第97回 日本産業衛生学会「変革期における産業保健のアイデンティティ」
レポート#2
テーマは「変革期における産業保健のアイデンティティ」
2024年5月22日~25日、広島市・広島国際会議場と中国新聞ビルにおいて、第97回 日本産業衛生学会が開催されました(企画運営委員長:真鍋憲幸氏/三菱ケミカルグループ)。
産業保健を進める中で直面する、さまざまな課題が取り上げられました。参加者各自が関心をもつ領域の、最新の知見が豊富に得られる、活気に溢れた3日間となりました。
第97回 日本産業衛生学会シンポジウム19 産業保健看護部会シンポジウム
「変革期における産業保健看護職の基盤づくりと新任期教育」
産業保健看護職は、入職後に「一人職場配置」されることが未だに多い。新任期教育の推進と充実には大きな課題と障壁が存在しており、これらの解決が喫緊の課題となっている。本シンポジウムは、新任期教育のあり方と課題について整理し、産業保健看護職が備えるべき資質の検討を意図して企画された。
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座 長
住徳松子 氏(アサヒプロマネジメント(株)サステナ推進部健康支援センター)
吉川悦子 氏(日本赤十字看護大学看護学部) -
産業保健看護職への期待
中野夕香里 氏(日本看護協会 常任理事) -
産業保健における産業保健看護職の基礎教育について
五十嵐千代 氏(東京工科大学) -
事業所における産業保健看護職の新任期教育
田中美樹 氏(NTT東日本健康管理センタ) -
時代の変化に対応できる産業保健看護職に求められる資質と新任期教育
佐藤裕司 氏(富士通株式会社健康推進本部)
中野夕香里氏(公務のため事前録画にて登壇)は、日本看護協会の立場から、高齢人口がピークアウトする2040年をポイントに、時代の変化を受けた保健医療政策が構築される中で求められる産業保健分野における保健師、看護師の役割を解説。人材確保のためには、育成・教育や活動強化に加え、制度・政策の推進も欠かせないとした。
今年、日本看護協会が厚生労働省に提出した「産業保健分野の保健師等の就業状況・活動実態の把握及び検討の場の設置」が狙うところなどを紹介したほか、提出政策・施策化を確実に推進するには、関連学会・団体と協同したエビデンス構築が重要であるとし、参加者への協力を求めた。
続いて五十嵐千代氏は、日本産業衛生学会 産業保健看護部会長と、教育機関での看護基礎教育を担う立場で登壇した。
2011年の保健師養成所指定規則改正以降、保健師教育は「行政、産業、学校」という個人と集団を連動して展開する特殊性をもつ「公衆衛生看護学」を土台に進められていることを解説。産業保健分野についてあまり教育が行われていない教育機関も多いため、まずは基礎教育における産業保健の強化を進める必要があるとし、産業保健分野への入職希望者や新任期の保健師・看護師に対して、職能に合わせた教育制度の構築が求められるとした。
田中美樹氏は、所属するNTT東日本健康管理センタで展開している育成プログラムの実際と課題について紹介した。
この育成プログラムは、産業保健看護職の役割を理解し基本的な実践能力を習得することを目的に、約20年前に作成されたものである。管轄エリアの拡大や、リモートワーク導入など、さまざまな変化に対応しながら修正が繰り返されていることを紹介し、事業場内で保健師の育成を行うメリットや、保健師採用人数の年ごとのばらつき、入職者の臨床経験の有無による違いといった、新たな人材を育成を進めるうえでの課題などが詳らかに語られた。
最後に登壇した佐藤裕司氏は、大学等看護学科学生の産業現場実習の受入先となり、新卒を含む新任期産業保健看護職の採用を行っている企業の立場から、産業保健看護職に求められる「資質」や、その資質を引き出すための新任期教育について、産業医の立場から意見を述べた。
保健医療職の役割は「健康」に向けてその人の本来持っている力をいかに引き出すかが問われるとし、労働者の力を導き出すには産業保健看護職の「人間力」が必須だとした。この力を培うためには、労働者から学び、自分で考え、学会や研修会に参加することでトレンドを知り時代を「先回り」できるようにし、それでも足りない部分は小説を読むことなどで補っていくといった姿勢が大切だと提言した。
産業保健職になる前の「経験」は必要?
ディスカッションでは「臨床経験を経た後に産業保健師になるべきか」などが論じられた。
五十嵐氏は、海外では「公衆衛生看護」が修士課程になっており、高度な知識・技能が求められる扱いであることを紹介。佐藤氏は、新人で産業保健職として入職することで一般社員と横並びで社員教育を受けることで「企業人として育つ」としたが、学部課程では「第一種衛生管理者」として求められるものまで教えるのは困難ではないかという疑問を呈した。田中氏は、臨床経験があることで個人支援は得意だが集団への対応がわからないという人もいるとしたが、それが決して弱みになることはなく、研修等でフォロー可能だとした。
* * *
新型コロナウイルス感染症の流行、世界情勢の変動など、さまざまなものが「変わる」最中である。本レポートではプログラムのごく一部を紹介したが、第14次労働災害防止計画への対応や化学物質の自律管理、産業保健と法律に関するセッションなど、変革期において重要なテーマが多数取り上げられた。
人生100年時代では長期雇用が身近となり、人生において「労働」が占める時間は延伸する。「産業保健」の需要はますます高まるだろう。産業保健に関する知見の集積も加速しており、情報のアップデートは欠かすことができない。「変革期」だからこそ、本学会のような場で積極的に情報をアップデートすることの必要性を感じる大会となった。
今後の開催情報
次回、第98回 日本産業衛生学会は、2025年5月14日~17日の会期で、仙台国際センター展示棟、川内萩ホール(東北大学)などを会場として実施することが発表されている。なお、今年10月には第34回 日本産業衛生学会全国協議会が開催される。
第34回 日本産業衛生学会全国協議会(公式サイト)
- テーマ:一歩先の産業保健を切り拓け! ~過去から未来への懸け橋に~
- 会 期:2024年10月3日(木)~10月5日(土)
- 会 場:かずさアカデミアパーク(千葉県木更津市)
- 開催方法:現地開催および後日オンデマンド配信
第98回 日本産業衛生学会(公式サイト)
- テーマ:持続可能でよりよい世界を目指す産業保健
- 会 期:2025年5月14日(水)~17日(土)
- 会 場:仙台国際センター展示棟、川内萩ホール(東北大学)、青葉山公園仙臺緑彩館、仙台市博物館
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