ニュース
iPS細胞から作った免疫細胞でがんを縮小 安全な再生医療の実現へ
2015年09月23日
ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った免疫細胞を使い、マウスのがんを小さくする実験に成功したと、東京大学幹細胞治療研究センターの研究チームが発表した。
がんを縮小する効果がより高い
iPS細胞はさまざまな組織や臓器の細胞に成長させたり、ほぼ無限に増殖させる能力を有していることから「万能細胞」と呼ばれている。
一方、体内にがん細胞ができると、がんを取り除こうとする免疫細胞の一種「キラーT細胞」が攻撃を始める。ただ、キラーT細胞はやがて疲弊し、がん細胞が増殖してしまう。
研究チームは今回の研究で、攻撃能力の落ちたキラーT細胞を取り出してiPS細胞に変えて育てると、キラーT細胞が若返り能力が回復することを確かめた。
実験では、iPS細胞を利用して作ったキラーT細胞を、がんを発症したマウスに投与した。その結果、免疫細胞の働きが活発になり、がんは20分の1ほどに縮小した。
体内のキラーT細胞を取り出してで増幅し、ふたたび体内に投与する「T細胞療法」と呼ばれるがん治療法に比べ、今回開発された手法はがんが縮小する効果がより高く、生存期間も延びたという。
より安全な再生医療の実現に向け大きく前進
また、iPS細胞から作製した細胞には、副作用の懸念もある。そのひとつは、投与した免疫細胞が暴走し、増殖に歯止めがかからなくなることだ。
研究チームは投与した細胞の異常な増殖を止める「ブレーキ」も組み込んだ薬剤を開発。iPS細胞の段階で、特定の薬に反応する「自殺遺伝子」を入れ、副作用があらわれたときにこの薬剤を投与し、活動をとめることができるという。
使ったのは「アイカスパーゼ9(iCaspase9)」と呼ばれる新しい遺伝子。特定の薬を投与すると、24時間後に80~99%のキラー細胞を細胞死(アポトーシス)に導き、始3日後から検出がほぼできなくなった。
開発した薬剤、他のiPS細胞やES細胞を利用した細胞療法にも応用可能で、より安全な再生医療の実現に貢献するという。
研究は、東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センターの中内啓光教授らによるもので、米科学誌「Stem Cell Reports」オンライン版に発表された。

掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2025 SOSHINSHA All Rights Reserved.


「産業保健」に関するニュース
- 2025年02月25日
- 【国際女性デー】女性と男性はストレスに対する反応が違う メンタルヘルス対策では性差も考慮したアプローチを
- 2025年02月25日
- 【国際女性デー】妊娠に関連する健康リスク 産後の検査が不十分 乳がん検診も 女性の「機会損失」は深刻
- 2025年02月25日
- ストレスは「脂肪肝」のリスクを高める 肥満やメタボとも関連 孤独や社会的孤立も高リスク
- 2025年02月25日
- 緑茶を飲むと脂肪肝リスクが軽減 緑茶が脂肪燃焼を高める? 茶カテキンは新型コロナの予防にも役立つ可能性が
- 2025年02月17日
- 働く中高年世代の全年齢でBMIが増加 日本でも肥満者は今後も増加 協会けんぽの815万人のデータを解析
- 2025年02月17日
- 肥満やメタボの人に「不規則な生活」はなぜNG? 概日リズムが乱れて食べすぎに 太陽光を浴びて体内時計をリセット
- 2025年02月17日
- 中年期にウォーキングなどの運動を習慣にして認知症を予防 運動を50歳前にはじめると脳の健康を高められる
- 2025年02月17日
- 高齢になっても働き続けるのは心身の健康に良いと多くの人が実感 高齢者のウェルビーイングを高める施策
- 2025年02月12日
-
肥満・メタボの割合が高いのは「建設業」 業態で健康状態に大きな差が
健保連「業態別にみた健康状態の調査分析」より - 2025年02月10日
- 緑茶やコーヒーを飲む習慣は認知症リスクの低下と関連 朝にコーヒーを飲むと心血管疾患リスクも低下