No.2 患者さん自身の「変わりたい」動機を引き出し、「減酒」を促す
提供 大塚製薬株式会社
断酒ではなく減酒を呼びかける
アルコール依存症の方への減酒治療が注目されていますね。
吉本はい、アルコール依存症の治療目標を、いきなり「やめる」とせず、「減らす」から始めよう、という考え方が広がってきました。依存症の方だけではなく、お酒を飲む全ての人にとっても「まずは少し減らしてみませんか」というアプローチが効果的だと考えられています。
ガイドラインについても「お酒を飲むのをやめましょう」と呼びかけるだけなら、わざわざ作る必要はありません。そうではなく、基準を超えて飲んでいる人に「減らす努力をしませんか」と呼びかける際の指針になれば、と願って関わっています。お酒で身体を壊したい、という人はいないですよね。「長く、健康的にお酒と付き合っていくために、飲酒量を管理していきましょう」と呼びかけた方が、耳を傾けてもらいやすいと考えています。
飲酒量/アルコール低減外来を設置したきっかけについて教えてください。
吉本私はもともとアルコールの研究をしていて、診療では飲み過ぎの人や、依存症に至る前の人たちに節酒や減酒の指導をしていました。依存症の人には精神科などのアルコール専門医療機関への受診を勧めるのですが、実際は時間がかかる割になかなか受診いただけなかったのです。その紹介にかかる時間を治療に費やせば、患者さんの体調や状況が良くなるかもしれないのに、もったいないなと思っていました。
そのころ2018年に出された『新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン』[1]で、プライマリケア医や内科医がアルコール依存症患者の初期対応を行う必要がある、と明記されました。これを機に、タバコの依存症治療をした経験を応用し、2019年に北茨城市民病院附属家庭医療センター(茨城県北茨城市)内に「飲酒量低減外来」を設置しました。
精神科以外で、飲酒専門の外来を開設するのは全国で初めてでしたが、当初から反響が大きく、ニーズの高さを感じました。ちょうど飲酒量低減薬の「ナルメフェン」が発売されたタイミング で、患者さん一人一人の状況に応じた治療ができたのも良かったと思います。
2021年には筑波大学附属病院総合診療科、笠間市立病院(茨城県笠間市)にも「アルコール低減外来」を立ち上げました。
飲酒量/アルコール低減外来の実際
「アルコール低減外来」を受診されるきっかけはどのようなものが多いですか?
吉本ご自身でお酒をやめたり減らしたりしようとしたけれど、うまくいかない、という人が多い印象です。飲み過ぎで「仕事に影響が出ている」、「夜眠れない」など、何らかの支障があって来院される方もいます。
エリア的には茨城県内の方はもちろん福島、栃木、千葉、東京など近隣の都道府県からも来られています。過去には北海道や関西から電話で問い合わせを受けたこともありますが、通院するには遠いので、居住地の近くで減酒指導をされている医療機関をご紹介しました。
どのような流れで診療されていますか?
吉本酔っ払った状態でカウンセリングをしても効果が上がらないので、最初にアルコール呼気テストで酔っている状況かどうかを確認します。それからアルコール使用障害同定テスト(AUDIT)を実施し、飲酒の状態や依存の程度を把握してからカウンセリングという流れです。
カウンセリングでは、依存症や生活習慣病の診療現場などで使われる「動機づけ面接」という手法を取り入れています。これは医師が一方的に指示するのではなく、患者さんの声に耳を傾けて「変わりたい」という動機を引き出し、行動変容へつなげていく方法です。
AUDITの点数は何点ぐらいの方の方が多いですか?
吉本平均すると22、23点ぐらいで、9割以上の方が依存症に当てはまります。精神科へ行くほどではないけれど、自分ではどうしようもできないので病院にかかりたい、という意識の方が多い印象です。
問診ではどのような質問をされていますか?
吉本過去1週間の平均の飲酒量や、平日と休日それぞれの1日の過ごし方を聞いて、どのようなタイミングで、何時間飲んでいるかなどを確認します。短時間にたくさん飲んでしまう人はアルコールの血中濃度が急激に上がるので問題ですし、逆に長い時間、ずっと飲んでいるような人は1日の過ごし方や家族との関係性を考えると、日常生活に何らかの影響が出ているのではないかと懸念します。
お酒の種類も聞きますが、氷や水などで割って飲むタイプのお酒だとアルコール量は分かりにくいですね。そのため、例えば焼酎を割って飲んでいる人には焼酎の度数と容器の大きさ、何日ぐらいでなくなるかを聞き、割り算してアルコール量を計算します。過去にはウイスキー4リットルを1、2日で飲んでしまう、という人もいました。ウイスキーのアルコール度数は約40度なので、これは相当飲む人だと驚いた覚えがあります。
まずは現状を把握するのが目的ですから、お話を聞きながら評価を入れないよう努めています。飲酒量が非常に多い人、飲酒運転をしていた可能性が高い人など、医療者なら一言言いたくなる状況なのですが、すぐにコメントせず、まずは聞くことに徹します。聞いているのはすでに起こってしまった過去の話です。われわれは過去を責めるのではなく、これから未来に向けてどうするかを十分に議論する必要があるのです。
【動画】減酒外来入門 ~内科でできる 減酒外来の基本~
飲酒量低減外来の治療の流れと診察のコツを、吉本 尚氏が紹介する動画です。
制作・提供:大塚製薬株式会社、株式会社QLife
参考文献
[1]新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン作成委員会(監修)、樋口 進、齋藤利和、湯本洋介 (編集)「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」(2023年 5月現在)
企画・制作:保健指導リソースガイド
提供:大塚製薬株式会社
SL2411005(2024年11月改訂)