理化学研究所は、人工知能(AI)を用いて胎児の心臓異常をリアルタイムに自動検知するシステムを開発したと発表した。
胎児の「先天性心疾患」は出生前の早期診断が重要
生まれつき心臓の形と機能に異常のある「先天性心疾患」は、生まれてくる胎児100人に1人の割合で発症する頻度が高い疾患だ。
先天性心疾患の治療では、胎児期に早期診断することで、出生前から治療計画を立てることが重要となる。
近年、小児循環器内科や小児心臓血管外科の治療技術の進歩により、先天性心疾患の新生児に治療を施した際の予後が著しく改善している。
さらに、胎児期に診断され出生直後から1週間以内に治療を行うと、出生後に診断され手術などの治療を行った場合に比べ、治療成績が良好であるということも分かっている。
そのため、早期診断後に、産婦人科・小児循環器内科・小児心臓血管外科の協力のもと、出生前より綿密な治療計画を立てる必要がある。
心臓超音波検査は高度な技術が必要
しかし、胎児の心臓は小さく、複雑で動きが速いため、超音波検査での観察には高度な診断技術が必要とされ、検査者間で技術力に大きな差があるのが課題になっている。
また、昨今の日本における産婦人科医の減少・都市部への偏在による人材不足も相まって、地域間で受けられる医療レベルに格差が生じている。
今回の理化学研究所の研究は、「先天性心疾患」のいまだ満たされていない医療ニーズに応えるものだ。
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人工知能(AI)によりエキスパートと同じ診断が可能に
近年、急速に進歩している「ディープラーニング」(深層学習)に代表される「機械学習」の技術が注目されている。
機械学習に必要な正常データと異常データを十分に(それぞれ10万以上)集めることができれば、人工知能(AI)技術により、人間の能力を大幅に超える認識精度が実現可能で、一部の疾患ではすでに実用化されている。
正常胎児の心臓の構造には個体差が少なく、心臓の同じ位置に同じ弁や血管などの部位が存在する。
超音波専門医など胎児心臓超音波診断エキスパートは、重篤な症例ごとに、どの部位がどの位置に映るか、あるいは映らないかを熟知し、超音波動画像からその兆候を発見する。
先天性心疾患の見落としを防ぎ治療計画を立案
研究グループはこの点に着目し、超音波画像中に映る複数の物体の位置・分類を高い性能で判別できるAI技術「物体検知技術」を胎児の心臓の異常検知に活用できると考えた。
今回、研究グループは、アノテーション(意義づけ)済み教師データからの学習により、粗い超音波画像に対しても画像中に映る複数の物体の位置・分類を高い性能で判別できるAI技術「物体検知技術」を活用し、胎児の心臓構造の異常を自動検知する技術を開発した。
さらに、各部位の「確信度」を一覧表示することで検査を迅速化し、結果の把握・説明を簡便化する、新しい検査結果表示システムも開発した。
この研究の成果により、胎児の診断を支援するとともに、早急に治療が必要な重症かつ複雑な先天性心疾患の見落としを防ぎ、早期診断や綿密な治療計画を立案できるようになる可能性がある。
また、検査者間の技術格差や地域間の医療格差を埋めることで、周産期・新生児医療の発展に貢献すると考えられる。
地域間の医療格差や医師不足にも対応
今後、昭和大学病院4病院の産婦人科で実証試験を本格的に進め、数十万枚もの胎児超音波画像を追加取得しAIに学習させることで、スクリーニング精度の向上・実証と検査対象の拡大を図る予定。
さらに、2020年度までに富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」への適用を行い、クラウド、オンプレミス、超音波機器メーカーとの提携など、多様な形態でAIによる胎児心臓超音波スクリーニングの世界に先駆けた社会実装(早期臨床応用)の実現を目指すとしている。
研究グループは、「本システムの社会実装により、検査者のトレーニングやクラウド化による遠隔診断の実現で、地域間の医療格差の大幅な是正が行われ、医師不足に悩む周産期、新生児医療の発展を通して、さらなる安全な妊娠・出産の実現が期待できる」と述べている。
この研究は、理化学研究所革新知能統合研究センターがん探索医療研究チームの小松正明研究員、浜本隆二チームリーダー、理研AIP-富士通連携センターの原裕貴副連携センター長、昭和大学医学部産婦人科学講座の松岡隆准教授らの共同研究グループによるもの。
理化学研究所革新知能統合研究センター
理研AIP-富士通連携センター