オピニオン/保健指導あれこれ
飲酒量/アルコール低減外来で減酒をサポート

No.1 国内の飲酒を取り巻く状況と「飲酒ガイドライン」

筑波大学医学医療系 地域総合診療医学 准教授
吉本 尚

 提供  大塚製薬株式会社

飲酒量の増加、コロナ流行の影響も

国内での飲酒を取り巻く状況について教えてください。

吉本新型コロナウイルス流行下では行動制限や外出自粛の影響を受け、ビジネスパーソンにとっては接待や歓送迎会等での飲酒機会が減りました。そのため飲酒量が減った人がいる一方、在宅勤務で逆に飲酒量が増えた人もいて二極化が進んだ印象です。
 実際、2021年の調査(図1)で、アルコール性肝疾患による死者が6千人を超えたことが分かりました。コロナ前より1割増えた結果で、コロナ下のストレスで飲酒量が増えた人もいたのではないか、と考えられています。

図1 
図1 アルコール性肝疾患による死者数(厚生労働省「人口動態統計」より作図)[1]

 その後、“ウイズコロナ”“アフターコロナ”の時代になって制限が緩和され、外出先での飲酒機会も増えているため状況を注視しているところです。飲酒運転や、在宅勤務で仕事中に飲めてしまう状況も気になるところです。

厚生労働省による令和4年度「アルコール関連問題啓発週間」のポスターは「女性と飲酒」をテーマにしていました。

吉本生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している人の割合を見ると、2010年と2019年の比較で男性は15.3%から14.9%と、ほぼ横ばいなのですが、女性は7.5%から9.1%へ増加しました(図2)。女性は一般的に男性よりアルコールを分解する力が弱く、害が出やすいですし、飲酒が乳がんのリスクを高める、という点からも心配な状況です。
 妊娠中の飲酒は過去の調査では次第に減ってきていましたが、最新の状況が把握できていないので、状況を見ながら対策を進めていく必要があります。

図2 
図2 生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合の年次比較
(20歳以上、男女別)(平成22~令和元年)[2]

アルコール度数が9%もあるのにジュース感覚で飲みやすい「ストロング系チューハイ」が危険だと報道などで警鐘が鳴らされたこともありました。現状はどうなっていますか?

吉本アルコール度数の高いお酒は他にもあるのですが、購入してすぐに飲める缶チューハイで度数が高いものだと、あっという間に危険な飲酒になってしまいます。
 例えばアルコール度数9%で500mlの缶チューハイでは純アルコール量は36g。2本飲めばワインボトル1本相当ぐらいになります。9%の商品は含有アルコール濃度の高さから販売をやめるメーカーもあり、現在は7%の商品がよく売れているようです。

「飲酒ガイドライン」策定に関わって

消費者は飲酒量の目安があると気をつけやすくなると思います。吉本先生が(2023年3月現在)委員を務める厚生労働省の「飲酒ガイドライン作成検討会」[3]はどのような経緯で設置されたのでしょうか。

吉本2014年にアルコール健康障害対策基本法が施行されました。この中でアルコール健康障害対策推進基本計画を策定するよう定められ、第1期計画が2016年度から2020年度まで実施されました。続く2021年度から2025年度までの第2期計画では、基本的施策に「年齢、性別、体質等に応じた『飲酒ガイドライン』(普及啓発資料)を作成」と明記されました。
 これまでも飲酒について指針のようなものを厚生労働省が示すことはあったのですが、しっかりとガイドラインの形で出すのは今回が初めてになります。

海外でもガイドラインは策定されているのでしょうか。

吉本アメリカやイギリス、韓国、オーストラリアなど多くの国で策定されています。先日、オーストラリアのガイドラインの基準が厳しいとインターネット上で話題になっていましたが、見方を変えればガイドラインの内容はそれぐらい大きな反響を呼ぶ可能性があるということです。そのため専門家で内容を精査するだけでなく、パブリックコメントを集め、多くの視点を元に慎重に作られる計画となっています。

ガイドラインを作るうえで意識されていることや工夫されていることは何ですか?

吉本検討会のメンバー、外部の有識者の先生、それぞれにさまざまな意見があります。内容についても、飲酒量の目標だけを掲げた方が良いのか、それとももう少し踏み込んで、どうやってお酒と付き合えば良いか、どのように工夫して飲めば良いか、といった点も示すかどうか、など議論を深めています。知って、読んでもらうことが重要なので、シンプルな内容でまとめたい、という話も出ています。

ガイドラインの公表でどのような変化があると期待されますか?

吉本ガイドラインがなくても普段から飲酒に気をつけている人はいますし、逆にガイドラインがあっても全く意識せず飲酒する人もいるでしょう。ガイドラインによって100%全員が変わるわけではないと思います。
 しかし、例えば職域では、ガイドラインを参考にすれば、企業として社員の飲酒行動についてアドバイスしやすくなるはずです。そのような社会的な変化を期待しています。

どのような場面で活用されるようなものになりますか?

吉本基本的には、自分の飲酒量を確認するために使っていただくものになります。普段、アルコール量を気にせず飲んでいる方が多いと思いますので、ガイドラインで目安を示せば意識するきっかけになるでしょう。
 例えば食品を購入する際、カロリーが高い数値だと気になりますよね。同じようにお酒の缶や瓶にもアルコール濃度だけでなく、含有するアルコール量が目立つように表示されるようになってきています。その数値とガイドラインを参考に、自分が飲んだアルコール量を把握し、「今日はもうやめておこうかな」などと意識付けができるようになれば良いと考えています。


吉本 尚氏

参考文献
[1]厚生労働省「人口動態調査」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html(2023年 5月現在)
[2]厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」図38-1 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf(2023年 5月現在)
[3]厚生労働省「飲酒ガイドライン作成検討委員会」https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai_442921_00002.html(2023年 5月現在)

企画・制作:保健指導リソースガイド 
提供:大塚製薬株式会社 
SL2411005(2024年11月改訂)

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