政府目標「2030年に死者半減」の鍵 東大・国環研チームが示した新たな熱中症警戒アラート基準
東京大学大学院医学系研究科のPhung Vera Ling Hui(プン ヴェラリンフイ)助教、橋爪真弘教授らの研究チームはこのほど、国立環境研究所、長崎大学などと共同で、全国47都道府県の熱中症死亡データを解析し、暑さ指数(WBGT)と死亡数との関連を評価。
現在は翌日・当日の日最高暑さ指数(WBGT)が33(予測値)に達すると「熱中症警戒アラート」が出されるが、地域・時期に応じた「熱中症警戒アラート」の発表基準が効果的だとの分析結果を示した。
基準は地域や時期に応じて柔軟に設定
記録的な高温が頻繁に観測され、熱中症による健康被害が深刻化している。政府は、熱中症対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、令和5年5月30日に「熱中症対策実行計画」を閣議決定し、「2030年に熱中症による死亡者数の半減を目指す」とする目標を掲げた。
また2021年に「熱中症警戒アラート」が全国で導入され、WBGTが33以上と予測される場合に発表されている。しかし南北に長い日本では地域によって気候が大きく異なり、効果的な運用には地域特性を踏まえた工夫が必要との議論があった。
そのため研究チームは、地域性を踏まえ、政府が掲げる「2030年までに熱中症による死亡を半減する」という中期目標の達成に資する基準を検討。さらに、月別、年齢層別、性別によって効果的な基準値がどのように異なるかについても調べた。
研究では、全国47都道府県のデータを用い、DLNM(Distributed Lag Non-linear Model)を用いたケースクロスオーバー解析という統計手法により、都道府県ごとの暑さ指数(WBGT)と熱中症死亡数との関連を推定。24℃~35℃の各WBGT値における暑熱曝露に伴う熱中症死亡数を算出し、高いWBGT値から順に積算した。
そのうえで、WBGT値で熱中症警戒アラートを出して対策がとられたと仮定したときに、そのWBGT値以上の暑さの日に本来なら防げたとみなす熱中症死亡の数を「回避可能死亡数」と定義。この回避可能死亡数が全体の50%に達するWBGT値を「新たな基準」とした。
その結果、WBGT 33という全国一律の現行基準では回避可能死亡数は全体の約2~3%にとどまる一方、基準をWBGT 31に設定した場合には、死亡を半分程度減らせる可能性があることがわかった。
出典:国立環境研究所
また、7~8月の回避可能死亡数は5~6月や9月に比べて多いことがわかった。そのため、初夏(5~6月)や9月は「低め」、盛夏(7~8月)は「高め」の基準が適しており、時期に応じて調整することが効果的であることが示された。
さらに、夏季の月別、年齢別、性別、地域別で解析したところ、
- 月別:5~6月や9月は24~30と低めの基準が有効
- 年齢別:65歳以上の高齢者では64歳以下よりも低めの基準が有効
- 性別:大きな差は認めない
- 地域別:北海道・東北地方では他の地域より低めの基準が有効
といった傾向が認められたという。
この結果を受けて研究チームでは「熱中症警戒アラートの基準は地域や時期に応じて柔軟に設定することで、より効果的に熱中症死亡の抑制につながる可能性」を示唆。今後もさらなる気候変動が予想されることから、基準は適宜見直していくのが望ましいとしている。
熱中症特別警戒アラートの基準も見直しへ
2024年4月からは、熱中症警戒アラートの一段上の「熱中症特別警戒アラート」が新たに創設された。都道府県内において、全ての暑さ指数情報提供地点における、翌日の日最高暑さ指数(WBGT)が35(予測値)に達する場合等に発表される。11月13日には環境省で「熱中症特別警戒アラート」の基準の見直しなどを検討する会議が開かれ、議論が進められている。
地域・時期に応じた「熱中症警戒アラート」発表基準──熱中症死者数の半減に向けて──(国立環境研究所)
令和7年度 第1回 熱中症特別警戒情報等に関するワーキング・グループ
「熱中症特別警戒アラート」とは?(環境省)
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