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肥満や糖尿病になるとなぜ「骨格筋」が減少? 新たなメカニズムを解明
2018年08月01日

肥満や糖尿病の患者で骨格筋が減少するメカニズムを、京都医療センターや健康科学大学などの研究チームが世界ではじめて解明した。
肥満や2型糖尿病の患者では、「高インスリン血症」が起こりやすい。血中インスリン値の上昇とともに、骨格筋の減少作用をもつ分子である「マイオスタチン」の量が増えることが、骨格筋減少につながっているという。
肥満や2型糖尿病の患者では、「高インスリン血症」が起こりやすい。血中インスリン値の上昇とともに、骨格筋の減少作用をもつ分子である「マイオスタチン」の量が増えることが、骨格筋減少につながっているという。
骨格筋が減ると肥満や糖尿病が悪化する
「インスリン抵抗性」とは、インスリンの作用を受ける細胞の感受性が低下している状態。インスリン抵抗性は、それ自体が糖尿病の原因になるが、同時に、インスリンが効きにくくなったのを補うためにインスリンが多量に分泌され、「高インスリン血症」をまねく。
一方、骨格筋は体の30~40%という大きな割合を占めており、身体活動だけでなく、糖を消費してエネルギーをつくる役割も果たしている。骨格筋は、運動や代謝という点から身体活動を支えている、健康寿命を延ばすために非常に重要な部位だ。
骨格筋は重要であるにもかかわらず、加齢に加えて、運動不足、不健康な食事、さらには肥満や2型糖尿病などによって減少してしまう。肥満や糖尿病での骨格筋減少のメカニズムは詳しく分かっていなかった。
そこで京都医療センターや健康科学大学などの研究チームは、国内有数の肥満症・糖尿病コホート(解析集団)をもつ京都医療センターの日本人肥満患者を対象に、肥満における骨格筋減少のメカニズムの解明に取り組んだ。
マイオスタチンが骨格筋やインスリンと関連
研究チームは、肥満患者の身体組成(体重、腹囲、骨格筋量や脂肪組織量など)や血液指標(糖脂質代謝マーカーや炎症マーカーなど)を解析し、骨格筋の減少に関連する分子を探した。
その結果、骨格筋を減少させる作用をもつ分子「マイオスタチン」と骨格筋量やインスリン量との間に、重要な関連があることを突き止めた。
「マイオスタチン」は主に骨格筋で作られる分子で、通常は骨格筋が増え過ぎないように調節することで、身体活動の良好なバランスを維持する作用をしている。
膵臓で作られるインスリンは、骨格筋などに作用して糖の取り込みを促し、血糖値の調節に関わっている。
研究チームは今回の研究で、肥満患者において、血液中のインスリン量が多いほど血液中の「マイオスタチン」の量も多くなることを世界ではじめて明らかにした。
骨格筋を維持するためにマイオスタチンを調整
このことは、肥満の病態が進行してインスリン抵抗性が起こり、高インスリン血症になると、骨格筋を減少させる作用のある「マイオスタチン」の量が増えることを示している。
さらに、インスリン量と「マイオスタチン」の量の相互関係には、「マイオスタチン」を作る骨格筋の量は影響しないことも分かった。
つまり、骨格筋量が同じであっても肥満病態がより進展してインスリンの効きが悪くなっている状態では、「マイオスタチン」の量も増えており、骨格筋が減少するリスクがより上昇していると考えられる。
こうした悪循環により、動脈硬化症や心血管病、認知症などの合併症のリスクも上昇する。
「マイオスタチン」を分子標的として骨格筋維持をはかることで、肥満や2型糖尿病やその合併症(動脈硬化症、心血管病、認知症など)を効果的に予防する新たな治療法を開発できる可能性がある。
研究は、国立病院機構京都医療センター臨床研究センターの浅原哲子研究部長や、健康科学大学健康科学部理学療法学科の田中将志講師などの研究チームによるもので、「Diabetes Research and Clinical Practice」オンライン版に発表された。

国立病院機構京都医療センター臨床研究センター
Role of serum myostatin in the association between hyperinsulinemia and muscle atrophy in Japanese obese patients(Diabetes Research and Clinical Practice 2018年6月7日)
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