【令和7年版 過労死等防止対策白書】精神障害の労災支給決定が初の1,000件超え 長時間労働は改善もメンタル対策は目標未達
厚生労働省は「令和7年版 過労死等防止対策白書」(令和6年度調査)を公表した。10回目となる白書では、労災請求・認定の動向に加え、重点業種におけるリスク要因や外食産業の実態調査が示されている。
働き方改革が進む一方で、精神障害に係る労災の支給決定件数は1,055件と初めて1,000件を超え、過去最多を更新した。長時間労働だけでなく、対人関係によるストレス要因が増加し、医療職や産業保健スタッフにとっても無視できない状況が浮き彫りとなった。
精神障害の労災認定が過去最多に 医療・福祉で突出
令和6年度の労災補償状況をみると、精神障害の請求件数は3,780件、支給決定(認定)件数は1,055件に達していることがわかった。
注目すべきは、自殺以外の事案は平成22年度比で約3.5倍に増加しており、増加傾向が続いている。
出典:「令和7年版過労死等防止対策白書〔概要版〕」P.7(厚生労働省、2025年10月28日)
近年では、女性の請求件数が男性を上回る年度が続いており、令和6年度は1,930件と前年度から104件増加し、女性の増加が目立つ。
業種別での請求件数をみると、「医療、福祉」が969件(25.6%)と最も多く、「製造業」が537件(14.2%)、「卸売業、小売業」が512件(13.5%)と続く。
また、労災支給決定をみても「医療、福祉」が259件(24.5%)がトップで、次いで「製造業」が140件(13.3%)、「卸売業、小売業」が111件(10.5%)という結果で、医療職が働く現場でも、精神的負荷の高さが反映されている。
出典:「令和7年版過労死等防止対策白書〔概要版〕」P.8(厚生労働省、2025年10月28日)
精神障害の発病要因として、「対人関係」に関する出来事が1,519件と突出して多く、前年度から大幅に増加した。その内訳では「上司とのトラブル」が953件で全体の約6割以上を占めており、前年から354件増加。パワーハラスメントも389件と高水準で推移している。
長時間労働だけでなく、仕事や職業生活に関することで労働者の68.3%が仕事に起因する強い不安・悩み・ストレスを経験しており、3人に2人が強い不安や悩みを抱えている現状があることもわかった。職場のコミュニケーション環境の改善やハラスメント防止対策の強化が喫緊の課題であることを示している。
長時間労働は減少傾向も、業種差は依然大きい
一方、脳・心臓疾患の労災支給決定件数は241件と、令和5年度に大きく増加したものの、長期的にみると横ばい傾向を示している。業種別で3年ごとの平均事案数の推移(20~22年)をみると、「自動車運転従事者」が56.0件と最も多く、次いで「建設業」が24.7件、「外食産業」が9.0件となっている。
週60時間以上働く雇用者の割合は8.0%と前年から0.4ポイント減少し、10年前(平成26年)の14.0%と比べると明らかに低下しており、長時間労働の是正が少しずつ進んできたといえる。
しかし、業種別に見ると「運輸業、郵便業」が17.7%と最も高く、「宿泊業、飲食サービス業」が15.1%、「教育、学習支援業」が13.9%と依然として高水準にある。
重点業種とされている「医療、福祉」は5.0%、IT産業を含む「情報通信業」は5.8%と全産業平均を下回っていた。令和6年4月から建設業、自動車運転業務、医師等にも時間外労働の上限規制が適用されたが、これらの重点業種では、引き続き注視が必要であろう。
年次有給休暇の取得率は65.3%と9年連続で増加し、過去最高を記録した。企業規模別では大企業で7割前後、中小企業では6割程度と、規模による差が残る。制度の整備が進んでも、実際に「休める」雰囲気や人員体制が整っていない職場も少なくないことを示唆している。
メンタルヘルス対策は63%止まり 中小企業で遅れ顕著
メンタルヘルス対策を実施している事業所は63.2%にとどまり、前年より0.6ポイント低下した。目標値の80%には大きく届いておらず、特に小規模事業場での対策が遅れている。
労働者数50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施割合は33.5%にとどまっており、中小企業への支援強化が課題となっている。
仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は68.3%に上り、職場に相談先がある労働者の割合は81.5%と高いものの、実際に相談につながる体制づくりが重要となるのだろう。
出典:「令和7年版過労死等防止対策白書〔概要版〕」P.5(厚生労働省、2025年10月28日)
重点業種ごとに異なるリスク要因 外食・運輸・医療で深刻
今回の白書では、重点業種ごとの労災事案の傾向分析も行われている。
医療分野では「悲惨な事故や災害の体験、目撃」「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせ」の割合が特に高く、自動車運転従事者や外食産業では「1か月に80時間以上の時間外労働」の割合が高い。「2週間以上にわたって連続勤務」は建設業が高かった。IT産業や芸術・芸能分野では「仕事内容・仕事量の大きな変化」、教職員では「上司とのトラブル」「パワーハラスメント」の割合が他業種より高い傾向がみられた。
外食産業のアンケート調査では、店長の14.9%、エリアマネージャーの24.0%が週60時間以上働いており、カスタマーハラスメントの経験率も高い。「継続的な執拗な言動」「威圧的な言動」「精神的な攻撃」が主なカスハラの内容となっている。
* * *
毎年11月は、厚生労働省が定める「過労死等防止啓発月間」でもある。
今回の白書は、日本の働き方が依然として危険な水域にあることを示した。特に心の病による労災請求や認定件数の増加は、社会全体でメンタルヘルス対策、そしてハラスメント対策に取り組む必要性を訴えかけている。
これを機会に私たち一人ひとりがこの現実を知り、声を上げるべき時は上げ、職場環境の改善に取り組むことが、過労死のない社会への第一歩となるだろう。
参 考
「令和7年版 過労死等防止対策白書」を公表します|厚生労働省(2025年10月28日)
令和6年度過労死等防止対策白書|厚生労働省
令和7年版過労死等防止対策白書〔概要版〕|厚生労働省
過労死等防止対策|厚生労働省
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