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毎日1時間のウォーキングが認知症の予防にも効果的 軽い運動でも脳の老化を減らせる
2019年05月08日
老化にともない増えるアルツハイマー病や認知症は避けられない病気と考えがちだが、若い頃から生活スタイルを改善すれば予防が可能であることが分かってきた。
少しの運動であっても、習慣化し毎日続けて、次第に量を増やしていけば、たとえ運動の強度はそれほど高くなくとも、脳の容量を大きくし、健康に年齢を重ねられるようになるという研究が発表された。専門家はウォーキングなどの運動を、毎日1時間続けることを勧めている。
少しの運動であっても、習慣化し毎日続けて、次第に量を増やしていけば、たとえ運動の強度はそれほど高くなくとも、脳の容量を大きくし、健康に年齢を重ねられるようになるという研究が発表された。専門家はウォーキングなどの運動を、毎日1時間続けることを勧めている。
軽いウォーキングでも続ければ効果がある
一般に脳は歳をとると萎縮し、その結果、認知機能が低下して、認知症のリスクが上昇すると考えられている。しかし、体を活発に動かしていれば、代謝性および血管性の危険因子を減らすことができ、健康な脳の老化につながる。
ウォーキングなどの運動を続けていれば、認知機能の低下や認知症を予防できる可能性があることを示した研究は多い。
しかし、認知症を予防するために、どのうような運動をどれだけ行えば効果的かはよく分かっていない。これまで運動は中強度以上でないと効果を得られないとみられてきた。米国の運動ガイドラインでも、ウォーキングなどの中強度以上の運動を週に150分間行うことを推奨している。
今回のボストン大学医科大学院の研究では、そのハードルは考えられている以上に低いことが示された。
研究チームは、米国で1940年代から行われている、心筋梗塞や脳卒中の効果的な予防策を調べるための大規模研究である「フラミンガム心臓研究(Framingham Heart Study)」のデータから、2,354人の平均年齢53歳の男女のデータを解析した。
その結果、ウォーキングなどの軽い運動に費やす時間が1日に1時間増すごとに、脳の老化は1.1年遅くなることが明らかになった。運動ガイドラインで推奨されている基準を満たしていない場合でも、運動は脳に良い効果をもたらすという。
ただし運動の量は多いほど良く、1日に1万歩以上歩く人では、1日に5,000歩未満の人に比べ、脳の容積が大きいことが示された。
関連情報
運動によりインスリン抵抗性を改善できる
体を活発に動かしている人は、心臓病、2型糖尿病、がんなど、さまざまな健康上の問題が起こる可能性が低いことが知られている。
運動をするとブドウ糖がすぐ消費され、血糖値が下がる。さらに運動を習慣化すると、血中のブドウ糖の量をコントロールするインスリンが効きやすい体質になる。加えて、運動には「肥満を解消できる」「血圧が下がる」「中性脂肪が減る」「腎臓病を予防・改善できる」など、さまざまな利点がある。
運動の脳への効果に、「インスリン抵抗性」が関わっていることが、最近の研究で分かってきた。
2型糖尿病の原因のひとつであるインスリン抵抗性とは、肥満や運動不足などが原因でインスリンが効きにくくなり、ブドウ糖が細胞に十分取り込まれなくなった状態のこと。
インスリン抵抗性は、身体的な作用だけでなく、脳にも作用する。インスリン抵抗性があると脳の記憶力な認知力などのパフォーマンスが低下するおそれがある。
高血糖により、酸化ストレスや炎症、糖を燃やした時にできる有害物である「終末糖化産物」などが増え、脳の神経細胞にダメージを与えることや、動脈硬化を促進することも、認知症の原因になると考えられている。
中年期の運動が決め手になる
「脳の老化を抑えるためには、とにかく体を動かすことを習慣にすると良いことが分かりました。軽い運動であれば続けやすく、目標を達成しやすくなります。多くの人にとって希望をもたらす結果になりました」と、ボストン大学医科大学院のニコル スパルタノ氏は言う。
スパルタノ氏らが過去に行った、平均年齢40歳の1,583人を対象とした研究では、認知症の原因となる脳の萎縮を予防するために、中年期の運動が決め手になることが明らかになっている。
中年期の運動能力が低いと、歳をとってからの脳の萎縮が起こりやすくなり、逆に中年期に運動をするようにすれば、高齢になってからの脳の萎縮や認知機能の低下を食い止められる可能性がある。
運動を開始すれば、脳の血流が増え、より多くの酸素が脳に運ばれるようになり、高齢になってからの認知力の低下を抑えられると考えられている。
運動を始めるのに遅すぎることはない
HbA1c値が高いほど認知機能が低下
英国のインペリアル カレッジ ロンドンが行った別の研究では、過去1~2ヵ月の血糖値の平均を反映する「HbA1c」の値が高い人ほど、認知機能が低下しやすいことが分かっている。
研究グループは、50歳以上の英国人を対象に実施されている大規模研究「英国縦断的高齢化調査(ELSA)」に参加した5,189人の男女を対象に調査した。この研究は、高齢者の健康・社会・福祉・経済についての状況を調べる目的で実施されている。
その結果、血糖コントロールが正常な人に比べ、数値が高い人では加齢とともに認知機能が低下していた。認知機能の低下はHbA1c値と直接的に関連しており、HbA1c値が高いほど認知機能が低下しやすいことが明らかになった。この関連は糖尿病と診断されていない糖尿病予備群の段階でもみられるという。
良好な血糖コントロールが認知症リスクを減らす
「糖尿病の人にとって認知機能低下ともっとも関連が深いのは、おそらく血糖コントロールです。血糖コントロールを良好に行ったり、糖尿病の発症を遅らせることで、認知機能の低下の進行を緩和できる可能性があります」と、研究者は述べている。
2型糖尿病の人が認知症の発症リスクを減らすために必要なのは、血糖コントロールに加え、健康的な体重の維持、健康的でバランスのとれた食事、アルコール摂取の制限、禁煙、運動の習慣化、血圧コントロールなどだ。
「認知症の有病者数は世界中で増えています。深刻な病気ですが、いまところ治療法や治療法はありません。認知症を予防するために、若い頃から運動を習慣として続けることと、社会的な交流を含む精神的な活動をすることをお勧めします」と、研究者はアドバイスしている。
Light, Physical Activity Reduces Brain Aging(ボストン大学医科大学院 2019年4月19日)Association of Accelerometer-Measured Light-Intensity Physical Activity With Brain Volume: The Framingham Heart Study(JAMA Network Open 2019年4月19日)
Diabetes and worse blood sugar control are associated with long-term cognitive decline(Diabetologia 2018年1月25日)
HbA1c, diabetes and cognitive decline: the English Longitudinal Study of Ageing(Diabetologia 2018年1月25日)
New research suggests link between diabetes and brain function(英国糖尿病学会 2018年1月26日)
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