オピニオン/保健指導あれこれ
高齢者の特性に配慮した「エイジフレンドリー職場」を目指して
日本産業衛生学会エイジマネジメント研究会

No.3 健康診断データから考えるエイジマネジメント

一般財団法人日本予防医学協会 営業統括部 健康情報分析課
谷 直道

はじめに

 近年、厚生労働省は健康診断(以下、健診)データ等を基盤としたデータヘルス[1]やコラボヘルス[2]を推進しており、データを利活用した保健指導の必要性がますます高まっています。
 本連載の「No.1 人生100年時代の労働者に向けた保健指導」では、日本産業衛生学会エイジマネジメント研究会の德弘雅哉先生が労働人口の高齢化に伴う3つのリスクを、「No.2 職場における高年齢労働対策」では、そのなかでも特に労働災害のリスクや個人差のリスクについて、横田直行先生に解説いただきました。

 本稿では、健診データから見えてくる職場離脱リスクについて、中長期的な視点で考えてみたいと思います。


健診データから見えてくるリスク

 中高年労働者の職場離脱リスクの最たるものに、虚血性心疾患や脳血管障害などのいわゆる生活習慣病の発症が挙げられます。特に、これら生活習慣病の大きなリスクとされているメタボリックシンドローム対策は現代の労働衛生の大きな課題です。
 では、パソコンやタブレットといったさまざまなデバイスが登場し、日々のライフスタイルや働き方が大きく変化した昨今、健診結果はどのように変化してきたのでしょうか?

 健診結果のうち、身長と体重から得られる体格指数であるBody Mass Index(BMI)を例にとってみてみましょう。まずは、1990年に40歳だったグループのBMIと2020年に40歳だったグループのBMIを男女別に比較してみると(図1)、残念ながら、男性では1990年よりも2020年の40歳のほうが若干高くなっている傾向が窺えます。一方で、生活習慣に気を付けている方が多いのでしょうか、女性はほとんど変わりません。


図1 男女別に1990年で40歳、2020年で40歳だった勤労者のBMI平均値を単純比較したグラフ。

 次に、健診を受診し続けた男女を2つのグループに分けて、20年間のBMI平均値を比較してみました。第1グループ(G1)は1990年に20歳で2010年に40歳になり、特定健康診査の対象となったグループ、第2グループ(G2)は2000年に20歳で2020年に40歳となり特定健康診査の対象となったグループです。
 両グループともに20歳時点から40歳時点まで、20年間のBMI平均値を追跡して比較したグラフが図2です。


図2 BMI平均値を20年間追跡した結果の比較グラフ。
第1グループ(G1)は1990年時点で20歳、第2グループ(G2)は2000年時点で20歳。
両群ともに20年間のBMI平均値の変化を比較した。

 ご覧のとおり、G2、すなわち2020年時点で40歳になった群のBMIが、より高い傾向を示しています。統計的な処理を行っていないものの、G2は過去の同年齢と比較して、労働環境の変化とともに生活習慣の偏りが大きくなっている可能性があり、ややもすると生活習慣病による職場離脱リスクが高くなっている可能性も否定できません。

 したがって、人生100年時代のメタボ対策では労働安全衛生法に基づく保健指導から脱却し、目の前の高年齢労働者だけではなく“将来の高年齢労働者”である若年世代に対しても、より良い生活習慣を身に付けてもらうことができるように積極的な保健指導を行っていくことが非常に重要であると考えられます。

高齢世代における疾病予防のカギは世代に応じた健康管理

 では、若年世代も含めた各世代に応じた対策はどのようなものが考えられるでしょうか?

 一次予防のための最も身近な取り組みは、健康教育ではないでしょうか。某事業場では年代(20代、30代、40代、50代、60代)ごとに異なるテーマを設定して健康教育を行っており、私も毎年講師を務めています。全世代を対象に実施する健康教育と比べて、年代で区切ることで、特定のテーマについてより深く知識を得ることができます。

 たとえば、20代・30代では健診結果と将来の疾病リスクを紐づけ、日々の生活習慣が重要であることに気付いてもらう良い機会になります。
 また、40代以降の中高年労働者ではご自身の身体の変化が自覚しやすくなり、健診の結果を自身のこととして捉えやすい時期でもあることから、心身機能の保持増進や慢性疲労の低減を図るための具体的な対策(たとえばエクササイズやストレッチ)を取り入れた健康教育が有効でしょう。
 高年齢労働者には、健康教育を通じて実際に疾病を罹患した場合に使用できる内部・外部リソースについてあらかじめ知っておいていただくことで、万が一の場合に治療と仕事の両立支援プランを(労使双方が)立てやすくなると思われます。

おわりに

 心身の健康状態は長期間の生活の積み重ねであり、特定の年齢を超えたからといって、ただちに特性が変化するということではありません。したがって、毎年の健診データを活用して若年世代から高年齢労働者まですべての働く世代への対策を検討していくことが、データヘルス時代の保健指導に必要であると思われます(図3)。
 高年齢労働者のさまざまな特性に多面的に配慮したやさしい職場とは、つまり“全世代にやさしい職場”であり、すなわち、これこそが「真のエイジフレンドリーな職場」ではないでしょうか。


図3 データヘルス時代の保健指導に必要なエイジマネジメント施策。
「高齢期を元気に働くために!―70歳雇用に向けた従業員向けエイジ・マネジメント施策に関する調査研究結果―」[3]を元に筆者が一部改変。

参考文献
[1]厚生労働省「医療保険者によるデータヘルス:保険者の予防・健康づくり」
[2]厚生労働省「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」
[3]独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「高齢期を元気に働くために!―70歳雇用に向けた従業員向けエイジ・マネジメント施策に関する調査研究結果―」4p, 高齢期を働くための生活モデル

著者プロフィール

  • 谷 直道
    一般財団法人日本予防医学協会 営業統括部 健康情報分析課
    2006年より整形外科リハビリテーション科勤務、理学療法士養成校教員等を経て、2014年より現職。九州大学大学院 医学系学府 医療経営・管理学専攻修了。
    医療経営・管理学修士(専門職)、衛生工学衛生管理者、第一種衛生管理者、理学療法士、福岡産業保健総合支援センター産業保健相談員/両立支援促進員

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