オピニオン/保健指導あれこれ
産業保健師と保健指導

No.3 産業保健師の距離感

大神労働衛生コンサルタント事務所 代表
労働衛生コンサルタント(保健衛生)
保健師
大神 あゆみ
 さて、冒頭の言葉に話を戻します。この言葉を発した彼女に、私がきちんと向き合って相談対応したのは1、2回きりで、あとは、目線の合う場所にいたとしてもお互いに見て見ぬふりのような素振りでした。

 彼女の相談契機は「ひどい頭痛」からだったのですが、自然な話の流れから彼女が家族の大きなトラブルを抱えており、かなり混沌とした状況であること、仕事への影響はまだ出ていないものの、仕事の両立も気になっていることなどへの相談に流れが変わりました。

 時に彼女に目線を合わせて当事者性に身を置いてみたり、時に専門職として、その状況で優先すべき事項を整理し、解決につながりそうなキーになる人や社会資源を探しながら対話したプロセスでした。話の流れがお互いに思わぬ方向にいってしまって、気の重い頭を抱え込んだ時間でしたが、とりあえず、納得できる解決の糸口をいくつか見出すことができ、彼女は私と距離を置きました。

 その後、私も興味本位で彼女に声をかけたりせず、ただ、仕事への影響が出ていないか、間接的に見聞きしながら状況をみていました。人はそう簡単にその生活の重い部分を語るわけではなく、語った後にはどのような心情になるのか、その想像力を働かせる機会になりました。

 私たちは時に、"自己満足"から"したり顔"で、相談行為の延長の何気ない声掛けをしてしまう過ちを犯しがちです。

 冒頭の言葉で何より私の脳裏に残ったのは、御礼の部分ではなく、「また、どこかで」「お話ししたい」という個所でした。自律した未来志向の言葉で、関係の節度を保って語られた言葉が嬉しく響いたのです。彼女が自身の経験を同じ女性社員である後輩の育成に役立てている、と風の便りに聞いたのは、その後しばらく経ってからのことでした。

※本事例は実際の人物への配慮から、若干の加工を行い、抽象的な表現にとどめています。

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