心血管腎臓病に克つために
腎機能低下に早期介入して心血管腎臓病を抑制する
冒頭に述べたように、心血管病と腎臓病はともに生活習慣を起点として密接に関連しながら進行する。その過程において腎臓から出る初期のシグナルとしてアルブミン尿があり、古くからマーカーとして使われている。しかし本日の話題はそのアルブミンよりさらに早期のマーカーであるL型脂肪酸結合蛋白「L-FABP」(Liver-type Fatty Acid-Binding Protein)である。
L-FABPはアルブミン尿よりも早く腎機能低下を捉えることが可能
L-FABPは近位尿細管上皮細胞に存在している蛋白質で、腎尿細管に虚血や酸化ストレスが加わると発現が増強する。この点は腎臓の構造上の変化が生じバリア機能が破綻した結果として出てくるアルブミン尿との違いである。具体的なデータをいくつか紹介する。
図3は同程度のアルブミン尿を呈している糖尿病性腎症と微小変化型ネフローゼ症候群を比較した結果だ。前者の予後は不良となりやすい一方、後者は急性期を過ぎれば後遺症なく寛解することが多いが、実際に組織障害スコアを比較すると前者が後者より有意に高い。そしてL-FABPも前者が有意に高値であり、尿中アルブミンの多寡では判断できない腎障害をL-FABPで判別可能であることがわかる。
さらにL-FABPを用いることで腎機能正常の時点から予後を予測できることも明らかになっている。図4は尿アルブミン陰性の1型糖尿病患者をL-FABPで四分位に分け経過を追った結果だ。ベースライン時のL-FABPが高い群ほど腎症の新規発症リスクが高いことがわかる。
AKIの早期診断や発症リスク、重症度判定にもL-FABPが有用
CKDのみならず急性腎障害(AKI)の予測にもL-FABPが有用との報告が多い。例えば、心血管手術を受けた患者の腎機能マーカーを複数同時測定し経時的に比較してみると、L-FABPはNGAL(Neutrophil Gelatinase-Associated Lipocalin)やNAG(N-Acetyl-β-D-Glucosaminidase)などに比較し、術直後の早期から有意に上昇することが報告されている21)。また造影剤腎症によりAKIを来した群は造影剤投与後にL-FABPが上昇するのみならず、投与前の時点で既にAKI非発症群より有意にL-FABPが高いとの報告もみられる22)。
さらにAKIの予後についても、ICU入室後14日間の死亡率との関連を複数のマーカーで検討したところ、L-FABPのROC曲線下面積は最も高値であったことが報告されている(図5)。
脳心血管疾患の発症リスクもL-FABPで評価できる
心血管腎臓病の観点からは腎機能との関連にとどまらず、脳心血管疾患との関連にも着目したい。
2型糖尿病患者をL-FABPで三分位に分け、透析導入+心血管イベントを複合エンドポイントとして追跡した結果からは、やはりL-FABPが高い群ほどイベント発生率も有意に高いことが示されている23)。さらに同様の結果は糖尿病の有無に関わらず認められており24)、L-FABPが腎障害の原因疾患によらずに広く心血管腎臓病のリスクを把握可能であることがわかる。
ガイドライン上のL-FABPの位置づけと保険適用
以上のエビデンスにより、L-FABPは既に各種疾患ガイドラインに取り上げられている。CKDにおいては有望なマーカーとして解説されており(表1)、AKIにおいては推奨レベルとエビデンスレベル も示されている(表2)。
推 奨
CKDの予後の指標として、尿蛋白および尿中アルブミンのフォローアップを推奨する。その他の尿中バイオマーカーとしては、α1ミクログロブリン、β2ミクログロブリン、L-FABPが有望である可能性がある。
推 奨
尿中NGAL、L-FABPはAKIの早期診断に有用な可能性があり測定することを提案する。尿中シスタチンCの有用性は限定的で明確な推奨はできない。
尿中NGAL、尿中L-FABP:
推奨の強さ 2
エビデンスの強さ B
尿中シスタチンC:
推奨の強さ なし
エビデンスの強さ C
もちろん保険適応もあり先生方にすぐにお使いいただける状況だ。具体的に、CKDを念頭におく場合は腎機能が低下する前の早期診断やリスク評価に適用され、薬剤性腎障害や敗血症、多臓器不全などでAKIを疑う場合にも適用される(表3)。
| 【測定内容】 | 尿中のL-FABPの測定(尿細管機能障害を伴う腎疾患の診断の補助) |
|---|---|
| 【主な対象】 | ① eGFR≧60の、断続的に治療を受けている糖尿病患者、糸球体腎炎などの慢性腎臓病が疑われる患者 ② 急性腎障害が確立されていない、薬剤性腎障害、敗血症または多臓器不全等の患者 |
| 【有用性】 | ① 腎機能が低下する以前の糖尿病患者に対して、本検査を行うことにより糖尿病性腎症の病期進行リスクを判別し、また治療効果の判定にも使用できる可能性がある。 ② 急性腎障害が確立されていない、敗血症または多臓器不全等の患者対し、治療転帰を含めた重症化リスクを判別することで、血液浄化療法などの適応判断に利用可能性がある。 |
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