オピニオン/保健指導あれこれ
企業におけるアルコール指導・減酒支援に対する
産業医・保健指導スタッフによる取り組み

No.3 減酒指導が企業・従業員の「健康」にもたらすもの

日本製鉄株式会社本社健康推進室
守田祐作、溝淵和美、吉田佳央

 提供  大塚製薬株式会社

コロナ禍でオンラインでの指導に変更

2020年はコロナ禍で対面でのグループ指導ができなくなり、オンラインでの個人指導に切り替えられたそうですね。

守田2020年に緊急事態宣言が初めて出されたとき、本社の従業員は原則として、出社は行わず自宅での勤務(テレワーク)が基本となりました。以来、産業医や保健師による面談はほとんどオンラインで実施しています。そのため、減酒指導もオンラインでの個人指導に切り替えました。以前は、健康診断の際にAUDITを紙でチェックしてもらっていたのですが、感染対策(密を避ける、共用物品を削減する)のため、質問紙が廃止され、AUDITの調査方法も工夫が必要でした。
 2020年はまず10月の全国労働衛生週間に合わせ、テレワーク時の健康をテーマにe-ラーニングを実施しました。e-ラーニングの中で、テレワーク時に飲酒量が増える懸念について触れ、受講後のアンケートでAUDITをチェックしてもらうようにしました。そこで拾い上げた方たちを対象に、オンライン会議ツール・Teamsを用いて保健師と1対1でオンライン面談を実施し、減酒支援をしました。その後、もう一度、1〜2カ月後にフォローアップの面談を実施しています。


前年度のグループ指導と比べて違いはありましたか?

吉田いきなり個別指導、かつオンラインになったので、最初はちょっとやりにくいなと思いましたが、メリットもたくさんありました。
 たとえばグループ指導のときは、参加者で一斉に飲酒日記をつけてもらったのですが、書き終わるまで時間がかかる人と、そうでない人がいます。その点、他者を待つ必要がない個別指導では、書き終えればすぐに次のセッションに入れるのがメリットでした。
 全体を通して、個々の状況に合わせた対応ができるのもオンライン個別指導の良さだと思います。一方、デメリットとしては、他の人の目標を参考に自身の目標を設定し直せないことや、議論する時間がないということでしょうか。

溝淵私は2020年春に当社へ移り、オンラインでの個別面談から担当しています。飲酒指導に限らず特定保健指導も同じですが、オンラインで実施するほうが相手から拒否されにくいように感じています。日程調整さえできれば、それぞれの都合で参加できますし、あらかじめ決めた時間内に終わるのも良いと思います。

複数の保健師で担当されるということで、どのように意志統一をされたのですか?

溝淵詳細なマニュアル(図1)を作っていますので、基本的にはそれに沿って対応し、情報共有も綿密に行いました。


図1 チームで共有しているマニュアル(クリックして拡大)

オンラインで指導する難しさはありましたか?

溝淵画面越しの表情を見るだけで、どこまで理解しているのか確認するのは正直難しいのですが、画面を共有して資料を見てもらいますので、内容はきちんとお伝えできていると思います。

減酒の取り組みを広げていきたい

コロナ禍で環境の変化もありました。懸念されたことはありますか?

守田2019年と2020年の両方でAUDITを受けた本社社員の得点を比べると、2020年の方が減っていました。コロナ禍で飲食店での飲酒が制限されたことが、飲酒量の減少につながったと思います。一方、一人暮らしをしていて、一人で飲酒する習慣のある単身赴任者などは、飲酒習慣が悪化する傾向があり、注意してフォローした方が良いと考えられました。
 また感染状況が改善され、飲み会の回数が元の状態に戻ったときには、飲酒量の増加に注意する必要があります。

溝淵飲み会が減ったので平日の飲酒量が減ったと言う話は私も耳にしています。逆に自宅での飲酒量が増えた、という方もいますので、その点は注意が必要です。
AUDITの結果で介入の対象になっていなかった従業員でも、健康診断を受けると明らかにお酒が原因で肝機能が悪化していると感じる方がいるので、注意してフォローしなければいけないと感じています(減酒指導とは別で保健指導対象としている)。

減酒の指導によって、参加者に変化や効果は出ていますか?

吉田取り組みの効果として、参加者から寄せられる一番多い声は「体重が減った」です。自制心が保たれカロリーの高いつまみを控える、締めの一杯を控える、むくみの改善などにより、飲酒量を控えれば自然と減量につながるのですね。減酒が難しい、という方には水やソフトドリンクなど「チェイサー」(飲んでいるお酒よりアルコール度の低い飲み物)をお酒の合間に飲んでもらうのですが、そうするとトータルの飲酒量が減り、減量にもつながっていくようです。
 次に多いのが「睡眠の質が良くなった」という声です。たとえば「週に1日は休肝日にする」という目標を立て、土曜日を休肝日とした人がいました。翌日は飲めないとわかっているので、最初は金曜日の夜遅くまで飲み続けていたのですが、指導をきっかけに、土曜日の朝に美容院の予約や、子どもの習い事の付き添いなど用事を入れ、金曜夜の飲酒量を減らしたり、まったく飲まないようにしたりした人がいました。その結果、睡眠の質が良くなった、という人がいましたね。

