産業医・保健指導スタッフによる取り組み
No.2 参加者同士の共感が、飲酒行動改善につながる
提供 大塚製薬株式会社
3回にわたるグループ指導で減酒につなげる
初年度の2017年はどのように取り組みを始められましたか?
守田まず健康診断の際に、危険な飲酒や有害な飲酒をしている人をスクリーニングするテスト「AUDIT」を実施しました。得点が15点を超える人を対象に、3回に分けて短時間(60分前後)のグループ減酒支援を実施する旨を案内しました。
2017年は新型コロナウイルス感染症の影響がなかったので、3〜6人程度のグループごとに保健師1人が付いて対面で集団指導できました。参加は任意ですが、対象者の約7割にあたる128人が初回の集団指導を受けました。
吉田初回にしては高い割合で集まってくれたと感じました。
「お酒に強い」とご自身で思われている方を指導するのは難しくはないですか?
吉田AUDIT(図1)で対象者となり、声をかけると「自分は大丈夫」と拒否される人も中にはいます。でも「健康推進室の方針でやらせてもらっています」ときっぱり伝えると、素直に減酒支援に参加してくれました。
図1 AUDIT質問項目/回答(久里浜医療センター「AUDIT」より)[1]
AUDITの結果で、15点以上を対象にした理由を教えてください。
守田厚生労働省の研究班がまとめた保健指導におけるAUDITと減酒支援(ブリーフ・インターベンション)の手引きでは、AUDITの結果が8~14点だった人には減酒支援で対応する一方、15点以上の人はアルコール依存症が疑われるため「専門医療機関の受診につなげる」とされています。しかし、15点以上の人でも通常の業務がこなせているのであれば医療機関ではなく職場での減酒支援が可能というのが杠 岳文先生(肥前精神医療センター院長)らの研究仮説であり、15点以上の人をまずは対象とすることとしました。
実際に15点以上を対象に取り組んで介入の効果は出ていますし、15点を超えているからと言って専門医療機関へつなげなければいけないほど、深刻な状態の人はほとんど見受けられませんでした。逆に8〜14点の人を簡易介入の対象にすると、対象が大人数になり過ぎてしまうので、15点以上を介入の目安としました。
具体的にどのような減酒支援を実施したのか教えてもらえますか。
守田初回は映像やテキストの教材を使い、飲酒が心身や社会生活に及ぼす影響について学んでもらいました。そのうえで自身の飲酒習慣を振り返り、減酒の目標を設定しました。2回目は約1カ月後に実施し、減酒の取り組み状況を確認し、目標の見直しもしました。そして6カ月後の3回目で半年にわたる取り組みを評価し、自身の行動変化について確認する、という流れでした(図2)。
図2 減酒支援の流れ
参加者同士の共感と刺激で飲酒行動が改善
グループ指導を担当し、プログラムを進めていく中で気づいたことはありますか?
吉田1回目の後から飲酒日記を付け、自分の飲酒量を“見える化”してもらうと、半数以上の参加者から「自分がいかに飲んでいるのかがわかりました」という感想をいただきました。飲酒量を記録し、自覚するだけでも減酒には効果があると実感したのを覚えています。
また、参加者の方たちから好意的な感想をたくさんいただけたのですが、それは飲酒を否定しない指導を心がけていたからだと思います(図3)。
- 講義で健康被害について学び、このままの飲酒を続けていくとまずいと危機感を持った。
- 自分は女性で少々恥ずかしいなと思いながら講義にのぞんだが、グループで話すので、男性の視点、女性の視点で意見交換ができて良かった。
自分の発言に男性社員が「その視点はなかったので、勉強になった。」と不意に発言してくれて励みになったし、むしろ楽しい時間となった。 - 2回目の講義で、自分としては目標が達成できなかったので、落ちこみつつ、参加したが、できた部分を保健師から大きくほめてもらえて自信につながった。もう少し頑張れそうと思えた。
- お酒を飲むのは好きなので、だからこそ長く楽しみたいと考えるようになった。
- 毎⽇飲酒⽇記を付けることで、⾃分⾃⾝の飲酒量がはっきりとわかった。
- 講義で決めた⽬標を達成した時に⽇記に◎印を付けることがなんだか嬉しく、頑張れるようになった。
図3 グループワークや講義、減酒日記をつけた感想
同じ会社の人とグループ指導を受けるわけですが、参加者の様子はどのような感じでしたか?
吉田2回目のときには1回目に立てた目標の進捗状況を各自発表し、目標設定を見直すセッションをするのですが、さまざまな意見交換がありました。通常の業務でもディスカッションが多い会社なので、男女を問わず、参加者同士で積極的に話し合っていました。中にはシーンと静まり返ってしまうグループもあったのですが、私が最初の発言者を指名させていただくとそこから活発な議論が始まりました。
様子を見ていると、ほかの参加者の発言を参考にして自身の目標を見直すケースが結構あって、これがグループで指導するメリットだと身をもって感じました。
参加者同士で話をする中でお互いに刺激される様子があるのですね。
吉田そうだと思います。お互いに刺激し合って、自分の目標を見直すケースは本当に多かったです。ただ、参加者同士が仲良くなると、やはり根はお酒好きなので「今度一緒に飲みに行きましょう」となってしまうのが集団指導のデメリットですかね。笑い話のようですけれど。
守田参加者同士で「飲んじゃうよね」「接待の場から仕方ないしね」など共感から始まり、そのうえで飲酒量を減らすためのアイデアを出し合うなどするので、指導を受け入れやすかったのではないかと思います。たとえば「うまくいくコツ」として参加者同士で共有した「冷やしたビールを常備しない」「アルコールと同量の水を飲む」「飲み放題に行かない」などのアイデアは、自分も実践してみようと思う内容だったのではないでしょうか。
2019年度の取り組みを振り返り、手ごたえを教えてください。
守田最初は正直、本当に参加者の飲酒量を減らせるのか心配がありました。しかし結果を見ると、営業職は直近1週間の飲酒量が介入前と後では半分近くも減っていて驚きました。また飲酒量はビール(5%)なら350ml缶1本で「1.4ドリンク」、日本酒(15%)なら1合で「2.2ドリンク」※などと換算して飲酒日記に記録していきます。
最初はほとんどの参加者が純アルコール量について知識を持っていなかったと思いますが、記録を付けるうちに自然と覚えてくれました。数値が頭に入っていると多量の飲酒を自制するでしょうし、参加者同士で昨夜の飲酒についてドリンク数を用いて話をしているような様子を見ると、飲酒に対するリテラシーが向上したなと感じました。
※1ドリンク=純アルコール 10gを含むアルコール飲料
参考文献
[1]久里浜医療センター「AUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)」図1(2022年12月現在)
企画・制作:保健指導リソースガイド
提供:大塚製薬株式会社
SL2411005(2024年11月改訂)