多量飲酒者はコロナ禍を経て増えた?従業員との関係性が保健指導のカギ ―職域でのアルコール健康障害対策および飲酒に関する保健指導の実態調査
飲酒に関する「保健指導」が促進される・障壁になる要因
産業保健領域では、企業や事業所ごとに、さまざまな環境があることが推察されます。飲み会も頻繁に開催され「お酒を飲む人」がとても多い企業もあれば、まったく飲み会が開かれない企業もあるなど、千差万別ではないでしょうか。
本アンケートでは従業員個別の飲酒に関する保健指導をするにあたり、促進される要因や、逆に障壁となる要因もご回答いただきました。
従業員個別の飲酒に関する保健指導をするにあたり、促進される要因はありますか?<n=173>
※「当てはまる」「やや当てはまる」「どちらでもない」「あまり当てはまらない」「当てはまらない」の5段階で回答。
「当てはまる」「やや当てはまる」が多い上位5つ<n=173>
- 従業員と医療職の関係性が良好である:74.0%
- 職場の理解:71.1%
- 酒類の純アルコール量の表示:67.0%
- 職場のアルコール対策に関する関心:66.5%
- 職場の関係性が良好である:64.8%
飲酒に関して、個別の保健指導の実施経験がある方にお尋ねします。従業員個別の飲酒に関する保健指導をするにあたり、障壁と感じている要因はありますか?<n=173>
※「当てはまる」「やや当てはまる」「どちらでもない」「あまり当てはまらない」「当てはまらない」の5段階で回答。
「当てはまる」「やや当てはまる」が多い上位5つ<n=173>
- 従業員本人のニーズがない(本人が飲酒を問題と感じていない):87.3%
- 従業員本人が個人のプライベートな問題であると認識している:78.0%
- 職場のニーズの不足:68.8%
- 会社がアルコールは個人的な問題であると認識している:67.1%
- 時間がない:65.4%
職域における「コロナ禍」と多量飲酒者の変化
特に2020年の新型コロナウイルス感染拡大時には、「三密の防止」やリモートワークの普及、まん延防止等重点措置に伴う飲食店の制限をはじめとした、ライフスタイルのさまざまな変化が起こりました。そして2023年5月に「5類」に移行してから、1年半近くが経過しています。
産業保健領域で従事するスタッフの視点から、従業員の多量飲酒者の変化について、印象を伺いました。
産業保健領域での従事者に伺います。以下、3つの期間(新型コロナウイルス感染症流行前、流行中、流行後)で、従業員の多量飲酒者に変化はみられましたか? 主観的な印象で構いません。
2019年以前(新型コロナウイルス流行前)<n=173>
- 多量飲酒者が増えた
- 変化していない
- 多量飲酒者が減った
- 勤務していない
(単一回答)
気づいたことや問題点(一部紹介)
- 飲み会が多く開かれており、機会飲酒のみだとしても飲酒頻度が高い傾向にあった
- 飲酒量と飲酒頻度は、業種と相関し改善しづらかった
- お酒の付き合いを言い訳にする人が多くいた
- 若い世代では、飲酒は宴席や外食時にするもので、家呑みや晩酌というのは中年以降世代のもの、という感じであった
2020年~2023年5月(新型コロナ流行~5類移行前)<n=173>
- 多量飲酒者が増えた
- 変化していない
- 多量飲酒者が減った
- 勤務していない
(単一回答)
気づいたことや問題点(一部紹介)
- 外食や外の集まりの機会が減り自宅に籠るため、自分の好きなタイミングで寝落ちするまで飲むという、飲み方が増えた印象
- お酒の付き合いを言い訳にできなくなっていた。外出が難しく自宅で飲む人も多くいたが、そこまでお酒飲まなくてもいいのかも、と気づく人も多かった
- 従業員から話を聞くと、飲み会の減少で飲まなくなった人が増えた。もともと、飲みたいからと飲んでいる人は少なく、付き合いが多かった模様
- 機会飲酒の多い人は飲酒量減少、宅飲みが多い人は飲酒量増加、独居でアルコールや精神的な問題がある人は飲酒量増加に伴う精神障害の顕在化が特徴的だった気がします
- 家飲みが増えたとの風潮もあるが、やはり飲酒量で言うと減った印象が強い
2023年5月以降~現在<n=173>
