日本の元気を創生する ‐開業保健師の目指していること‐
一般社団法人 日本開業保健師協会
No.7-2 開業してから(エルイーシー合同会社)
エルイーシー合同会社 代表
水越 真代
1つ1つの仕事をきちんとし、信頼を得ることで次の仕事へ
独立、開業されている方を見ると、2つのパターンがあるのではないかと思っています。
一つは「個人の魅力」で仕事をしている方、もう一つは、「提供しているプログラムの魅力」で仕事をしている方です。
「個人の魅力」で仕事をしている方とは、「あなただから」研修・健康相談・お仕事を頼みますというパターンです。「プログラムの魅力」とは、何かの課題を解決するためには、お宅の商品を使うことが必要ですというパターンです。もちろん、どちらの要素も大事なので、どちらか一方ということはないのですが、どちらの割合が大きいかということがあるのではないかと思います。
私自身を振り返ってみると・・・創業道場で一応事業プランを決め、ホームページをつくり、チラシも作りました。ビジネスプラン発表会に出たり、商工会に入り、ビジネスフォーラムに出展したりしました。そこから仕事を広げることはできませんでした。多分立てたプログラムが、課題をどのように解決するということが伝えられなかったからだと思います。
少しずつ仕事が増えてきたのは、これまで勉強してきた保健指導面談技術やファシリテーションの技術を特定保健指導実施者研修で話してほしい、健康づくりのボランティアを育成するワークショップをしてほしい、メンタルヘルス研修をしてほしいという「水越さんに研修をお願いします」でした。
振り返ってみれば、一つの仕事をきちんとし、信頼を得ることで次の仕事につながる。そんな流れで続いてきたように思います。研修のリピート率は、90%以上です。アンケートの中では、新しいこと知識が増えたというよりは、水越さんの研修を受けると「元気になるね」「自分のこれまでを振りかえることができたよ」と言ってもらうことが多く、私自身の仕事に対するモチベーションにつながっているなと感じています。
あなた自身は、まずどの切り口でスタートしたいと考えていますか?そこを整理するとスタートの仕方や仕事の仕方が全く変わってきます。
私の知り合いは、「雇わない」「雇われない」をモットーに独立している人もたくさんいます。戦艦大和になろうとするのか、一人乗りの小回りのきくボードで行くのか・・独立に対してのポリシーなのだと思います。
保健師としての自己成長
個人の魅力でお仕事を増やそうとする場合、SNSで情報発信をすることはとても必要かつ効果的なことといわれて言います。しかし私は、自分で自分を語ることが大の苦手です。仕事のことや日常の出来事をブログに書く、ましてや相手の役に立つ文章を書くなどと考えると、取り掛かるまでの億劫感は半端ありません。また自分で自分を宣伝するのがなんだか恥ずかしく、「わかってくれる人だけでいいわ」なんて起業者としてはあるまじき発想の持ち主です。
それに加え保健師の仕事は、なかなか理解されにくい仕事です。栄養士さんなら食事のこと、運動指導士さんなら運動のことなど言えますが、保健師の仕事は幅が広く、いったいどんなことをしてくれるのかをどうやって伝えるかが一番難しいと感じています。
それでも振り返ってみれば、2012年に開業してから2015年に法人化し、それなりに進んできました。振り返ってみると、2012年に開業してから、出会う人の幅はぐんと広がりました。企業の人事系の人、様々な分野で開業している人、コンサルタントをしている人など、今まで出会ったことのない人たちと出会い、組織やリーダーシップなど今まであまり考えてこなかった考え方を学びました。メンタルヘルスの知識や対応も深まったなと感じます。自己成長という視点から見れば、大きく進んだ数年だったように感じます。
これから「いままで保健師の手が届いていない人と組織に、健康づくりのサービスを届けたい」という当初の目的は、本当に少しずつ進んでいます。国の動向を見ていても、健康経営はこれからどんどん進んでいくでしょう。働き方改革の中では、保健師は大きく役に立つと思います。
自分が何のために仕事しているかを明確に持っていることで、どんな人と出会うのか、その出会いから何を学ぶかが変わってくると思います。開業をする目的を、ぜひ自分の中で意識することをお勧めします。
今後の課題 ~成果を見せることができるプログラムの構築~
これまでは「個人の魅力」で仕事が広がってきました。しかし、今後は、「あなたのところにはこんなことが課題です。そしてこんな方法を一緒にしていくと解決できますよ」という成果をきちんと見せられるようなプログラムを持ち、会社として提供していくことをしていきたいと考えています。
そして戦艦大和を目指すわけではありませんが、一人で動くだけではなく、仲間とともに提供し、もう少し多くの人たちの役に立ちたいと思っています。
そこで、今年度新しい研修プログラムを開発しました。
1つ目は、ラボラトリー方式の体験学習の基づく「管理職のための職場環境改善」
2つ目は、上司が部下に面談をして、メンタル不調を予防する「1on1面談研修」
そして、研修で意識した行動を定着化させるため、SNSで8週間フォローする習慣化プログラム「Bigin!」です。
現在「できる管理職のための職場コミュニケーション術」としてラインケアの分野で実施することができ、成果を検証しているところです。
また、フィジカル面では血糖値教室で実施をし、未治療者で85%の改善があり手ごたえを感じています。
どんな人がどんな悩みを持っているのか、どんなふうに解決したらいいのか、その人たちにどうやったら買ってもらえるのか・・そこをしっかり考えて仕事を構築していく。ビジネスの分野ということで戸惑うことも多いのですが、本質は公衆衛生の考え方と同じだと考えています。
私のスタートからこれまでを書いてみました。もしこの文章が少しでも誰かのお役になれたら幸いです。そしてどこかでお会いすることがあればぜひ声をかけてください。「水越さん、その後どうですか?私は・・・」って。