オピニオン/保健指導あれこれ
一人職場の産業保健看護職のための自己育成計画によるキャリア開発への期待

No.2 新任期・中堅期スキルチェックリストの開発にあたって

産業保健看護マトリックス研究会 中堅期WG事務局
齋藤明子

新任期・中堅期スキルチェックリスト開発のステップ

 スキルチェックリスト開発当初は、臨床看護のキャリアラダーと同じく、新任期・中堅期・管理(リーダー)期の各100項目(計300項目)で構成する構想でした。しかし、臨床看護とは異なり、産業組織ではなかなか事例が集まりにくいこと、つまり第1回で紹介した「管理ポイント」が収集しづらいという現実問題に直面し、断念しました。

出典:『行動科学の展開』P.8(1978)より[1]

下位(新任期)では、基本的な現場業務遂行のためのT(Technical)スキルの配分が多く、上位になるに従いC(Conceptualの機能)が多くなっていく。

 2010年から開始したキャリア開発にあたり、既に公表されていた行政保健師や産業保健師のキャリアラダー等を参考にしました。当研究会では、産業保健看護職のキャリアを新任期(1~3年)、中堅期を経験4年以上の2段階としましたが、「なぜ2段階なのか」と疑問を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
 病院組織のように階層化された組織形態(病棟・外来・看護部・薬剤部等)や職位(主任や婦長、看護部長など)と異なり、産業(事業所等)の場合、対象数も臨床看護と比べて少ないだけでなく、管理期の職位や役割を担う人は、ごくごく一部の大企業等に所属する人に限られます。
 しかし、中堅期は、「中堅期 前期/後期」というように幅があるものの、産業組織は業種特性の幅が広く、業務内容も大きく異なるため、それぞれ獲得できるスキルも異なることが考えられました。そのため、「新任期」「中堅期」以上に細分化しないで取り組むことにしました。

新任期スキルチェックリスト開発にあたって

 新任期保健看護職(1~3年)の目標は、フォロワーシップと一部マネージメントの習得と設定し、必要なスキルとして、以下の6つの要素を定義しました。

産業保健看護職に必要なスキルを支える6つの要素

  • 自組織の方針やルールを理解し、立場や役割にあった行動をとれる
  • 業務の中でPDCAサイクルを組み立てられる
  • 定常業務を手順どおりに実施できる
  • 産業看護職として基本的な業務対応ができる(個別相談・集団対応・記録・情報取り扱い)
  • 基本的な業務の質を高めるための研鑽を積むことができる
  • 質の高い「報・連・相」(報告・連絡・相談)を徹底することができる

 スキルは、知識と経験の積算により獲得できるものであり、短期間で容易に獲得できるものと、長期間の経験の中で積み重ね、修得できるものがあります。
 「新任期スキルチェックリスト」開発後の検証過程で、大規模事業場に勤務する産業保健看護職(保健師50名、看護師4名)を対象に、経験年数や前職歴とスキルチェック獲得結果の関連を解析したところ、獲得したスキルの内容にかなりばらつきがあることが明らかとなり、単純に前職歴や経験年数だけでは測れないということがわかりました。

 「チェックリスト」のセルフチェックに取り組むことで、どのスキルを優先して身につけるべきか客観的な判断ができます。なお、難易度が高い割に早期での獲得が求められるスキルについては、意識的・計画的な教育が必要ともいえますが、一人職場が多い産業保健看護職は、系統的な自己人材育成が図りにくいということは先述のとおりです。

 完成したスキルチェックリストが「人材育成に活用できるか」「成長を支援できるか」といった観点で、15名の対象者に対し、新任期のチェックリストを活用した教育計画を実施しました。
 産業領域に入ったばかりでも、スキルチェックを行い、設定した目標に向かって取り組むことで、効率よくスキル獲得ができることが確認できました。現場での実践を並行して行うため、新たな課題も次々に生まれますが、そこで事例検討を行うことで、よりスキルが強化され、問題解決能力の育成にも寄与できます。
 チェックリストでの確認は、一般的には6カ月ごとで良いと思いますが、対象者の中にはご自身で毎月チェックされた新任期の方もいました。自分自身で成長の軌跡を確認したかったのではと思います。専門職の上司がいない場合でも、事務系の上司に相談しながら、組織における役割遂行を果たしていくことも検討できます。

