No.3 多文化共生を目指す地域での地域看護専門看護師の役割
群馬県大泉町役場
持田 恵理
私が所属する自治体の群馬県大泉町は、人口4万人に対して約15%が外国籍と言った多文化が混在する町です。外国籍と言っても、時代によって、主要な国籍が変化してきました。
以前は、中央アジアの人々、今はブラジル、ペルーなど中南米の国籍の人が多く、そして、その国籍の種類も多様化して、単にポルトガル語の案内の作成や準備をすればよいという訳ではなくなってきました。
これだけ国際化が進み、多くの国へ渡航する日本人が増え、一方で海外から日本にくる外国人が増える現状の中で、この多文化を抱える環境は、これから先日本が抱える諸問題を先行して取り組む、ある意味、多文化問題先進地であると思います。
多文化の環境というのは、多くの人の価値観や考え方が存在し、そこには言葉の壁、制度の壁、そしてこころの壁があると言われています。その壁を取り除き、文化的な違いを認め合い対等な関係を築いてともに生きていく多文化共生の社会が求められています。この違いをうまく融合していくことはとても大変なことですが、これからの国際化の社会でとても大切なことであると考えています。
保健師活動でこの多文化から引き起こされる問題や支援の困難さは、言語の問題もさることながら、子育てに関する考え方の違い、医療や治療、検診に関する価値や考え方の違い、健康に関する認識の違い、生活の基盤の違いなどがあります。
私は、成人保健を担当していることから、検診を切り口に住民と接することが多くあります。
外国人の中には、病気の早期発見、早期治療を目的とした検診の概念を持ち合わせておらず、自覚症状が感じてから検診を受けたいという希望をする人がいます。自覚症状があり治療を勧めようとしても、当地域に一時的に居住している感覚で医療保険の手続きをせずにいるため、無保険で医療費を支払うことができずに治療を受けることができないという二重の苦しみを抱える人もいます。そして、就労状況が厳しく、仕事を休むと職を失うと言った危機感を抱えており、金銭面と日程の都合から受診行動がとれないといった外国人もいます。
私は外国人への支援として、医療の必要性をアセスメントして受診へと支援したくとも、受診するためのいくつもの大きなハードルを超えなくてはいけないといった困難を強いられる場面に何度も遭遇しています。
このような文化等の違いによる困難が生じた時の解決の糸口となるのが、倫理的なものの考え方です。倫理とは、良いか、悪いか考える道筋のことを言いますが、その支援対象者にとっても、そして、その対象者に係わる周りの立場を考え、支援する側にとっても、どれがいちばんよいことなのかを筋道立てて考え整理することが大切です。自分たちの文化を認めつつ、その対象者の文化も認め、すりあわせをしていくことがそのプロセスで重要と考えます。
倫理原則で考えると、先ほどの事例では、無理に医療にのせることが出来ないので(無危害の原則)保健師としてその対象者が主体的に医療を受けたいという気持ちを支え、医療保険の加入を勧め、医療機関の選択、日程調整など自分で出来ることを見つけ(自律尊重の原則)、そして、医療で心身の健康度を上げる事が可能であると判断された場合、医療ではどのようなことが可能かどうかを伝え、奨めること(善行の原則)、という考え方を基に、支援していくことができます。
このように倫理的な考え方を仲間の保健師と共有し共に考えることも、地域看護CNSの大きな役割です。多文化共生を目指す環境、多くの文化的な問題を背景とした諸問題の解決は、より多くの倫理を考える機会に恵まれることを意味します。倫理的な課題を見つけ、その方法が解決に進むようにサポートすることは、地域看護CNSの出番です。これからもこの出番が多くなると思っています。
【関連リンク】
専門看護師(Certified Nurse Specialist)とは(日本看護協会)
資格認定制度について(日本看護協会)