目指していること‐
一般社団法人 日本開業保健師協会
No.9-2 ナースがおうちで産後ケア。北欧の産後家族看護を日本にも。( 株式会社 イマココ・クリエイト)
株式会社イマココ・クリエイト代表取締役/ 一般社団法人 国際ナーシングドゥーラ®協会代表理事
渡邉 玲子
こんにちは。
開業保健師に関心のある皆様、また、地域母子保健サービスに関心があるみなさま。日本開業保健師協会の理事の渡邉玲子です。
前回は、私が地域母子保健サービスで起業したきっかけを中心に北欧での産後ケアについてお話しました。今回は、帰国後から産後ケア事業立ち上げまでをご紹介します。
写真は筆者と三人の子。まだ真っ暗な午前中でも完全防寒で外へ。北欧流冬の産後うつ予防法です。
大学院で研究
北欧の産後ケアに関心をもった私は、帰国後、早速、日本はどうかなのかが知りたくなり大学院に入りました。研究テーマは、「産後支援者選択要因」。ある総合病院に入院中の褥婦10名のインタビューから抽出したキーワードをもとにある医療機関で出産した同じ病院の約100人の褥婦を対象にアンケートを実施したのです。
その結果、研究対象の褥婦から見て、育児家事支援の必要性は理解しているのに、それができない「産後支援者」を選択していることがわかりました。
インタビューからも、忙しい実母さんが時間を作ろうとしているのに、また、パートナーさんも頑張って手伝おうとしているのに、産後女性としては役に立たないと感じている事例がありました。
これも産後の孤立感と関係しているのではないかと推察しました。
この研究結果は、私自信の体験で感じた「孤立」や、卒後出会った約5,000人のママたちとの関わりから感じていた「孤立」の理由を単に明らかにしただけでしたが、看護職として日々の気づきを少し明らかできた喜びを感じ、「形」にするステップになりました。
さらに実践。そして人材育成へ。
形にするには、まずは経験が必要ということで、一般市民の女性を対象にした「ホームスタート」と「産後ドゥーラ」という資格を取り働きました。
とても忙しく、こんなにも産後支援サービスへのニーズがあるのかと驚きました。一方、たった一人では、責任ある仕事ができないと、仲間を募りました。
しかし、「ホームスタート」は非看護職。「産後ドゥーラ」も非看護職です。
母乳確立、障害児、精神疾患の母親への支援等の場面、出生後に出てくる様々新生児や女性の心身の変化と、お父さんのニーズに対して、お手伝いしたいとがんばられている一般の主婦が、戸惑い巻き込まれる姿を見て、患者さまへの対応には慣れている看護職に特化した人材育成の必要性を感じました。
折しも、新卒時に働いていた聖路加国際病院や看護大学の恩師の先生方とと再会する機会があり、同院NICUの草川功医師に相談し、ご理解ご賛同いただき「ナーシングドゥーラ®」の育成を始めることにしました。
現在、私が運営している産後ケア会社、株式会社イマココ・クリエイトでは5名の「ナーシングドゥーラ®」を中心に助産師・理学療法士・栄養士など多職種による訪問型の産後ケアサービスを提供しています。
ナーシングドゥーラ®とは
一般法人国際ナーシングドゥーラ®協会主催の約50時間以上からなる養成講座の受講を義務付けています。実習を積んで試験に合格すると認定ナーシングドゥーラ®になることができます。
母性や小児看護の経験のない方は、私の会社の研修生となり、勉強しながら実践が積めます。熱意のある人は起業もしています。貧富の差や疾病のあるなしに関わらず全てのお母さんとお父さん、家族の皆さまへの愛とコミュニケーション力、普通の育児家事ができるナースならどなたでも大丈夫です。
遠方も受講できるよう前半はWEB講座が中心となっています。また、訪問先のお母さんお父さん祖父母さまの育児の悩みに応えられるよう、研修では東京都教育委員会監修「乳幼児期からの家庭教育支援プロジェクト」や、解剖生理の参考書等を使用し、育児指導の理論的根拠も勉強していただいています。
サポート後のWEBカンファレンスでは、家族の発達課題を踏まえたパートナー様や実母様へのサポートについても意見交換しています。
保活のお手伝いもしていますので子育て中のママナースも歓迎です。
脳科学に基づいた看護介入
人間は動物です。産後はホルモンバランスの変化のなか、母性のスイッチが入り頑張れるようになっています。ちょっとしたことが気になるのも子どもを守ろうとする本能です。そんな時期に「がんばらなくていい。」「気にしすぎ。」と言われると、逆に、本能で支配されている自分を知性で抑制しなければならなくなります。
ですから、寄り添い産後ケアが必要。食事を提供したり、掃除したり、お母さんの肩を抱いたり、体をさすったり、足浴などのスキンシップなど産後の療養環境を整えてお母さんの本能をリラックスさせます。。
食べられていなければ、心を込めて食事を作り「ナースがちゃんと見ていますから安心してくださいね。」と申し上げて少しでも体を横にしてもらい、脳血流を促進させ大脳新皮質が活性化を促します。
さらに、お母さんのお話を伺い感情表出を促し大脳辺縁系を活性化させます。
感情をしっかり受け止め信頼関係を築いてから、大脳新皮質に対して情報提供、つまり、育児指導を一回の訪問につき一個くらいというイメージで行います。もちろん、社会的ニーズを満たすために、頭ごなしではなく今されているおうち流をできるだけ肯定しプライドを尊重します。
まともに食べていない、寝ていないも信頼関係ができていないお母さんにあれこれ育児指導するような脳科学的に無理な看護介入は一切しません。
お客様の「目で見て、手を当てて、護る。」という看護の基本に戻れるのがナーシングドゥーラ®です。
ナーシングドゥーラ®は、理論的根拠に基づいてナースが育児家事支援を行い、OJTで育児指導を行う全く新しい看護です。新しい家族を迎えることによる役割変化を支援し、家族のエンパワメントを図るとてもやりがいのある地域看護です。
今後の活動について
現在、東京都江東区と世田谷区を中心に展開しています。産科クリニックとの提携も進み産後すぐに伺えるようになりました。
大企業のように広く広告はしていませんが、2013年のスタート時から、主に、医療関係者から直接ご紹介いただき計90件の家族の産後ケアを提供してまいりました。
ひとりひとりのを大事に、受講生もゆっくり自分のペースで実力を付けています。これからも、病院と地域をつなぐ架け橋となれる人材をじっくり育成したいと考えています。
ナースがおうちで産後ケア。北欧の産後家族看護を日本にも。
一般社団法人国際ナーシングドゥーラ®協会はナースの笑顔と子育ての楽しさ広がる社会づくりに貢献します。