業界キーパーソン直撃インタビュー保健指導のみちしるべ
【特別編】 データヘルス計画セミナー

データヘルス計画、健康経営、コラボヘルス、保健事業の新たな挑戦!講師コメント(3)

■浅野 健一郎氏
 (株式会社フジクラ 人事・総務部 健康経営推進室 副室長)
健康管理事業を推進する上で苦労した点を教えてください。

 健康管理事業と言う言葉自体に違和感というか、私たちの活動は管理を目的や手段とした活動を行っているのではないということをはじめに申し上げておきたいと思います。

 その上でフジクラが健康経営の視点から新しい取り組みを開始するにあたり苦労した点については、先のセミナーでお話しした通り、想定外の様々な壁に阻まれ苦労しました。

 その壁以外で苦労している最大の課題の一つは、「結果を出す」という点に尽きます。当たり前のことですが、この取り組みは、個人の方々が各自の状態に応じた健康行動を実施して、さらにその行動が目的に応じた成果を出してはじめて結果に結びつきます。つまり各個人の状況に合わせた健康行動をプロモートできてはじめてやっとスタート地点に立つことができるのです。

 このスタート地点に立つための準備として、その個人の様々な健康データの分析が必要となります。健康増進・疾病予防の活動は、個人の方が自分のリスクを的確に理解し、個人の健康に関する客観的なニーズと主観的なニーズのギャップを認識したうえで、正しいやり方で一定期間継続して活動をしなくては目指す成果を得ることができないことは皆さんがご存知のとおりです。

 なかにはこれまでの生活習慣を半永続的に変える行動変容が必要な方もいます。人間ですから様々な環境要因、心理要因が複雑に絡み合います。このように長期間に亘る取り組みでは、この複雑に絡み合う多様な要因の中から、その人にとっての障害となる要因をどれだけ取り除けるか?
 また、活動継続の原動力となる要因をどれだけ長期に亘り提供できるか?が私たちにできることです。

 私たちの取り組みはまだ始まったばかりで、これから長い期間個人の方と一緒に伴走してく必要が有りますが、始めの段階で個人の方々に合わせた活動を実践することにとても苦労しています。
 ただ少しずつではありますが、初期の成功事例、失敗事例も見えてきています。皆さんや私たちの様々な失敗事例や成功事例を広く共有化・ナレッジ化して皆が活用できる仕組みを構築していきたいですね。

健康管理事業を推進する上で成功した事例があれば教えてください。

 私たちの取り組みは経営の視点での投資対効果を従業員の方の活き活き度の向上による事業収益の向上が投入に対して一定率上回ることがあってはじめて成功という定義ですので、成否が分かるには最低3年はかかると思っています。
 まだ活動をはじめて1年ですので「これは成功した」という事例についてはまだありません。逆に「これは失敗」という事例もありませんが・・・。

 ここでは、もう少し手前側の中間パラメータで見ると、うまくいっている事例は少なからず有ります。例えば、高リスク層を対象とした重症化防止プログラムは、プログラム実施者の全ての人が劇的に症状の改善をしていますし、低リスク層対象の節酒プログラムでも、参加者は行動変容の定着に成功しQOLが向上につながっています。

 またポピュレーションアプローチで行っている歩数イベントも効果があり、皆さんの平均歩数は少しずつ向上しています。今後、これらの中間指標が最終的な事業収益向上に寄与するかどうかを見ていきたいと思います。

今後推進したい事業があれば教えてください。

 私たちの健康経営の視点からは、常に企業活動の活性化と効率化を目指し、常に活動の4つのしんか「進化」・「深化」・「新化」・「伸化」をさせていきます。この活動はPDCAを回してしんかさせていきますので、今の段階ではまだ新たな活動というのが明確に見えている訳ではありません。そこで、少し質問の意図からはずれるかもしれませんが、私が個人的に普及させたいと考えていることをご紹介します。それは、「クールBiz」「ウォームBiz」ならぬ「ウォーキングBiz」です。

 普段の生活の中のちょっとした健康行動が長い目で見たときの健康維持・増進に大きな効果を出すことを考えますと、デスクワーク時間の増大やオートメーション化が進んだ現代の就労環境からは、通勤や仕事での外出、移動時の時間を有効に身体活動に利用することが有効な手段の一つと考えられます。

 しかし、今のビジネスにおける服装や靴・鞄は、必ずしも歩行等の身体活動に適しているとは言えません。そこで考えたのは「ウォーキングBiz」です。通勤を含めたビジネスタイムに少しでも身体活動を増やすことができるような服装にすることで、歩く機会や歩く距離が増え、このちょっとした健康活動の時間を増やすことができれば、働く世代の人の健康に資するだけでなく、新たな市場創出にもなると勝手に考えています。

 運動に適した機能素材は、実際のデスクワーク等でも快適で、仕事の効率も上がりQOLの向上も上がりそうですよね。どうです、良いことずくめだと思いませんか?これから皆で普及させていきませんか?