溝淵私が担当した中では新型コロナウイルス感染症にかかったため、隔離期間中は飲酒できなかった方がいました。結果的に、1週間以上飲まなくても大丈夫だということが自覚でき、かつ体調も良くなったことから、飲酒量を減らす効果を実感できたそうです。
 また、ほかの方からは、やはり「睡眠の質が上がった」「朝の目覚めが良くなった」という声を聞いています。

守田実は私も減酒指導にノミネートされたときがありました。これまでは休日の前夜に飲みすぎて翌日の午前中動けないなど行動に影響が出ることもあったのですが、減酒を心がけると翌朝から元気に行動を開始できる経験をしました。ほかの参加者からも「二日酔いが減った」という声があり、仕事の生産性アップにも減酒は役立っていると思います(図2)。

<飲酒習慣の変化>
  • 週2回休む癖がついた、休肝日ができた
  • アルコール度数を低いものにしたが、それでもよくなった(満足できるようになった)
  • 飲み会の席で量をコントロールするのは難しいので、休む日を作ったほうが量は減らせる
<体の変化>
  • 体重が減少した、血圧が安定した
  • 二日酔いなく、パフォーマンスが向上
  • もともと睡眠が浅いが、酒の量が増えるとますます浅くなるので、睡眠と酒量の関係を感じる
<うまくいったコツ>
  • 記録する:手帳に記録するようになった、ドリンク数や休肝日を意識して飲む
  • 飲み方の工夫:水を飲んでからビールを飲む(量が減る)、とりあえず飲む癖(とりあえず開ける)をやめる
  • 飲み会の計画:飲み放題に行かない、宴会のときは隣に座る人を選ぶ(注がれる人からは離れて座る)
  • 習慣を変える:冷やしたビールを常備しない、曜日を決めて休肝日をつくる

図2 参加者の声

今の指導の仕方と、今後の課題について教えてください。

守田緊急事態宣言が解除されてからも感染症対策でテレワークを利用する従業員は多く、現状でもおそらく出社率は3割~4割程度です。

溝淵感染症予防の観点から引き続き、対面ではなくオンラインで面接指導を続ける予定です。

守田一方、対面でグループ指導をしたときは、参加者が職場内で学んだことを話すなどして、知識が横に広がっていくのを感じました。現在はテレワークで、そのような知識の波及が期待しにくい課題があると思います。
 以前、労働衛生週間に合わせて、杠 岳文先生(肥前精神医療センター院長)に飲酒指導を受けた人のデータ分析をしていただき、取り組みの良好事例について講演をしてもらったこともあります。AUDITで指導の対象にならない従業員にも減酒について知ってもらう機会をオンラインで設定できないか、検討していきたいと考えています。

吉田感染状況が落ち着いてきたら、また集団指導も取り入れていきたいですね。オンラインでの集団指導のやり方も工夫次第で可能かもしれません。指導方法以外での気になる点は、同じ対象者がずっと介入の対象であり続けるケースが見受けられることです。指導を受けても減酒に結びつかない人に、どのような対応をしていくかは今後の課題です。

守田従業員の飲酒による健康被害は本社だけではなく、全社的な課題です。そのため健康推進室から発信しているメールや、ポータルサイトに減酒について定期的に掲載し、取り組みが広がってほしいと思っています。

溝淵これまでに減酒に取り組まれた方の評価をきちんとして、課題や今後の方向性も明らかにしていきたいです。

最後にメッセージをそれぞれお願いします。

守田お酒を飲むのが好きな方たちが多い職場ですので、最初はどこまで効果があるのか、不安もありました。しかし実際にやってみると、指導の場に参加するだけでも意識が変わるというのを感じました。みなさんお酒は好きですが、身体を壊してまで飲みたいわけはなく、上手な飲み方を知りたいのですよね。
 杠先生のチームのプログラムはパッケージとして整っていて、そのような参加者の気持ちに応えられる内容です。とにかく1回やってみると、その価値を感じていただけると思います。

吉田自分自身にとっても勉強になりましたし、結果も出たので、やはり良いプログラムだというのを改めて実感しているところです。飲酒が及ぼす肝機能への影響については、割と多くの方が知識を持っていると思いますが、認知症など脳への影響についてはあまり知られていません。プログラムでは資料をたくさん使い、飲酒と疾患の関連性について時間をかけて説明しますので、改めて飲酒による健康被害を訴える機会としては大変有効です。

溝淵職場における減酒指導は対象者が限定されますので、フォローできる体制さえあれば取り組みを進めやすいと思います。お酒はやはり嗜好(しこう)品ですから、禁止せず、上手な飲み方を学んでいただきたいです。糖尿病で透析が必要になった患者さんがよく「あのとき注意されたことを聞いておけばよかった」と言われるのですが、お酒による肝機能障害も同じだと思います。
 行動を変えるのは大変ですが、プログラムで学んだことを自身の飲酒行動に生かしてほしいと願っています。

企画・制作:保健指導リソースガイド 
提供:大塚製薬株式会社 
SL2403031(2024年 3月改訂)

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