オピニオン/保健指導あれこれ
労働者の疲労リスク管理・効果的な休み方
―過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の成果と職域での取り入れ方

No.1 過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の紹介

労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所
過労死等防止調査研究センター 上席研究員
久保 智英

RECORDs、ご存知ですか?

 皆さんは過労死等防止調査研究センターをご存知でしょうか? 厚労省管轄の労働安全衛生総合研究所の中に2014年11月に設置された過労死等に関する研究を行う国内唯一の公的な研究センターです。
 英語で「Research Center for Overwork-Related Disorders」なので、頭文字をとってRECORDs(レコーズ)という略称で呼ばれています。

RECORDsの活動:4つの研究の柱

 RECORDsでは大きく4つの視点から過労死や過重労働による健康障害防止に関する研究を行っています(図1)。

図1 過労死等防止調査研究センターの概要
図1 過労死等防止調査研究センターの概要[1]

 「事案研究」とは、労災申請時に労基署で作成される過労死等の労災復命書という書類を全国から収集して、そこに書かれている情報をデータベース化してさまざまな解析を行うというものです。この情報はRECORDsの研究員のみが閲覧を許可されており、過労死等の発生について理解するうえで、大変貴重な情報になります。

 そして「事案研究」だけでは過労死等のメカニズムや対策は論じることができないので、そこから浮かび上がってきた課題を労働現場で確かめる「疫学研究」、実験室実験で検証する「実験研究」の枠組みがあります。

 「疫学研究」は、さらに「コホート研究」と「現場介入研究」に分かれています。
 「コホート研究」では大規模な労働者集団を調査対象として、働き方と健康の影響を数年かけて長期的に観察しており、「現場介入研究」では、介入研究という科学的なエビデンスレベルの高い手法を用いて、労働者の疲労回復に望ましい勤務スケジュールに変更した場合の効果検証を行っています。これまでは、勤務間インターバルに着目した介入研究を主に実施しています。

 一方「実験研究」は、現実場面では因果関係をクリアに見ることができないことが多いため、統制された実験室の中で働き方とストレスの関連性を検証したり、予防に重きを置き、労働者の体力に焦点を当てて、体力を測定する簡便な方法の開発や体力を向上させるための研究を行っています。

 研究の視点はこれまでこの3つでしたが、最近「対策実装研究」を立ち上げました。RECORDsで蓄えられた知見を、実際の企業や業界団体とコラボして実装していくことに主眼を置いて活動を行っています。

RECORDsの研究・成果を活用いただくために

 RECORDsは今年で設立されて10年目を迎えました。最近では、より多くの方に私たちの研究成果を周知・活用していただくための活動も行っています。
 例えば、厚生労働省の「こども霞が関見学デー」というイベントに参加して、将来、働くことになる子供たちに向けて疲労や睡眠、運動について学んでもらったり[2]、メディアにも積極的に出て知見の普及に努めています[3]。

 しかしながら、読者の皆様の多くは、当センターのことをご存じないのではないでしょうか。研究の成果は英文の学術雑誌で発表することが多いため、職場の安全衛生にかかわるような産業保健スタッフや人事・労務の方に、私たちの成果を知り、ご活用いただくことが難しいという問題があります。
 そのような課題解決に向けて、このたびRECORDsのポータルサイト「健康な働き方に向けて」[4]を2023年9月に開設しました。

ポータルサイト「健康な働き方に向けて」

図2 ポータルサイト「健康な働き方に向けて」
図2 ポータルサイト「健康な働き方に向けて」[4]

 RECORDsのポータルサイト「健康な働き方に向けて」(図2) では、主に以下の情報を定期的に発信しています。それぞれの情報へのリンクを設定していますので、ぜひご一読ください。

 ポータルサイトの名前を「健康な働き方に向けて」としているのは、過労死等のネガティブな情報だけではなく、より健康に働くことを支援する情報も併せて発信していきたいというコンセプトによるものです。

 特にインフォグラフについては、職場の健康指導や安全衛生活動などで活用していただければ幸いです。英語の論文を熟読しなくても、論文のエッセンスをすぐ知って活用できることが、インフォグラフのメリットです。
 図3にインフォグラフの例をお示ししました。このインフォグラフは、疲労の回復・ストレスの解消には勤務時間外では物理的に仕事から離れるだけではなく、心理的にも仕事の拘束から離れることが重要だとする「サイコロジカル・ディタッチメント」の効果を検討したものです。ご自身の職場の従業員の方で、勤務時間外でもICTによって仕事につながっている方が多い職場であれば、このインフォグラフを使って健康指導をされることをお勧めいたします。
 これ以外にも、交代勤務やトラックドライバー、ハラスメント、体力、メンタルなどに関するインフォグラフもあるので、是非、ご活用ください。[5]

ポータルサイトを研究成果と社会の「架け橋」に

 10年かけて何もない更地からセンターの研究員やスタッフ、一丸となってさまざまな取り組みを行って徐々に道を切り開いてきました。もちろん、切り開けていない部分もあるかもしれませんし、もしかしたら、違うやり方があったかもしれません。試行錯誤の連続が現在のRECORDsを形作りました。
 ただ、間違いなく言えるのは、私たちの成果はいろいろな方に知っていただき、活用していただいて初めて意味のあるものになるということです。

 そのような意味で、ポータルサイト「健康な働き方に向けて」は、私たちの成果と社会をつなぐ架け橋のような存在ですので、是非、定期的にご覧いただき、活用していただければ幸いです。


参考文献
[1]過労死等防止調査研究センター「RECORDsについて」(2024年 8月現在)
[2]過労死等防止調査研究センター「令和5年度こども霞が関見学デーでイベントを企画しました!」(2024年 8月現在)
[3]過労死等防止調査研究センター「RECORDsメンバー取材対応報告:「首都圏情報 ネタドリ!」(NHK首都圏)」(2024年 8月現在)
[4]過労死等防止調査研究センター「ポータルサイト「健康な働き方に向けて」」(2024年 8月現在)
[5]過労死等防止調査研究センター「RECORDsの研究成果」(2024年 8月現在)

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