コラボヘルスの成功事例を教えてください。

 何がコラボヘルスとしてのゴールや成功事例であるかを考えたときに、様々な見方が有ると思いますが、一つの有るべき姿は「一人のように動ける」ことが挙げられると思います。

 この一人の様に動ける状態を実現するには、その仮想の人の脳の機能、神経や血管の機能が統一性を持ってはじめて目的とする行動に向けた各器官の力が発揮されます。大分ひいき目であるとは思いますが、私たちの健康経営のスキームがこの一人の様に動ける状態の実現に大きな効果を出している成功事例の一つではないかと勝手に思っています。

 健保・企業を含めたオールフジクラの活動の協議・決定する脳の機能である各関係組織で構成される健康推進連絡協議会と、伝達や指揮命令系統の神経の機能を担う組織のライン代表者で構成される「健康推進委員会」、そして健康づくりを血の通った活動とするための血管の機能として実際に健康行動の主役である社員方々代表者の集まりである「健康推進サポーター会議」これらの会議体がさらに有機的に連携することにより、コラボヘルスの目的である効果的な施策を効率よく実行できるプラットフォームとなります。

 このスキームをうまく機能させるためのスパイスは2つあります。
 一つは当たり前ですが、ゴールイメージを共有すること、そして二つ目は、健康推進連絡協議会にこれまで健康とは全く関係のなかった部署(例えば経営企画室)を入れて、新しい視点と公平公正の視点をうまく混ぜ込ませることです。もし私たちと同じようなスキームの構築をお考えの方は、是非この2つのスパイスの導入を検討してみてください。

フジクラ(浅野様)が考える健康づくりとは何でしょうか。

 フジクラ(企業)が考える「健康づくり」とは、私たちの活動のゴールイメージである「お客様からは感謝され、社会からは高く評価され、社員は活き活きと働いている」を実現することにあります。

 もう少しブレイクダウンしてお話ししますと、世界保健機関(WHO)において「健康とは、単に疾病がない、虚弱ではないだけではなく、肉体的、精神的、社会的に完全に良好(正常)な状態である」と定義されていることは皆さん御存知の通りですが、この定義にある社会的側面での良好な状態を含めた実現を目指して、個々人の方の自発的な健康行動を会社が環境面から受動的にサポートするのみでなく、より能動的な組織的アプローチも行うことで、単に疾病に罹患することや社会的・心理的に孤立しない状態を実現するという範囲にとどまらず、その個人がより身体的・心理的に活性化した状態、例えば「仕事に誇りや、やりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得ている」状態を実現することにあります。

 疾病予防という視点での健康づくりは、疾病の罹患を基準としているので、極端な例でお話ししますと疾病の罹患確率がゼロになると活動は目的を達したことになります。

 しかし、健康づくり活動が社員の方々のQOL向上とより活性化された状態を目指す活動である限り、健康づくり活動に終わりは有りません。そして、個人の方がより活力を得ることにより、個人の集合体である企業全体のパフォーマンスが上がるのです。フジクラで働く仲間のマクロ的に見た健康度や活き活き度に応じて健康づくり活動の内容は変化(しんか)していきますが、フジクラの健康づくりに終わりはありません。

これから計画を作成する担当の方に対するメッセージをお願いします。

 データヘルスの考え方は、継続的にPDCAのサイクルを回していくことにあります。
 最初から自分たちの理解の能力を超えた詳細で緻密な分析を行ったり、過大な目標を設定したり、壮大な計画を立てると次のステップの「D」や「C」で行き詰まるというか、息切れをしてしまうと思います。つまり松竹梅の考え方にあるように身の丈にあった分析や目標、計画をたてることがこの取り組みを継続的に実施させる鍵であると思います。

 初年度から、いきなり専門の分析事業者に依頼して、結果的に自分たちの理解を超えた計画とするのではなく、自分たちで自らできる範囲の分析や目標、計画をたて、PDCAサイクルを回してみることをお勧めします。

 おそらく、今存在している保健事業の課題は皆さんの頭の中に既にイメージが有ると思います。少しデータを整理し、そのイメージが正しいかを定量的に確認して計画に落とし込むことで十分だと思います。また担当者の方は多くの場合、やるべき方法(手段)も分かっていると思います。それを信じて、まずは第一歩を踏み出してPDCAをまず回してみてください。

保健師、看護師、管理栄養士など専門職の方に、保健事業に関わる上でのメッセージをお願いします。

 特に職域を対象とした保健事業の中では、産業保健に関わる保健師・看護師・管理栄養士の皆さんの力は、非常に大きなポテンシャルを持っています。疾病予防に取り組む多くの個人の方は、自分のことを見守ってくれている人がいるという安心感が健康行動の原動力となります。

 専門性をもった皆さんが個人の方を見守っていけるかどうかが行動変容定着の成功率を大きく左右するのです。皆さんはこのデータヘルスを成功させるための中核となる存在です。

 現在はICT等を利用した様々な管理ツールが存在します。これらの管理ツールを利活用することで、個人の方が行動変容定着するまでの期間、効率的に見守りを行い、皆さんの専門性を活かしてこれからも一人でも多くの方の健康増進・疾病予防活動のサポートをお願いします。

配布資料
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講師からのコメント/配布資料
■データヘルス計画の推進について
 吉村 和也氏(厚生労働省 保険局 保険課)
配布資料

■動き出したデータヘルス計画への取り組み
 -財政・保健事業の大改革の歩み-
 中家 良夫氏(内田洋行健康保険組合 事務長)
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■日立健康保険組合における
 「データヘルス計画」策定と実行の事例
 根岸 正治氏(日立健康保険組合 保健事業推進課長)
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■株式会社フジクラの健康増進・疾病予防活動
 -社員が活き活きと仕事をしている会社を目指して-
 浅野 健一郎氏(株式会社フジクラ 人事・総務部 健康経営推進室 副室長)
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