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腸内細菌がもつパワー 慢性腎臓病(CKD)を防ぐ作用が明らかに
2017年04月20日
東北大学と慶應義塾大学は、慢性腎臓病(CKD)と腸内細菌叢の関わりを解明し、腸内細菌叢のバランスのコントロールが慢性腎臓病の進展予防では重要であることを確かめたと発表した。
腸と腎臓が影響しあう「腸腎連関」
この研究は、東北大学大学院医学系研究科と慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究チームによるもの。
ヒトの腸管内には100兆個にもおよぶ腸内細菌が生息している。この腸内細菌の集団(腸内細菌叢)が、消化機能では分解できない食物繊維などを嫌気発酵により代謝し、さまざまな代謝物質につくりかえる働きをしている。
これらの腸内細菌叢が産生する代謝物質は、短鎖脂肪酸のような健康に有益なものもあれば、尿毒素のような悪影響を与えるものもある。
近年、腎臓病の病態に、腸内細菌叢を含む腸内環境が関わっており、腸管が腎臓と相互に影響を及ぼしあう「腸腎連関」があることが明らかになりつつある。
腸内細菌叢のバランスがCKDの進展に影響
糖尿病や高血圧などのさまざまな原因で発症する慢性腎臓病は、腎臓の働きが徐々に低下していく病気の総称。最後まで進行し末期腎不全に陥ると、透析治療が必要になる。
さらに、慢性腎臓病は脳心血管疾患の発症率を上昇させ、死亡率も高める。日本の成人の8人に1人が発症する国民病だが、進行した慢性腎臓病を改善する治療法は少ない。そのため、その病態を解明し、進行を抑制する新たな治療法が求められている。
慢性腎臓病の病態では、腸内細菌叢の変化など、腸内環境と腎臓が相互に影響を及ぼしあう「腸腎連関」があることが知られているが、腸内細菌叢がどのように関わっているか不明な点が多い。
腎機能が低下すると、本来尿から排泄すべきさまざまな物質が体内に蓄積する。このうち生体に悪影響を与えるものを尿毒素と呼ぶ。
今回の研究では、腸内細菌叢の関わりとして、尿毒素の産生という腎臓病にとって負の影響がある一方で、短鎖脂肪酸産生やアミノ酸代謝といった有益な作用もあり、その結果、腸内細菌がいない状態では腎臓病がより悪化しやすいということが明らかになった。
このことは腸内細菌叢のバランスをコントロールすることが、慢性腎臓病の進展を予防するために重要であることを示している。
腸内細菌がいないマウスでは腎機能障害が悪化
研究チームは、腸内細菌叢を有さない無菌マウスと有する通常飼育マウスを用いて、それぞれ腎不全モデルマウスを作成。その血液、尿、便を、生体内の低分子化合物を解析するメタボローム解析で網羅的に調べた。
その結果、腸内細菌叢の有無は腎不全時の血中での代謝物質に大きな違いをおよぼすこと、そして腎不全時に体内に蓄積しさまざまな毒性を示す尿毒素のうち、11種の尿毒素が腸内細菌叢の影響を大きく受ける「腸内細菌叢由来の尿毒素」であることを明らかになった。
さらに体内での代謝物質プロファイルを検討した結果、これらの腸内細菌叢由来尿毒素は、(1)100%腸内細菌叢由来の尿毒素、(2)腸内細菌叢と宿主の代謝由来の尿毒素、(3)腸内細菌叢代謝と食事成分由来の尿毒素、の3つに分類されることが判明した。
腸内環境をターゲットにした治療の開発に期待
たとえば、これまで腸内細菌叢の関与が知られていたインドキシル硫酸といった尿毒素は、100%腸内細菌叢に由来する物質であることを確かめた。
同様に腸内細菌叢によって産生され、動脈硬化や心筋梗塞などの血栓症の原因になるトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)は、腸内細菌叢由来に加えて食事成分由来のTMAOも、腎不全時に体内に蓄積することが明らかになった。
このように、腸内細菌がいない無菌の腎不全マウスでは、腎臓病の進展や心血管障害の悪化に影響する尿毒素類が減少したにもかかわらず、腸内細菌叢を有する通常マウスよりも腎機能障害が悪化しやすいことが判明した。
これは、腸内細菌叢は尿毒素産生という腎臓病にとっての「負の面」のみならず、何らかの腎保護的な「正の役割」も果たしていることを示している。
今回の研究では、腸内細菌叢は腎不全状態でも、腸管内での短鎖脂肪酸の産生やアミノ酸の代謝に大きな影響を及ぼしていることが明らかになっている。これらは、免疫制御や栄養シグナルを介して腎臓を保護する役割を担っているという。
今後は腸内環境をターゲットにした新たな腎臓病の治療法開発などの臨床応用への発展が期待される、と研究チームは述べている。
この研究は、東北大学大学院医学系研究科病態性制御学分野および医工学研究科の阿部高明教授と三島英換医学部助教、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任准教授(JSTさきがけ研究者)を中心とする研究チームによるもの。国際腎臓学会学術誌「Kidney International」に発表された。
東北大学大学院医学系研究科病態性制御学分野慶應義塾大学先端生命科学研究所
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