 筆者自身も大規模事業所での経験後、独立してからは一人職場のため、これで良いのかと日々悩みつつ、手探りで自己育成を図ってきた一人です。このチェックリストは、現場の事例から抽出された産業看護職に身につけて欲しいスキルが網羅されていますので、是非使ってみてください。

中堅期スキルチェックリスト開発にあたって

 ある日、新任期のスキルチェックがすべて「A(一人でできる)」の人が出ました。当然ながら、次の段階(中堅期)の開発を急ぐこととなり、2017年2月~中堅期のスキルチェックリストの開発に取り組みました。

 中堅期の産業保健看護職の到達目標は「マネジメント」「リーダーシップ」の習得と設定しました。また、中堅期に必要なスキルとして、主に以下の7つの要素を定義しました。

産業保健看護職に必要なスキルを支える7つの要素

  • 組織の方針や目標を意識し、情報収集・整理し、企画・実施・評価ができる
  • 部門間調整を必要とする課題に取り組むことができる
  • 部下や組織内外の後輩の育成指導ができる
  • 組織の課題解決に向けて、根拠を持った提言ができる
  • 経営的視点で組織の管理ができる(予算・人・資源)
  • 組織全体を把握し、影響力を発揮できる
  • その他(専門職として備えておくべきもの)

 中堅期も新任期と同様、「管理ポイント」から質問項目をつくりました。さらに、管理ポイントを精査する過程で、中堅期に相応しい質問項目にするため、ぜひ身につけてもらいたいスキルを、質問項目ごとに入れました。

産業看護職が身につけるべき3つのスキルで構成

 新任期・中堅期のチェックリスト共に、産業保健看護職が身につけるべき3つのスキル(Technical・Human・Conceptua)で構成されています。完成したスキルチェックリストのスキル配分は以下のようになっています。
 新任期では、基本的な現場業務遂行のためのT:Technicalスキルの配分が多く、中堅期では、より上位のC:Conceptualの機能が多くなっています。組織機能モデルで見ても、統合や総務などの上位の機能の割合が、中堅期では増えています。

スキル別 新任期 中堅期
Cスキル 8 65
Hスキル 21 5
Tスキル 71 15
100 85

組織機能モデル 新任期 中堅期
統 合 18(18%) 20(24%)
総 務 10(10%) 16(19%)
教 育 23(23%) 12(14%)
予 防 24(24%) 23(27%)
業 務 25(25%) 14(16%)
100(100%) 85(100%)

チェックリスト・手引きはこちら

新任期スキルチェックリスト活用の手引き
中堅期スキルチェックリスト活用の手引き

チェックリストをご活用いただいてのご意見・感想、ご質問については、下記にお寄せください。
問い合わせ先:中堅期WG 事務局 齋藤明子(ohn.matrix★gmail.com)
※上記メールアドレスの★を「@」に変更してご連絡ください
※ご回答までに少々お時間がかかりますことをご了承ください。

参考文献
[1]P・ハーシー, K・Hブランチャード, D・Eジョンソン著, 山本成二, 山本あずさ 訳:入門から応用へ行動科学の展開(新版), 生産性出版, 2000.
[2]北尾誠英, 富山明子, 他: 産業看護問題解決事例演習第1版. 日本看護協会出版会, 1991.
[3]吉川悦子, 澤井美奈子, 掛本知里:保健師教育課程における産業保健看護に関する教育体制等の実態. 産業衛生学雑誌, 61(1): 16-23, 2019.
[4]北尾誠英: 看護管理のイノベーション第1版. 日総研出版, 2008.
[5]北尾誠英, 吉田浩也, 小澤幸夫:企業経営の生理学 デシジョンメイキングシステム. 垣内出版株式会社, 1990.
[6]Robert L.Katz: Skills of an Effective Administrator. Harvard. Business Review, 33: 33-42, 1955.
[7]柴田喜幸 編著: 産業看護職のためのキャリアアップに活かせる30のスキル. 産業保健と看護2022年春増刊, メディカ出版.
[8]畑中純子ほか: 特集2 産業看護職の教育体制. 産業保健と看護, 15(1): 49-78, メディカ出版, 2023.

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