No.3 産業保健、地域医療、飲酒量/アルコール低減外来の連携 ―抵抗感なく受診できる環境に向けて
提供 大塚製薬株式会社
「飲酒量/アルコール低減外来」の増加が望まれる
治療方針はどうやって決めるのですか?
吉本一通りお話を聞いたあと、未来に向かって習慣を変えていこう、というような話をして、飲酒量を減らすためにどう行動するかを患者さんと話し合いながら決めていきます(図1)。習慣を一気に変えた方がやりやすい人もいれば、徐々に変える方がやりやすい、という人もいると思うのです。
会ったばかりの医療者よりもご自身の方が自分のことをよく分かっている、という前提で、取り組み方についてはまずは本人の希望を尊重します。もちろん、これまでさまざまな人を診てきた経験や専門的知見を踏まえて、私からアドバイスもします。
- お酒の量をいつから減らすかを決める。
→ 月 日から始める。 - 飲むときだけお酒を買う。買い置きしない。
- 1口飲んだら、コップを必ずテーブルに置く。
- お酒を飲みすぎてしまう相手と場所を避ける。
- 睡眠をしっかりとる。
- たくさん飲んだ場合そのことを周囲の人に正直に話す。
図1 「減酒のアイデア集」より抜粋[1]
服薬についても「飲酒量を減らせる薬もあれば、やめるための薬もあります。必要なら処方できます。一方で、薬を使わず飲酒日記をつけて頑張る人もいます、あなたはどのやり方が良いですか?」といった感じで希望をお伺いするようにしています。
カウンセリングの結果、性格や体質、依存度によっては、精神科などの専門医療機関を受診した方が良い方もいます。また、眠れないので睡眠前の飲酒が習慣化している人なら、まずは不眠治療をしましょう、となります。不眠を治さず減酒を進めようとしても、眠れない状態が改善されなければ結局またお酒に頼ってしまいますから。
どのようなお薬を処方されていますか?
吉本服薬して飲酒すると気持ちが悪くなり、飲酒行動をやめさせる薬もあります。ただ最近は、お酒を飲みたくなる気持ちを抑えて減酒につなげる薬があり、私は基本的にそちらを使っています。「服薬して飲んでも気持ち悪くならないから安心してください」と伝えつつ、「この薬を飲んで、これまでビール缶を5、6本飲まないと満足できなかった人が3、4本でいいかな、と思えるようになったという話は聞きます」といった事例も紹介しています。
飲酒量/アルコール低減外来を設置した効果は出ていますか?
吉本今まで診てきた患者さんの中で、断酒できた方は2割ぐらい、減酒できた方は5~6割います。中には入院する人もいますが、ほとんどが外来診療だけでうまくいっています。意欲を持って受診している方たちだという前提はありますが、やはりそれぞれ頑張って取り組んでいただいた結果として改善できている、と感じています。
北茨城市民病院附属家庭医療センターで120人、筑波大学で80~90人ぐらいの結果が出ていますので、思ったより多いという印象です。
飲酒量/アルコール低減外来がもっと広がるといいですね。
吉本そうですね。やはり市民の皆さまにとっては、相談できるところが近くにあると安心ですよね。また医療者の立場で考えても、精神科の受診には抵抗がある患者さんが多い中、一般的な内科の低減外来であれば受診を勧めやすいと思います。
私自身、なるべく早く診てあげたいという思いはあるのですが、通常の診療もあるため、どうしても1日に診られる患者さんの数には限界があります。筑波大学の方はお待ちいただく時間が長くて、現状は3~4カ月先の予約しか取れません。そういう意味でも、もっと受け入れてくれる医療機関が増えると良いなと思っています。
先日も、消化器内科の先生が減酒治療を始めたいということで見学に来られました。減酒治療に取り組む先生が増えるのは喜ばしいことです。産業保健スタッフからも、もっと紹介できる医療機関が欲しいと言われていますので、全国に飲酒量/アルコール低減外来が増えてほしいです。
産業保健の役割は大きい
社員の飲酒行動について、産業保健スタッフが気をつけるポイントはありますか?
吉本アルコール依存症の人は労働生産性が落ちるということがよく知られています。健診結果の数値はもちろんですが、社員の働きぶりで飲酒の問題に気づく産業保健スタッフもいるでしょう。またメンタルヘルスの悪化に、お酒が絡んでいるケースもあるので、意識して飲酒量を聞いていただけると良いと思います。
職域との連携についてご意見をお聞かせください。
吉本 お酒を飲んで不適切な行動をする社員については、職場で噂になっていても「そういう人だから」と黙認されているケースが多い気がします。昔は「盛り上げ役だから」という理由で許されていたかもしれませんが、最近は考え方も変わってきています。そのような社員を放置すると何か会社の信用を傷つけたり損害を与える可能性もあります。
実際、産業保健の現場から開業医、そして私たちのところへバトンパスされ、来院される方が多くいます。飲酒の問題に気づくきっかけが、出勤時のアルコール呼気濃度テストや職場での言動だったというのはよくあるケースで、その意味では産業保健スタッフはとても重要な役割を果たしています。
また、問題のある飲酒行動を変えなければ仕事をさせない、担当を外す、といった強い措置を検討できるのも産業医の力です。
産業保健スタッフの働きかけでも「減酒」はできますか?
吉本たとえば、採血してγ-GTPがどんどん上がってきて「これは飲酒量が増えているな」とわかる場合も、「これ以上上がってくるようだったら、仕事から外さないといけない」と伝えると、本人がものすごく努力してγ-GTPが下がるということも結構あります。
AUDITの点数で問題がない場合でも、産業保健スタッフから見て、「ちょっと困る」「何とかしてあげたい」と思う社員がいたら、私たちのような飲酒量/アルコール低減外来を受診するよう背中を押してください。「依存症ではなさそうだから、そのまま様子をみる」必要はありません。私自身は「本人や周囲の方が困ったら、いつでもどうぞ」と皆さんにお伝えしています。
事業所ではないのですが、勤務中の飲酒が時々問題になっている方に対して、周囲の方が出退勤時にお酒の匂いがしないかどうか、アルコール呼気濃度テストがゼロかどうか確認することで、日中の飲酒を止めることができたという事例もあります。勤務先がちゃんと協力してくれるということが、すごく力になると思います。
「健康経営度調査」[2]の回答項目に「飲酒習慣者率」「飲酒習慣の改善やアルコール依存症に対する具体的な支援」が加わっており、 飲酒の問題への対応は生産性低下予防、健康経営の観点からも、今後ますます重要になると考えています。飲酒量/アルコール低減外来を実施している医療機関と産業保健スタッフが今後より一層連携し、減酒の取り組みにつなげていければと思います。
参考文献
[1]依存症対策全国センター「軽症依存症向け短時間外来治療の手引き ABCDEプログラム」参考資料④減酒のアイデア集 https://www.ncasa-japan.jp/pdf/document27.pdf(2023年 5月現在)
[2]日本経済新聞社「ACTION!健康経営」https://kenko-keiei.jp/(2023年 5月現在)
企画・制作:保健指導リソースガイド
提供:大塚製薬株式会社
SL2411005(2024年11月改訂)