No.3 "地域まるごとケア"と「住民力」
ノンフィクション・ライター
中澤 まゆみ
団塊の世代が75歳を迎える2025年に向けて、厚労省が構築を目指している「地域包括ケア」では、障害・高齢者を支える5つの資源の充実が提唱されています。中学校区、つまり全国12,000ケ所、人口1万人に対し医療・介護・予防・生活・住居の5つの資源を整備し、いつでも・どこでも・だれでも必要なケアが受けられるという、ユビキタスケアの実現を目指しています。これらを調整する機関として地域包括支援センターが想定され、とにもかくにも基本自治体では、医療と介護など他職種による「地域ケア会議」がスタートしています。
しかし、「住民」については、多くの自治体はまだ「お絵描き」の状態です。しかも、お絵描きのなかの「住民」と言えば、依然として「町内会、自治会、民生委員、NPOなど」止まり。高齢化の問題を抱えた「町内会、自治会」は、ほとんど動けていないのが現状ですし、高齢化に加えて数の少なさを抱えた「民生委員」も悲鳴をあげています。住民としての活動が期待できるのは「NPOなど」の部分ですが、その実態をきちんとつかんでいる自治体はごくわずかです。
H-PACの研究のリサーチ段階では、何人かの「地域包括ケア」の専門家を訪ね、直接、お話を聞きました。なかでも「目からウロコ」だったのが、長谷川敏彦さんのお話でした。
かいつまんで言うと、こういうものです。
「今日の医療の基礎は、19世紀後半、平均寿命が40歳のドイツで感染症の治療のために成立した。日本もこの医療の基礎を導入し、戦前・戦後にわたって「病院モデル」をつくってきたが、20世紀後半には人口の高齢化とともに需要との乖離を生じるようになった。それでも何とかだましだまし使って来たものが、疾病(感染症→慢性疾患)と人生の転換(高齢化)によりとうとう使えなくなった。現在の医療とその制度は19世紀の概念の枠組みから転換していない。今こそ意識を転換して、21世紀型の医療と制度をつくっていかないといけない。これは人跡未踏の実験となる」
20世紀型の「病院モデル(従来のキュア型医療)」から、21世紀型の「生活モデル(地域包括ケア)」への移行の必要性は、長谷川さんばかりではなく、『病院の世紀』を書いた猪飼周平さんをはじめ、さまざまな方が言及していることです。その新しいケアモデルを動かしていくキーワードのひとつは「多職種による地域連携」への「住民参加・参画」だと、私は考えています。
【開催案内(2014/1/18)】
第7回区民の視点で考えるシンポジウム「高齢社会の未来は住民力で」