- 多量飲酒者が増えた
- 変化していない
- 多量飲酒者が減った
- 勤務していない
(単一回答)
気づいたことや問題点(一部紹介)
- 行動制限がなくなり、従来の飲酒行動に戻りつつある。それまでの反動から人との交流が活発となり、飲酒機会が増えた印象。ただ、働き方の選択肢(在宅勤務、フレックスなど)により、飲酒への参加も個人の意思に委ねられ、周囲もみとめるようになった(強制しない)
- コロナ禍以降、在宅ワークが増え、そのまま飲み会の頻度が減っているよう。一日中外に出ないことで、買い物(酒類の)へ行く機会も減っているのではと感じている。
- 飲み会の機会が増えているようだが、同時に運動の機会も増え、ストレス発散の方法が分散されている印象。
- コミュニケーション促進のため飲酒の機会を会社が推進している(親睦会等)こともあり、会社全体で問題意識を持たないとハイリスク者の減酒にもつながらないと感じています
- ノンアルコール飲料の種類が増えて、飲めるけれど敢えて飲まない、というスタイルが推奨されるようになった
- コロナに関係なく、物価高でビール飲料が買えなくなり、低品質で安価な大ボトルの焼酎や梅酒を利用する者が一定数出てきて、アルコール摂取量は変わらない・あるいはやや増加傾向にあるという印象です
「飲酒」「アルコール」に関するトピックスより
保健指導リソースガイド特設ページ「アルコールと保健指導」では、減酒やアルコールに関するトピックスを紹介しています。記憶にも新しい「奈良宣言2023」や「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」について、ご回答いただきました。
(単一回答)
※「その他」の回答より:
- 産業医の判断で推奨を検討する
- 保健師として推奨したいが、医療機関によって判定基準がさまざまなことと、産業医指示で経過観察となると勧奨しづらいところがある
厚生労働省が今年2月に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しました。
本ガイドラインに関して、特に印象に残ったことがあればご記載ください(自由回答)
- 疾患ごとのリスクを上昇させる飲酒量の目安の提示。少量の飲酒でもリスクになると明記された点。
- 疾病別の発症リスクと飲酒量の表が指導でも使いやすい
- 性差による飲酒の影響
- 紛失物の発生等の過度な飲酒による行動面のリスク
- 「アルコールは飲まないにこしたことはない」という文言 など
(単一回答)
本調査では、9割の方が職場健診等で飲酒習慣を確認し、保健指導や減酒支援が実施されていました。保健指導リソースガイドを利活用されている方々は(先行研究に比べて)積極的な支援をされていることが見受けられます。
一方、健診以外でのアルコール対策は半数程度の実施に留まり、「本人のニーズがない(本人が飲酒を問題と感じていない)」ことが最も多い阻害要因でした。
職場全体へ平素から情報発信を充実させ、自身の飲酒行動を意識させることが重要です。
2004 筑波大学医学専門学群(現在、医学群医学類) 卒業
2004-2006 北海道勤医協中央病院 初期研修医
2006-2009 岡山家庭医療センター/津山中央病院 家庭医療後期研修プログラム
2009-2011 奈義ファミリークリニック 副所長
2011-2014 三重大学大学院医学系研究科 臨床医学系講座 家庭医療学・地域医療学 助教
2014-2018 筑波大学医学医療系 地域医療教育学 講師
2015- 北茨城市民病院附属家庭医療センター(兼任)
2018- 筑波大学医学医療系 地域総合診療医学 准教授
2022- 筑波大学健幸ライフスタイル開発研究センター センター長
保健指導リソースガイド オピニオン「飲酒量/アルコール低減外来で減酒をサポート」
筑波大学健幸ライフスタイル開発研究センター
企画・制作:保健指導リソースガイド
提供:大塚製薬株式会社
SL2411005(2024年11月改訂)
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