日本の元気を創生する ‐開業保健師の目指していること‐
一般社団法人 日本開業保健師協会
No.5-1 民間からの提案「ゆりかごタクシー ~命をつなぐ協働リレー~」(ナーシングクリエイト株式会社)
ナーシングクリエイト株式会社 代表取締役
押栗泰代
それは1件のお産をきっかけにして始まりました。
2012年の冬。一人の女性が妊娠。「もしここで陣痛が始まったら彼女はどうやって病院へ一人で行くのだろうか?」「タクシーは陣痛の始まった産婦を好んで乗せてくれるのだろうか?」非常に純粋な疑問が頭をよぎりました。そして「なんなら自分でタクシー会社を作ろうか?」という単純な発想につながったのです。
陣痛破水時にも安心していただけるタクシーサービス。
専門研修を受けたドライバーさんが対応します。
(ご利用には事前登録が必要)
とりあえずかけあってみるということで、市内の大手タクシー事業者の社長様のところへ相談に伺いました。社長は「その話(陣痛・破水の始まった産婦を輸送すること)はいい話なので協力しよう」とすぐに受け入れてくださいました。実際に需要があるのかを産婦100人に調査したところ100人中4人陣痛が始まっているにも関わらず自分で運転をして病院へ行ったということも分かり事業として滋賀県タクシー協会へ提案しました。
近畿陸運局の方が出席されるタクシー協会の勉強会の場を借りて「陣痛破水時のタクシー乗車受け入れについて」各社社長の前で話をさせていただき、すぐに話はまとまりました。「もっと多くの必要組織の方にも協力してもらい事業化しませんか」という提案を受け動きが始まったのです。
妊産婦さんにやさしいタクシーの運行を目指して
滋賀県産科婦人科医会、滋賀県看護協会、滋賀県、大津市、大津市消防本部、大津市民病院、各タクシー事業者が一堂に会し、「妊産婦さんにやさしいタクシーの運行を目指して」というテーマで会議が進みました。事務局は近畿陸運局・滋賀県タクシー協会・認定NPO法人マイママ・セラピーが務め、実際にこのようなサービスに利用者はいるのかということに審議は集中しました。
大津市の保健師さんたちの協力のもと母子健康手帳をもらいに来られた250人の方に「陣痛破水時に妊産婦さんにやさしいタクシーがあったら使いますか」というアンケートを実施し、全体の7割の方から「このようなサービスがあったら使ってみたい」という回答から、「ゆりかごタクシー」として運行に向けた内容へと進んでいきました。
課題解決のための「研修会」と「ゆりかごセット」
課題は妊産婦から「汚したらどうしよう」「慣れてない人のタクシーは不安」 タクシードライバーからは「汚されたらどうしよう」「妊産婦さん、なんかあったら怖いな」という2点に絞られました。
解決のためにドライバー、オペレータを対象とした研修会を実施。講師には滋賀県看護協会助産師職能委員会に依頼し、実際場面での対応について実習を加え、オペレータにも誘導方法の研修内容が盛り込まれました。同時に汚染対策に「ゆりかごセット」の準備を進めました。
ゆりかごセット(マイママhouse)
集中的な会議により、一気に運行するための準備が進められ2013年10月10日、滋賀県庁前から大々的なセレモニーとともに滋賀県南部地域にゆりかごタクシーが走りました。2014年10月10日、湖北地域特有の課題を解決し北地域での事業拡大。
そして2015年10月10日、地域格差をなくすために滋賀県全域でゆりかごタクシーが運行されることとなりました。
これは普段から妊産婦さんにかかわる小さなNPOの思いつきから始まり、たくさんの方々のご支援委より県域全体に拡大した事業へと発展をしました。
最初の純粋な疑問がわき出した妊婦さんはというと、この仕組みには間に合わず夫に送ってもらいお産しました。
実は、その子はもう4歳になるかわいい孫なのでした。娘を想う母心が生み出した事業がこのように大きくなるとは夢にも思っていませんでしたが、今では多くの妊産婦さんのお役に立てる事業になったことを大変うれしく思います。
《(一社)日本女性心身学会 VOL.21 NO3 March 2017投稿記事より一部抜粋》