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大豆のイソフラボンに肺疾患の予防効果 抗炎症効果を生かした治療法の開発へ
2019年09月04日
大阪市立大学は、大豆などに含まれるイソフラボンに慢性閉塞性肺疾患(COPD)の予防効果があることを明らかにした。イソフラボンの抗炎症効果を生かした治療法の開発が期待されている。
大豆のイソフラボンにCOPDの予防・改善の効果
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、主にたばこを吸う人に起こる肺の病気で、国内の患者数は約500万人と推定されている。進行すると咳や痰、息切れを自覚し、在宅酸素療法を必要とする患者もいる。COPDによる死亡者数は年々増加しており、WHOの報告では世界の死因第3位とされている。
COPD患者の肺では、マクロファージや好中球などの炎症細胞の増加、肺胞壁の破壊による肺気腫がみられる。現在の治療では、悪化した肺機能を改善させることを目的に気管支拡張剤の吸入を行うが、破壊された肺をもとに戻す有効な治療法はなく、予防が肝要とされている。
イソフラボンには抗炎症効果があり、大豆摂取によりCOPDの発症リスクを低減でき、息切れや咳、痰の症状を軽減できると報告されているが、そのメカニズムは解明されていなかった。
イソフラボンは、大豆製品に多く含まれるフラボノイドの1種。イソフラボンには抗炎症効果があり、大豆摂取によりCOPDの発症リスクを低減でき、息切れや咳、痰の症状を軽減できると報告されている。
COPDのほかにも、国立がん研究センターなどの調査によると、たばこを吸わない男性の場合、イソフラボン摂取量が多いほど肺がんの発症リスクが低くなることが判明している。
イソフラボンの多い大豆食品には、豆腐や納豆のほか、大豆の煮豆、湯葉、豆乳、おからなどがある。
イソフラボンが炎症細胞を減少し肺気腫を抑制
研究は、大阪市立大学大学院医学研究科呼吸器内科学の小島和也大学院生、浅井一久准教授、川口知哉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学雑誌「Nutrients」にオンライン掲載された。
浅井准教授らの研究グループは、喫煙曝露によりCOPDを発症したマウスにイソフラボンを投与し、炎症細胞の減少や肺気腫の抑制効果があることを確かめた。
研究グループは、マウスに12週間の喫煙曝露を行い、餌へのイソフラボン添加の有無がCOPD病態へおよぼす影響を検討。その結果、イソフラボン投与群では、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の好中球数が有意に減少し、肺気腫の程度を示すMLI(平均肺胞径:mean linear intercept)の上昇が抑制されることを確認した。
また、好中球性炎症を抑制した機序を検討するために、肺組織内の炎症を誘導するサイトカインやケモカインのメッセンジャーRNA(mRNA)やBALF中のタンパク質を測定したところ、肺組織中のサイトカインであるTNF-α(腫瘍壊死因子)やケモカインの喫煙曝露による増加がイソフラボン投与により有意に抑制されていた。
好中球は、マクロファージと同じく食作用を有する白血球で、COPDの気道炎症の中心をなす。また、サイトカインは、細胞間の情報伝達をしてり、炎症反応を促進するものがある。
イソフラボンの抗炎症効果を生かした治療法の開発へ
今回の研究結果によって、イソフラボンの投与により好中球性炎症が抑制され、肺気腫が予防されることが示され、疫学研究で報告された大豆摂取によるCOPD予防効果のメカニズムの一端が解明された。
「現在のCOPD治療は、気管支拡張薬などを用いてCOPDに冒されず残存している肺を有効に活用する治療にとどまっています。今回の結果は抗酸化物質による炎症制御、COPD予防効果を示したものです。COPDの症状でお困りの患者さんに新たな治療法をお届けできるように研究を進めます」と、浅井一久准教授は述べている。
大阪市立大学大学院医学研究科呼吸器内科学Isoflavone Aglycones Attenuate Cigarette Smoke-Induced Emphysema via Suppression of Neutrophilic Inflammation in a COPD Murine Model(Nutrients 2019年8月29日)
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