「奈良宣言2023」と保健指導現場で注意したいこと
No.3 保健指導と「奈良宣言2023」 ALT>30を受診勧奨の目安に
提供 大塚製薬株式会社
ALT>30を受診勧奨の目安に
ALT>30で、かかりつけ医の受診をうながす、という今回の奈良宣言ですが、保健師の皆さんからの反応はいかがですか。
吉治保健師の方は「ALT>30でかかりつけ医」という内容に、正直、少し戸惑われていると思います。
保健師の皆さんはご存知でしょうが、『標準的な健診・保健指導プログラム』[1]において、ALTについては保健指導判定値が31、受診勧奨判定値が51だからです。これまで、奈良宣言のように数値を明確に示すことはありませんでしたから、実際のところ、男性であればALT43~45を基準(正常)値にしている検査機関が多いと思います。
しかし、この45という数値は、臨床検査項目の共用基準範囲を根拠としています。共用基準範囲は、一定の基準を満たす健常者を集めて、その測定値(基準値)の95%信頼区間を示したものです。また、基準個体除外の条件である「BMI≧28」や「飲酒量(エタノール換算)≧75g/日」に入っていない、というのは自己申告ですので、実際には基準外の方が含まれている可能性もあります。
そのため『日本における主要な臨床検査項目の許容基準範囲』[2]にも、共用基準範囲と臨床判断値は異なる、といったことが書かれています。
例えば、保健師の皆さんは普段、中性脂肪が150mg/dL以下になるよう指導するケースが多いと思います。これは動脈硬化学会などが150mg/dL以下を臨床判断値にしているからなのですが、実は共用基準範囲では中性脂肪(男性)は234mg/dLまでが基準範囲です。このように臨床的な判断値と共用基準範囲の値が異なるケースがあるのです。
ALTについても同様だと考えています。例えば脂肪肝で言えば、アメリカの肝臓学会が2023年に出したガイドラインでも「ALT>30は異常である」と述べています。また今年出された海外の報告で、ALTが正常値を超えている脂肪肝の人は肝硬変や肝臓がんに進みやすい、という結果も出ています。
このような背景から、ALT>30での受診勧奨をお願いしたいと考えています。来年以降、日本人間ドック学会も受診勧奨値を30に変更予定と聞いていますので、より指導が行いやすくなるのではないでしょうか。
保健指導のポイントは?
職域での保健指導で注意するべきポイントはありますか?
吉治コロナ後も在宅勤務中心の企業があると思いますが、自宅でお酒を飲みすぎてしまうと飲酒量が増えます。また、やはり日本人の半分近くはアルコールを代謝する酵素が弱いので、このような方が継続して飲酒していると、肝臓を中心とした臓器障害が起こってきます。
この状況が続くと、肝硬変や肝臓がんのリスクが高まりますし、肝臓以外の臓器への影響、さらにはサルコペニアや肝性脳症といったこともありますから、お酒は適量を楽しむ、というのを社員さんにきちんと指導していただくのが良いと思います。
付き合いや接待などで飲酒機会の多い職場もあります。保健指導スタッフはどのような声かけをすれば良いでしょうか。
吉治企業内で健診を毎年のように受けている社員さんでも、ほとんどの方はALTに注目していなかったでしょう。ですので、まずはこのALTに関心を持っていただけるよう、声かけをしてもらいたいと思います。
そうすることで、社員さん自身もALTの数値を見て「これ、ずっと高いということは肝臓に何か問題があるのかな」というふうに気付けるようになると思うんですね。やはり自分ごととしてとらえなければ、受診行動にはつながりません。
まずは「ALT>30」を強調していただき、「30以上ならかかりつけ医へ」という動機づけに、さらには自分自身の飲酒行動を見直すきっかけになってもらえたらと思います。
保健師が減酒の指導にあたる際、参考になる資料などはありますか?
吉治「奈良宣言2023」のフローチャート(図1)はかかりつけ医の先生に向けて作ったものですが、可能であれば保健師の皆さんにもこの内容を念頭に置きながら、栄養指導や飲酒の指導にあたっていただけると良いと思います。
図1 「奈良宣言2023」フローチャート[3]
栄養指導についてはパンフレットなどさまざまな指導ツールがありますが、飲酒に関しては「減酒.jp」[4]というウェブサイトに参考になる情報が非常に多く入っております。このような情報を参照しながら、保健指導にあたってみてください。
また“奈良”にちなんで「Stop CLD せんとくんのOver 30(ALT>30 U/L)」という啓発動画も作成しています。公開後、おかげさまで、たくさんの方に視聴いただいているようです。1分間の短い動画ですので、これを保健指導の際に使っていただくと、「ALT>30」という数値を覚えていただきやすいかもしれません。
また「奈良宣言2023」特設サイトでは、A4版・両面印刷できるリーフレットも無料でダウンロードできます。これらのツールは自由に使っていただけますので、ぜひ企業や医療機関での健康教室などでご活用ください。
【啓発動画】Stop CLD せんとくんのOver 30(ALT>30 U/L)
「奈良宣言2023」特設サイト内では、リーフレットのダウンロードや、バッジ・ポスターの申込が可能です。
「奈良宣言2023」リーフレット
参考文献
[1]厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000194155_00004.html(2023年 9月現在)
[2]日本臨床検査標準協議会・基準範囲共用化委員会 編「日本における主要な臨床検査項目の許容基準範囲」https://www.jccls.org/wp-content/uploads/2020/11/public_20190222.pdf(2023年 9月現在)
[3]日本肝臓学会「奈良宣言特設サイト」https://www.jsh.or.jp/medical/nara_sengen/(2024年 1月現在)
[4]大塚製薬「減酒.jp」https://gen-shu.jp/(2023年 9月現在)
企画・制作:保健指導リソースガイド
提供:大塚製薬株式会社
SL2411005(2024年11月改訂)
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「奈良宣言2023」と保健指導現場で注意したいこと」もくじ
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