オピニオン/保健指導あれこれ
日本の元気を創生する ‐開業保健師の目指していること‐
一般社団法人 日本開業保健師協会

No.4-3 保健師が変えてはならないこと、変えていくこと(ケアプロ株式会社)

ケアプロ株式会社 代表取締役
川添高志

保健師が変えてはならないこと

 保健師の仕事は、儲かるか、制度に触れないかではなく、本当に社会に必要かが最も重要なことです。社会に必要な保健活動を提供し続けることが変えてはならないことです。

 私がケアプロを始めたのは、セルフ健康チェックが世の中に必要であると確信を持っていたからです。病院で看護師をしていた時に、健康診断を受けずに、病気になって後悔する方を何人も見てきました。中には、医療費が年間700万円の方もおり、それらの医療費が私たちの税金や保険料が使われていることを知り、個人にとっても社会にとっても生活習慣病の予防は大切であると実感しました。

 しかし、私の病院に入院した糖尿病患者の半数程度が、健康診断を受けていませんでした。実際、過去1年以上健康診断を受けていない人(「健診弱者」と私が命名しました)は、全国に約3500万人(厚生労働省2004年)という調査結果があります。

誰もが、健康診断を受けられる世の中の実現を目指して

 組織に属している場合は、半ば強制的に健康診断を行うことになりますが、働き方が多様化している今日、定期的な健康診断を行わないで何年も過ごす場合もあります。誰もが、健康診断を受けられる世の中は必要なことです。

 日本は、食べるものも着るものも困らない国だと思っていましたが、健康診断を受けられない人がこれほどまでに多いのは驚きでした。私は医療者として、この問題に取り組まなければならないという使命感を抱きました。

 医師不足や看護師不足と言われますが、健康診断を受けないことによって、予防医療が進まず、患者が多すぎるのです。ただ、病院の中で働いているだけでは、患者を減らすことはできません。何らかの新しい取り組みが必要であると思っていました。

 そこで、生活習慣病の本質的な問題の打開策として考えたのが、自己採血で手軽に血糖値やコレステロール、中性脂肪などが測定できるサービスでした。誰でも“気軽に”、“安価に”健診を受けられることで、子育て中で健診に行けなかった主婦、平日は仕事から抜けられず休日にしか時間が取れない自営業者、収入が少ないために健診を受ける余裕のないフリーター、保険証を持っていない外国人などが利用できます。

 私は、学生時代から貯金していた1,000万円を資本金として、起業しました。周囲からは「起業はリスクが高い」と何度も言われました。しかし、病棟の患者から「絶対に成功してほしい」「私たちのように後悔する人を減らしてほしい」と言われ、ケアプロを作ることを約束しました。世の中に必要なサービスであるという確信があったため、リスクがあることは理解しつつも、挑戦していくことを決意しました。


スーパーマーケットで健康チェック

保健師が変えていくこと

 変えていかなければならないことは、法律とビジネスモデルです。世の中には様々な法律があり、保健師ができることも、できないことも、法律で規定されています。ドローンができたことによって法律が整備されたのと同様に、世の中の変化に合わせて、法律を変えていく必要があります。また、保健活動をしていくためには、お金が必要です。パン屋が新しいパンを作ったら価格を設定したり、原材料費が安くなった時に販売価格を安くしたりするのと同様に、保健師のビジネスモデルも変えていく必要があります。インターネットができることによってインターネットショッピングが始まり、医薬品の販売もできるようになってきました。

 私が病院で患者に「どうしたら健康診断に行きましたか」と尋ねたときに、「500円くらいからだったら」「家の近くのスーパーで受けられたら」「予約や保険証が不要だったら」といった意見がありました。そんなことは無理だと思わずに、それらのニーズに対して、どのように対応していけばよいのかを考えました。

 そこで思いついたのが、自己採血という方法でした。糖尿病の方は自宅でも自分の血糖値を測定するために、自分で指先から採血をします。この方法であれば、医療行為ではないため、病院の外で、医師がいなくても検査ができます。また、コストを抑えることができ、安価なサービスを提供することができます。

サービスを開始から事業拡大まで…

 実際にサービスを開始してみると、「今までに自己採血は家庭などでは認められていたが、それを事業としてやるのはやめてほしい」という行政指導がありました。横浜駅にオープンしたお店や埼玉県のイオンショッピングセンターにオープンしたお店は残念ながら撤退しなければいけないほどでした。そのため、毎日のように行政担当者や議員、医師会の方々に挨拶回りにいきました。医師からは「患者を奪うのか」と言われたこともありました。

 しかし、私は患者を奪うのではなく、まだ病院に行っていない人や健康診断に行っていない人に対して早期発見の機会を提供し、もし病気が見つかれば、むしろ医療機関に紹介することを伝えていくことで、理解を得ていきました。

 ケアプロの利用者の中には、「行政がケアプロのサービスを邪魔するなんてどういうことだ」と立ち上がる人までいました。そのような方は知り合いの区議会議員らに呼び掛けて「ケアプロのサービスは保険証を持っていない人のセーフティーネットにもなる」「医療費が抑制できれば自治体にとっても有り難い」と仰っていただけました。

 医学部の研究者の方々も、一緒にケアプロの社会的意義を論文にまとめて発表してくれました。マスメディアもケアプロの取り組みをテレビや新聞などでとり上げてくれました。そのため、利用者や議員、医師、行政担当者などの中で、徐々にケアプロを応援してくださる方が増えていったのです。

 その甲斐があり、2013年に安倍首相のもとで行われた「産業競争力会議」において、民間議員から、「ワンコイン健診の普及によって、主婦やフリーター、自営業者などの健診弱者を救うべきだ」という提言がされたのです。その後、ケアプロの事務所に厚生労働省や内閣府、経済産業省の官僚たちが来て、法律をどのように変えていくのかを話し合いました。

 そして、保健師などが常駐し、簡易血液検査サービスを行う店舗が届け出をすれば事業展開を行うことができるようになりました。今では、ケアプロは自由に事業を広められるようになり、さらに、競合事業者も1000箇所以上となりました。

様々な企業と連携することで、健診弱者を救う

 ただ、500円のお金も出せない人もいるため、ビジネスモデルの工夫も必要でした。そこで、ケアプロは様々な企業と連携することになりました。例えば、パチンコ店と連携することで、パチンコ店のイベントとしてケアプロを呼んでもらうことで、パチンコ店に来る方に無料やパチンコ玉との交換でサービスを受けられるようにしました。パチンコ店には、フリーターや自営業者、主婦などが多く、喫煙者も多いため、健診弱者を救うためには最適の場所でした。

 そこで、パチンコ店に営業に行き、健康イベントを提案してみると、地域貢献やお客様サービスとして高く評価され、パチンコ店から一回あたり20万円程度のイベント予算を頂けるようになりました。


パチンコ店で健康チェック

「日本の元気を創生する ‐開業保健師の目指していること‐」もくじ

著者プロフィール

  • 川添高志
  • 川添高志
    ケアプロ株式会社 代表取締役

    経 歴

     1982年兵庫県生まれ、横浜育ち。2005年3月慶応義塾大学看護医療学部卒業。看護師、保健師。経営コンサルティング会社、東京大学医学部付属病院を経て、2007年12月にケアプロ株式会社を創業。東京大学 医療政策人材養成講座 優秀成果物 特賞を受賞。次代を創る100人(日経ビジネス)、世界経済フォーラムダボス会議グローバルシェイパーなどに選出

    ケアプロ株式会社

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