日本の元気を創生する ‐開業保健師の目指していること‐
一般社団法人 日本開業保健師協会
No.11-1 「仕事の軸」〜有限会社ビーイングサポート・マナとして〜
有限会社ビーイングサポート・マナ 代表取締役/日本開業保健師協会 会長
村田 陽子
仕事の報酬がもらえなくてもやりたいことは何ですか?
開業するのに大切なことは、やりたいこと、ビジョンが明らかであることと、よく後輩たちに話します。中には独立することに憧れていて何をしたいのかが明確でない人の相談を受けることもあります。
開業したい人のコーチングで良くする質問に「報酬がもらえなくてもやりたいこと」「ベーシックインカムがあっても仕事にしたいことは何ですか」というのがあります。
今回はこの質問にわたし自身が答えてみようと思います。
「あなたのやりたいこと、やってきたことは」と言われると、その時々で少しづつ変わってきているように思います。ただ、独立してからの29年(5年の個人事業主、法人化して24年)を振り返る時にどの事業や仕事にも共通して貫いていた串、私の中で一貫して変わらない軸があります。一言で言えば「自己決定」という言葉です。
健康教育を企業内でも独立してからも事業として行ってきました。形は講師であったり、カウンセラー、コーチであったりしますが、関わる人たちが悔いのない人生を送って欲しい、幸せであって欲しい、最後を迎える時に「自分らしい生涯だった」と満足して終わって欲しいという願いです。それこそが人の幸せだと思えたからです。
20年ぐらい前でしょうか、単身赴任者の生活とストレス状況の聞き取り調査をしたことがあります。単身生活の不便さや利点、ストレスなどを聞く中で、単身赴任を意味あるものとしている人と負のストレスと感じている人たちにそれぞれ共通点があることに気づいたのです。
単身赴任生活を後ろ向きに捉えている人は、単身赴任生活を仕方なく、あるいは子供達の年齢から考えてそろそろ異動があったら単身赴任となんとなく思っていて、そのようにしたと話す人が多かったのです。反対に単身赴任生活を通して子供たちとより親密になった、知らない土地でエンジョイしている、と答えた人の単身赴任のきっかけを聞くと「家族会議をした結果、こちらを選んだ」と多くの人が答えていました。家族会議をしなくても、十分考えて決めているのです。
この違いに気づいた時、自分で選択したかどうかはその後の生活態度に大きく影響しているのかな、あるいは自分で主体的に動く習慣がある人が、与えられた環境や状況を自分の中で生かしていけるのかなと思いました。
ますます、自分で自分の行動を決めることは自分が人生の主体になって生きることにつながると信じるようになりました。
「自己決定を援助する健康相談」
私が独立した頃の仕事の大半は研修講師でした。特に保健師をはじめとする保健医療従事者に向けた面談スキルや健康教室の進め方をトレーニングするものでした。最初にこの研修を始める時に、どのようなタイトルをつけようかと迷いました。当時、行動変容へのアプローチが盛んに言われており、「行動変容させる方法を紹介してください」と良く言われました。その度に違和感を感じました。
『「させる」ってなに?』
私がしたいのは健康行動を取るか、取らないか自ら考え、自ら決めていくことをお手伝いする面談なんだけどな、と。
自己決定を表す言葉を探し「自己決定」して欲しいんだと思い至り、「自己決定を援助する健康相談」と名付けました。今もこの考えは揺るぐことがありません。
自分の行動を決めていくことをお手伝いできる人を増やしたい。自分のことは自分で決める、決めたことに責任を持った生き方をする。それを支援する人たちが増えたら、主体的に生き生きと生活する人が増えるのではないだろうか、病気があるなしにかかわらず、幸せな人生を全うする人が増えたらいいなという思いから、この研修を30年続けました。
ここまでが有限会社ビーイングサポート・マナでの事業です。ビーイング=その人の存在、あり方。決してドゥーイングではない。サポート=支援する、決して、何か「させる」ような強制や強要はしない。マナ=生きるのに不可欠な食べ物。心に必要な真の愛(まな)を持って行う、という意味が、この会社の理念でもあります。
自分で自分のことを決めることで生き生きと自分らしく悔いなく生きて欲しい、これが私の願いであり、そのために働いてきました。