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第3期アルコール健康障害対策と支援の方向性 約304万人の現状から考える

 2025年9月22日、第35回アルコール健康障害対策関係者会議が開催され、2026年度から始まる「第3期アルコール健康障害対策推進基本計画」に向けた議論が進められた。

 同時期に久里浜医療センターが公表した全国調査では、アルコール使用障害が疑われる人が約304万人に上ることが推計された。
 働き盛り世代や若年層にも一定の割合で問題飲酒がみられる実態が明らかとなり、早期介入と支援体制の整備が課題となっている。

第3期アルコール健康障害対策計画へ 政策の方向性を議論

 9月22日に開催された「第35回アルコール健康障害対策関係者会議」では、2026年度から始まる第3期アルコール健康障害対策推進基本計画の策定に向けて検討が行われた。第2期計画(2021年度~2025年度)の評価を踏まえ、より実効性のある対策の構築を目指している。

 会議では、アルコール健康障害対策推進基本計画の改定の方向性や、不適切な飲酒の誘引の防止、取り組むべき重点課題などについて議論が交わされた。
 以前の会議でも断酒会での取り組み、依存症の親を持つ成人のヤングケアラーの実態、飲酒運転者への指導など多岐にわたる検討が行われてきた。今回も酒類関係事業者であるビール酒造組合からの資料が提出され、多様な関係者による協議を経て、次期計画の方向性が整理された。

第3期で重視される「当事者と家族」への包括支援

 特に次期基本計画では、これまでの「発生予防」「進行・重症化予防、再発支援・回復支援」という二本柱に加えて、「当事者および家族への支援」が新たな重点課題として位置づけられた。

 アルコール健康障害を「疾病」としてだけでなく、生活・家族・就労を含む包括的支援対象として捉える方向への転換である。背景には、依存症本人のみならず、家族や職場が長期にわたり影響を受ける実態があり、家族関係調整、就労支援、地域相談体制の整備など支援の範囲を広げる必要があるからだ。

出典:「第35回アルコール健康障害対策関係者会議 資料」資料1(厚生労働省、2025年9月19日)

定年前後で飲酒習慣が定着 男性では飲酒頻度が二極化

 9月1日には、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターが「令和6年度 依存症に関する調査研究事業 飲酒と生活習慣に関する調査」結果の速報を公表した。この調査は全国361地点20歳以上の男女8,000名を対象に、2024年8月から11月に実施されたものだ(面接調査:有効回答数4,300票、自記式アンケート調査:有効回答数4,265票)。

 本調査によると、過去1年間に飲酒経験がある人は男性75.2%、女性55.1%、飲酒頻度が週4回以上の人は男性33.4%、女性11.9%に上る。
 注目されるのは、男性の60代(44.2%)と50代(40.3%)、女性の40代(17.5%)と60代(16.2%)で高頻度飲酒者の割合が高く、働き盛りから定年前後の世代で飲酒習慣が定着している様子がうかがえる。
 その一方で「まったく飲まない」と回答した人は、男性全体で28.2%、女性は48.1%で、とくに40~70代の男性では飲酒頻度が二極化している傾向がみられる。

 飲酒量をみると、ふだん6ドリンク以上(純アルコール量60g以上、ビール中瓶3本相当)を飲む多量飲酒者が、男性11.2%、女性2.7%存在することがわかった。年代別では、男性は50代(15.1%)と40代(14.7%)、女性は40代(4.9%)と20代(4.8%)で多量飲酒者の割合は働き盛り世代で高かった。

推計304万人に上るアルコール使用障害 若年層にも一定の割合

 アルコール使用障害の評価には、AUDIT(アルコール使用障害スクリーニングテスト)が用いられた。その結果、過去1年間にアルコール使用障害が疑われる者の割合は全体で3.0%(男性5.4%、女性0.8%)となり、全国で約304.1万人と推計された。

 年代別にみると、男性では30代(7.3%)で最も高く、女性では20代(2.4%)が最も高い割合を示した。若年層にも一定の割合で問題飲酒が確認され、将来的な健康リスクへの懸念が指摘される。
 ICD-10診断基準における生涯のアルコール依存症が疑われる者の割合は、全体で0.6%(男性1.2%、女性0.2%)、全国で約64.4万人と推計された。

 なお、本調査と前回調査(2018年)のアルコール依存症が疑われる者の割合を比較した結果、男女ともに統計的に有意な差は見られず、「日本全体で生涯においてICD-10の診断に基づくアルコール依存症が疑われる者の割合が増えたとは言えない」とされた。

健康・生活への影響 不眠や社会的トラブルも

 アルコール使用障害が疑われる人では、さまざまな健康問題や生活上の支障が報告されている。AUDITの得点が15点以上の群では、「会社や学校を遅刻・欠席・欠勤した」が33.9%、「口論した」が45.5%、「物を壊した」が24.1%など、非飲酒者やローリスク飲酒者と比べて、職場や家庭での問題行動が目立った。
 また、アルコール使用障害が疑われる人の32.5%が「不眠症の可能性が高い」と評価され、睡眠障害との関連も明らかになった。

 とりわけ深刻なのは、アルコール使用障害が疑われる人の95.8%が「相談経験なし」と回答している点だ。専門機関で治療を受けた人はわずか4.2%に過ぎず、大多数が支援につながっていなかった。

現場での早期発見・介入が鍵 保健指導職への期待

 第3期アルコール健康障害対策推進基本計画の報告書案は、2025年末を目途にまとめられる予定だ。

 「飲酒と生活習慣に関する調査」が示した課題に対し、どのような対策が盛り込まれるか注目される。

 令和7年度におけるアルコール関連問題啓発週間(11月10日~16日)では、「アルコールの問題で苦しいのは、飲む人。と、家族と、子どもと、友達と。」をテーマにしたポスターが制作された。周囲の人たちへの支援がメッセージとして込められて、啓発が行われている。

 アルコール使用障害は決して「特別な人の問題」ではない。健診や保健相談の場において、支援を必要としながら声を上げられない人が確実に存在している。
 保健指導専門職は、生活習慣病やメンタルヘルスと並行してアルコール問題にも早期に気づき、寄り添い、つなげる力を持つ。「304万人」の現実を踏まえ、現場から「気づきと支援の輪」を広げていくことが、次期対策の成否を左右するだろう。


[保健指導リソースガイド編集部]
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