産業保健専門職育成現場レポート
③日本産業保健師会「新任期産業保健師養成研修」【後期】
産業保健師の視点で企業を見るということ
講義「新任期保健師としての基本とあるべき姿」(講師:岡田睦美氏)
グループワークが続いたが、ここで一度、会長の岡田氏による講義が行われた。
岡田氏は、学びの期間である「新任期」に身に着けてほしい姿勢として、「自分は保健師としてどうあるべきか」をしっかり考え、自事業所の中での立場や求められていることは何かを理解することが大切であり、そのうえで企業の方針に基づいて現状を分析・課題を見出すことや、他部門を巻き込んでいく力、全体を俯瞰する力を身に着けてほしいと語った。
そして将来は、「産業保健師としての基本的マナー」×「継続的な学び」×「経験を積む」ことで実践力を身に着けた保健師として活躍してほしいと、次世代に向けてエールを送った。
グループワーク3「産業保健師の役割と視点」
研修最後のディスカッションとして、「産業保健師」とはどのような視点をもち、その役割を果たすべきなのかが討議された。
会社全体の健康を考えるためには一人で考えるのではなく、人事や上司と話し合い、「1つのチーム」として、方向性を決めていくことが大切といった意見や、これまでの経験から三次予防に目を向けてしまいがちだが、一次・二次予防の視点を持つことが重要だと気付いたという意見が挙がっていた。ディスカッションを通じて、今後の課題が見えてきた様子が窺えた。
参加者各自の思いが込もった意見が出され、今回のレポートでもたびたび登場している「産業保健師の視点から企業を見る」ということについて、"研修の集大成"らしい闊達な議論が繰り広げられた。
産業保健師としての仕事の意義とは
長時間に渡った前期・後期研修のフィードバックとして、最後に講師陣がコメントを述べた。
日本産業保健師会 副会長の椎葉倫代氏は、直前のディスカッションで発表された「産業保健師の仕事は、いつかAIにとって代わられてしまうのではないか?」という現代ならではの意見を引用し、そういった新しい視点を持つことはとても大切であるとし、デジタル化が促進される時代だからこそ「人が行う保健指導」の意義を考え、業務に取り組んでほしいと語った。
また、同会理事の亀ケ谷律子氏は「分からないことを分からないと伝えられることは、とても素敵なこと」とコメントするとともに、健診を例に、「100%受けさせるのが当たり前」とする自分の上司と、受ける気の乏しい対象者の間で板挟みになることもあるが、そのような状況下でやり遂げた「100%」の数字は単なる結果ではなく、自分が達成したい次の企画や計画、上司への提案材料として使える「価値ある数字」になっていくと語った。
震災の影響で今回惜しくも不参加となった1名を含めた全参加者に激励の言葉が送られ、後期研修は幕を閉じた。
* * *
日本産業保健師会の新任期産業保健師養成研修は「自分自身のキャリア」「産業保健という仕事」の両側面を体系的に学べる有益な研修である。
特に、前期研修と後期研修の間に、自分の仕事(実践)を通じた「課題」に取り組める利点が大きい。研修で新たな視点を学んだうえで、自分や自組織の「課題」に対して向き合うことで、より一層、産業保健に対する理解が深まり、参加者が課題や目標を明確にしてディスカッションができていると感じられた。
事業所や組織の評価として「社員の健康」の意義が高まる現代、産業保健職が活躍する場は今後さらに広がるだろう。産業保健職の価値を向上させるためには、一人ひとりのスキルアップが不可欠である。
産業保健職の研修機会は少ないことが課題だが、自身の求める研修を見つけることができた際には、ぜひ積極的にご参加いただきたい。
参考文献
[1]令和2年度事業場における保健師・看護師の活動実態に関する調査報告書(労働者健康安全機構)(2023年12月現在)
「一般社団法人 日本産業保健師会」について
「一般社団法人 日本産業保健師会(旧称「産業保健師活動研究会」)」は、産業保健師の職能団体として2008年3月に設立されました。職域において、労働者や事業者の健康ニーズに組織的に応えるため、産業保健師の力量の向上と法制化をはじめとした活動基盤の強化を目的として活動しており、正会員として435名が所属しています(2022年3月末現在)。
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